召喚士

……様

保田

ん……

召喚士

勇者様~!

保田

この天女の如き、たおやかな声……聞くだけで癒される……

竜戦士

召喚に失敗して、死んじまってるんじゃねーの?

保田

失礼なことを言われている気はするが、快活で気持ちの良い声だ

召喚士

そ、そんなまさか……

聖騎士

死んだふりかもしれぬ。剣を突き立ててみるのはどうでござろう?

保田

凛として迷いのない声。このままでは本当に刺されかねない!

魔法士

ま、死んでたら死んでたらでぇ、実験材料にくださいな☆

保田

アイドルめいた可愛らしい声とは裏腹に、言ってることは恐ろしい……

このままではとんでもないことになりそうなため、重い瞼を開いた。

保田

はっ!

召喚士

お目覚めになられましたか! 勇者様!

目を開けると、蒼い髪と瞳が印象的な美しい女性が私の顔を覗き込んでいた。

ラベンダーのような、優しい香り。

出で立ちは何やらドレスのようではあるが、流行の「こすぷれ」とかいうものであろうか。

他の女性も同様である。

今日はハロウィンではなかったはずだが、何かのパーティなのであろうか。

疑問は尽きない。

召喚士

お体に調子の悪いところはございませんか?

保田

ふぁっ!?

ふいに額に柔らかな手を当てられ、情けない声を出してしまった。

もし、このような女性が私の妻であったら、私は仕事よりも家族サービスを充実させ、リストラに遭ったとしても、公園で無為な時間を過ごさずに、次の仕事を探していたかもしれない。

いや、そんなことはもはや夢物語ではあるのだが……。

しかしながら、久方ぶりに若い女性と話した高揚感もあって、私は大胆なセリフを言っていた。

保田

ええ、あなたのようなお美しい方に心配していただけるとは光栄の極み

召喚士

あらあら……

その女性はせわしなく自分の髪の毛を撫で付けている。

竜戦士

こいつ、ただのスケコマシなんじゃねー?

聖騎士

やはり、切って捨てるでござるか……

魔法士

死体は回収させてねぇ~☆

聖騎士

うむ、痛みは一瞬でござるよ

保田

い、いや、ちょっと待ちたまえ

金色の髪の騎士然とした美少女は笑みをたたえながら、ジリジリと間合いを詰めてくる。

腐っても鯛、私も学生時代には剣道部に所属しており、全国大会に進んだことがある。

そして、その経験から本能が叫んでいる。

「こやつ、出来る」と。

魔法士

あははは! じょーだんですってばぁ☆

聖騎士

え、ちょ、まっ! じょ、冗談でござるか!?

保田

ホッ

やれやれ、背中が冷や汗でじっとりと濡れてしまった。

魔法士

だってぇ、そんなことしたら、召喚士ちゃんが何するか分からないしぃ☆

竜戦士

そ、それもそうだな

聖騎士

確かに

召喚士

……

先ほどまでのふんわりした雰囲気はどこにやら、蒼い髪の女性は雪女のような冷気を漂わせ、3人の女性をねめつけていた。

召喚士

ところで勇者様?

保田

ふぁい!

ふいに蒼い髪の女性は私に向き直ると、変わらぬ笑顔で私の心をくすぐる。

保田

って、勇者……様?

ん? 私のことなのだろうか?

この私が、勇者……?

召喚士

はい、あなた様はわたしが召喚したのですよ

保田

償還……?

何か返済すべきもの……は、住宅ローンだが、もはや家も手放すことになるわけだが、それも違う。

召喚士

ええ、あなたには魔王を倒していただきたいのです

保田

間男を、ですか?

召喚士

いえ、魔王を、です

保田

……

魔王を倒す。

えっと、私が勇者で、勇者である私が、間男でなく、魔王を倒すために召喚された……?

保田

あの、ここはどこでしょうか?

召喚士

はい、ここは勇者様からすると異世界です

保田

……そう、ですか

落ち着け、私。

急速に湧き上がる動揺を抑えながら、努めて笑顔で問う。

保田

では、ここが異世界という証拠を見せて欲しいのですが……

召喚士

証拠、ですか……

蒼い髪の女性はしばらく考え込んでいたが、

召喚士

勇者様の世界には魔王はいませんよね?

と、当然のことを訊いてきた。

保田

そ、そりゃまあ……

召喚士

だったら、モンスターもいませんよね?

保田

ええ、おりませんよ

魔法士

魔法はあるのぉ~?

保田

ないです

竜戦士

ドラゴンはいるのか?

保田

いません

聖騎士

精霊のご加護はあるでござるか?

保田

……精霊ってなんでしょう?

皆、真面目な顔で訊いてくる。

私は徐々に自分の置かれている状況を理解し始めた。

すなわち、ここが元いた世界ではなさそうであるということを……。

召喚士

では証拠として、下級モンスターを召喚してみましょう!

竜戦士

お、おいおい! 本当に大丈夫かよ!

召喚士

大丈夫です。我、汝の力を求め訴えたり……

蒼い髪の女性は何やら一生懸命に呪文? のようなものを唱えている。

魔法士

さぁて☆

保田

……?

聖騎士

鬼が出るか、蛇が出るか

保田

それはどういう……?

召喚士

出でよ! スライム!






















一瞬、空間が光に包まれた。



































そして、一瞬で巨大な何かが目の前に立ちはだかっていた。

果たして、私は夢でも見ているのであろうか?

竜戦士

やっぱりな

魔法士

どこがスライムなのぉ?

聖騎士

どう見てもゴーレムでござるよ?

召喚士

はい、ゴーレムのスライム君です

蒼い髪の女性は非難されているようだが、当の本人は全く意に介していないようだ。

一方、私は認識していた。

保田

分かりました

保田

ここは紛れもなく異世界ですね

保田

ははっ、あははははっ!

もはや笑うしかない。

召喚士

信じていただけて良かったです

竜戦士

てめえら、和んでんじゃねーよ! 襲ってくるぞ!

保田

え?

気が付けば、まさにスライム君(=ゴーレム)の腕が私に振り下ろされる瞬間だった――。

―次回を待てっ!―

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