僕たちは村の見回りを始めた。


村人はみんなアンデッドを恐れているのか、
ドアも窓も完全に閉め切って身を潜めている。

家の明かりも全て消えていて、
恐ろしいほど静かだ。
僕らの小さな足音でさえもハッキリと聞こえる。

ただ、今日は満月なので、
ランタンの明かりと併せればなんとか物体が
視認できるのは幸いかもしれない。
見づらいには違いないけれど……。


それから何事もなく時間は過ぎていき、
少し眠気に負けそうになってきた時の
ことだった。
 

ミューリエ

……アレス! 気をつけろ!

アレス

えっ?

 
ミューリエの差し迫った声で、
僕は完全に目が覚めた。

慌てて周囲にランタンを向けながら、
目を凝らして警戒する。
 

神父

どうやら現れたようですね……。

 
神父さんの視線の先の方向から
人影が近付いてくる。

それは月明かりの届かない家の陰から
ヌルリと現れ、
ぐちょりぐちょりという
変な足音を響かせて歩み寄ってきていた。

ただ、動きはかなり鈍いようだ。
 

ミューリエ

アレス、
護符を肌身離さず持っていろ!

アレス

あっ、うんっ!

 
僕は護符を握りしめ、
人影の方をジッと見つめる。


そしてついに――そいつらは姿を現した。

1体だけじゃない。10体以上の腐った死体。
肉体は所々が崩れ落ちて骨が見えている。
服はボロボロ、髪はグシャグシャ。

しかもものすごい腐敗臭を漂わせていて、
途端に気持ちが悪くなった。

その見た目と臭いで、
思わず吐きたくなってくる。


こ、これがゾンビか……。
 

アレス

うぷっ!

神父

やはりゾンビでしたか……。

ミューリエ

神父、準備はいいか?

神父

もちろんです。
いつでもいけます!

 
神父は懐に潜ませていた
金属製のメイス(こん棒)を取り出して構えた。

そっか、聖職者は戒律で
刃物を使っちゃいけないことになっているから、
武器がメイスなんだね……。
 

ミューリエ

行くぞっ!

神父

彷徨える魂よ、
在るべき場所へ帰りたまえ!

 
ミューリエと神父さんは左右に散開して
迫り来るゾンビに向かっていった。

ヤツらは動きが遅いから、
避ける間もなく
ミューリエに斬り捨てられている。

神父さんの打撃を受けた相手も、
その場で崩れ落ちて動かない。
 

 
……僕も念を送って、
通じるかどうか試してみよう。
 

アレス

お願いです。
僕たちを襲わないでください。

アレス

…………。

アレス

あ……。

 
――手応えが全くない。

ゾンビたちが動きを止めそなうな気配は
しなかった。


それから何度も念じてみたけど、結果は同じ。
やはり僕の力はまだ弱いのか、
彼らには想いが伝わらなかった。

ただ、今回はそれが分かっただけでも
収穫かもしれない。



やがてミューリエと神父さんは
ゾンビを全て倒し、
僕のところへ集まってくる。

幸い、僕は護符のおかげで
一度もゾンビの標的になることはなかった。
襲われたのはミューリエと神父さんだけ。

……2人とも大丈夫なんだろうか?
 

アレス

ミューリエ、怪我はない?

ミューリエ

あぁ、かすり傷すら受けていない。

アレス

神父さんは?

神父

私も無傷です。

アレス

良かった……。

とりあえず一安心。
でも……。

僕は動かなくなったゾンビたちの身体を見て、
悲しくなった。
仮初めとはいえ、
命を奪われてしまったのだから……。

その時、
不意にミューリエは僕の肩にポンと手を置く。
 

アレス

ミューリエ?

ミューリエ

アレス、
悲しそうな顔をしているな?

アレス

うん……。
倒しちゃって
良かったのかなって思って。
可哀想に感じちゃったんだ……。

ミューリエ

そうか……。

 

アレス

っ?

 
ミューリエは穏やかに微笑み、
僕の頭を優しく撫でてきた。

……くすぐったいけど、すごく気持ちいい。
 

ミューリエ

アレスは優しいな。
その慈しみの心、
決して忘れるなよ?

ミューリエ

ただ、
アンデッドは黄泉の世界の住民。
永遠の眠りと安らぎを
与えてやるのが
ヤツらにとっても幸せなのだ。
これでいいのだよ。

神父

えぇ、そうです。
むしろ憎むべきは死者の眠りを妨げ
利用した者です。

ミューリエ

……そうだな。

神父

さぁ、見回りを続けましょう。

 
僕たちは見回りを再開した。

でもこの日はそれ以降、
ゾンビが現れることはなかったのだった。


――そしてついに太陽が昇り、朝を迎える。
 
 
 
 

 
 
 

神父

お疲れ様でした。
明日も見回りをなさる予定ですか?

ミューリエ

そのつもりだ。

神父

ですが、
あなた方は旅の途中と
お見受けします。
私はすでに教会本部へ
連絡しておりますので、
もうすぐ誰かが
派遣されてくるでしょう。

神父

私は1人だけで大丈夫です。
ご遠慮なく、旅を続けてください。

ミューリエ

そうか。
ならばもう1日だけ付き合ったら、
出発することとしよう。

アレス

えっ?

ミューリエ

よいな、アレス?

アレス

あ……うん……。

アレス

ミューリエにはきっと、
何か考えがあるんだよね……?

ミューリエ

では神父よ、私たちは宿へ戻る。

神父

はい。
今日はありがとうございました。

 
僕らは神父さんに別れを告げ、宿へと戻った。
  
 
 
 
 
 
 
 

タック

おかえり~☆

 
部屋ではタックがニコニコしながら待っていた。
僕らが戻るまできちんと起きていたようだ。

神父さんの動きに不審な点はあったのかな?
 

ミューリエ

タック、どうだった?

タック

あぁ、それね♪

タック

あの神父は――

 
僕とミューリエはタックの言葉に耳を傾ける。
 




次回へ続く!
 

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