――聞きたくなかった言葉だった。
でもタックが言うからには、
何か根拠があるんだろう。
あの神父は――クロだね。
――聞きたくなかった言葉だった。
でもタックが言うからには、
何か根拠があるんだろう。
オイラ、ハッキリ見たよ。
神父が
死霊魔法(ネクロマンシー)を
発動させる瞬間をね。
2人の注意が逸れた瞬間、
指でコッソリと印を結んでた。
自然な動きで手際もいいし、
あれはかなり慣れてる感じだね。
しかも暗い場所だと
夜目がない限り、
なかなか気付かないよ。
そっか……。
やはりそうだったか……。
ゾンビどもが私を襲ってきた瞬間、
クロだと確信してはいたが……。
どういうこと?
アレスに渡した護符だが、
あれは私が作った偽物だ。
本物はここにある。
そう言って、
ミューリエは懐から護符を取り出した。
確かにそれは僕の持っているのと同じ護符だ!
よく見比べてみても、
違いがなかなか分からないくらいに似ている。
おかしいだろう?
護符を持っている私が襲われ、
偽物の護符を持っているアレスは
襲われなかった。
アレス、その意味が分かるな?
う……うくっ……。
あの男、いけしゃあしゃあと
『憎むべきは死者の眠りを妨げ
利用した者』などと言っておった。
横で聞いていて、
反吐が出そうになったぞ!
神父さん……。
僕は悲しくなって、思わず涙が滲んだ。
あんなに優しそうな神父さんが、
なんでこんな酷いことをするんだろう。
犠牲者だって出ているっていうのに……。
ゾンビだって眠りから起こされて、
無理矢理に働かされて……。
――命を弄ぶなんて絶対に許せないっ!
カネ儲けのためにやったのだろう。
アンデッド騒ぎを起こせば、
護符は確実に売れるからな。
人間ってどうして
ああいう最低なことを
平気でやるんだろうね~?
……あ、でもアレスは違うもんね。
『一部の人間』に訂正するよ。
神父さんを問いたださなきゃ!
あっ! 待て、アレスっ!
僕は我慢できなくて、宿を飛び出した。
夢中で走り、町外れの空き家へ向かう。
いつの間にか涙が出ていたのか、
目の周りや頬が風に当たって冷たく感じる。
くっ……。
僕は走りながら袖で涙を拭い、
神父さんのいる町外れの空き家へ向かった。
直接、真相を聞くために!
ドアを思い切り叩き、
キョトンとしながら出てきた神父さんに
僕は迫る!
神父さん、
なんでこんなことをしたんですか?
え? 何の話ですか?
僕、信じてたのにっ!
僕は宿で話していたことを神父さんにぶつけた。
その間に
後を追ってきたミューリエとタックが合流し、
3人で神父さんの反応を待つ。
…………。
……おい、神父。何か言えよ。
……バレてしまったのですね。
はい、全てキミの言う通りです。
これはカネ儲けのために
やったこと。
もはや言い逃れはしません。
大人しく村長さんに出頭します。
すみません。生きていくために、
どうしてもおカネが
必要だったのです。
今は深く反省しています。
だから許してくれませんか?
神父さん……。
神父さんは涙を浮かべ、悔いているようだった。
――うん、聖職者だもん。
やっぱり根はいい人なんだ。
頼みがあります。
どうか一緒に村長さんのところへ
行ってくれませんか?
私だけでは顔を合わせづらい……。
もちろんです。では行きましょう。
僕は振り返り、ドアの方へ向かって歩き出す。
でも――
その直後、僕は背後に変な気配を感じた。
……ん?
――っ!
何気なく振り向いてみると、
なんと神父さんが僕に向かって
メイスを振り下ろそうとしていた。
目は血走り、邪悪な笑みを浮かべている。
あの優しそうだった面影はどこにもない。
僕は何が起ったのか分からず、
棒立ちになったまま。
そっか……
僕はまた裏切られたのか……。
実に滑稽だ。
勇者の末裔がこんな弱虫とはね……
もうこんなやつ、放っておこうぜ。
斬るだけムダ。
さよなら、勇者様。
ジフテルさんたちのことを
走馬燈のように思い出した。
……そうだった。
みんながミューリエやタックみたいに
信頼できるわけじゃないんだ。
そのことをすっかり忘れて……
僕は相変わらず……お人好しのバカだ……。
あ……やられる……。
そう思った瞬間、
神父さんの動きがスローに見えたような
気がした。
死を覚悟し、僕は目を瞑る。
ガギィイイイイイィン!
金属同士が激しくぶつかる衝撃音!
目を開けてみると、
神父のメイスはミューリエの剣によって
受け流され、
虚しく空を切っていた。
チッ!
ついに本性を現したか、外道っ!
アレスに危害を加えるなぁっ!!
直後、
タックが素速く神父の足を払って転ばせた。
それを見るや否や、
ミューリエは神父を押さえつけ、
タックはどこからか取り出したロープで
彼をグルグル巻きにして拘束する。
ちくしょおっ! ガキどもがっ!
オイラたちが
隙を見せるはずないだろ?
最初からずっと警戒してたに
決まってるじゃん♪
アレスの優しい心を
踏みにじるなど、
絶対に許せんっ!
怪我はないか?
アレス~♪
う、うん……。
ありがとう……。
アレス、分かっただろう?
コイツはこういう人間だ。
…………。
くそっ! あともう少しで、
このガキをぶっ殺せたのにっ!
……くっ!
あなたって人はっ!!
怒りが頂点に達した僕は、
拳を強く握り、
神父の顔面めがけて振り下ろした。
ちっぽけで力のないこの拳に全力を込めてっ!
――ブンッ!
……っ!?
アレス……。
…………。
僕の拳は――
神父の鼻先に触れる直前で止まっていた。
……僕には……殴れない。
どれだけ腹が立ったとしても、
身動きの取れない相手に手を出すなんて卑怯だ。
それに殴ったって何も解決しない。
はは……やっぱり弱虫かな……僕……。
…………。
……ミューリエ、タック!
村長さんのところへ
この人を連れていこう。
僕は精一杯の笑顔を作り、
ミューリエとタックに声をかけた。
もしかしたら自分でも気付かないうちに
涙が出ていたかもしれない。
悔しさと悲しさ、
そして僕自身の情けなさで……。
だけど、2人になら涙を見られてもいい。
ありのままの僕をさらけ出せる。
だってかけがえのない、大切な仲間だから……。
……あぁ!
あいよ~☆
こうして僕たちは縛り上げた神父を連れ、
村長さんの家へ向かうことにしたのだった。
次回へ続く!