宿の部屋に戻るなり、
ミューリエが深刻そうな顔をして
声をかけてきた。
どうしたというのだろう?
宿の部屋に戻るなり、
ミューリエが深刻そうな顔をして
声をかけてきた。
どうしたというのだろう?
アレスはあの神父のこと、
胡散臭くは感じなかったか?
そうかな?
優しそうな人だったと思うけど?
表面的な印象ではな。
だが、腹の中では私たちのことを
あまり歓迎していなかったように
感じた。
えっ?
もし1人で苦労しているなら、
冒険者の私たちが
手助けを申し出た時点で喜んだり
安堵したりするんじゃないのか?
あっ!
うん、確かにそうだね……。
それに私たちを
遠ざけようとしている気配が
感じられた。
アレス~、
実はオイラもちょっと
おかしいなぁって
思ってるんだよね~。
どうして?
タイミングが良すぎないか?
アンデッドが現れたら、
狙いすましたように
神父がやってくるなんてさ~。
ほぉっ!
タックのくせに、よく気付いたな。
私もそれは気になっていた。
『タックのくせに』は、余計だっ!
あの護符の金額だって法外だ。
村に貼ってあった
護符の枚数を考えれば、
かなり儲けているはずだぞ?
ちなみにだけど、
オイラはあの護符から
なんの力も感じないんだよね~。
単なる紙切れなんじゃないのって
思うよ。
それを聞いたミューリエは
手でアゴの辺りを擦り、
「ふむ……」と小さく呟いた。
それから少し考え込んだあと、視線を僕に向ける。
アレス、
しばらく護符を貸してくれないか?
あとで必ず返す。
うん。
それは構わないけど……。
タック、貴様は夜目が利くだろう?
まぁな~。
エルフ族の能力のひとつだっ☆
夜目って?
暗い場所でも
モノが見える能力のことさ。
私とアレスは
神父と見回りに出ることにする。
貴様はヤツに気付かれないように、
どこかから監視していてくれ。
なる~♪
それでおかしな点がないかを
チェックするんだな?
そういうことだ。
分かった!
ミューリエがそこまでオイラを
頼りにしてくれてるのなら、
聞いてやらないとね~♪
適材適所。ただそれだけだ。
勘違いするな、バカもの。
……それくらい分かってるよ。
軽いジョークを言っただけじゃん。
オイラだって本当は
ミューリエの指図なんか
受けたくないっての。
アレスのためだから
聞いてやるんだ。
アレスは
アンデッドに力が通じるか、
試してみろ。
せっかくの機会だしな。
あ、うん。
うまくいけば御の字。
もしダメだったとしても、
護符があれば
襲ってこないだろうしな。
万が一の時は私が助けてやる。
分かった!
こうして僕たちは
ミューリエの立てた計画を実行することにした。
そのため、再び神父さんのところへ赴いて、
見回りを一緒にさせてもらえないかと
お願いする。
えっ!? 一緒に見回りを?
ただし、私たち2人だけだ。
もう1人は護符がないからなのか、
土壇場で怖じ気づきおってな。
使い物にならんので
宿に置いてきた。
ひ、ひどい言い方するなぁ……。
タックが聞いてたら怒るよ、絶対。
どうだ、神父よ?
バラバラに行動するより
安全だろう?
えっ?
えぇ……それは……
そうですが……。
何か問題でもあるのか?
いえ、そんなことは。
では、しばらくお待ちください。
準備をいたしますので。
とりあえず、作戦の第一段階は成功。
僕たちは神父さんと一緒に
見回りをすることになった。
でも、僕は神父さんを信じたい。
こんなに優しそうな人がみんなを騙すなんて、
考えたくないし。
もちろん、
ミューリエやタックの話は筋が通っていて、
納得のいくものだ。
ただし、何も証拠がない。
だからこそ、
事実をハッキリさせるためにも、
今夜の見回りは頑張らないと!
夜が世界を包み込んだころ、
いよいよ僕たちは村の見回りに出る。
闇が深まった空には無数の星がきらめき、
天頂には満月が強く輝いている。
時折、星も流れて願い事でもしたくなる気分だ。
せめてこんな夜は静かに星を眺めていたいなぁ。
何事もなく朝になってくれれば
いいんだけれど……。
次回へ続く!