僕たちは護符の代金を作るために
道具屋へ寄り、
そのあと町外れにある空き家へやってきていた。
タックも村人から神父さんの情報を
聞いたらしく、
向かう途中で出会って合流している。
ちなみに彼が仕入れた情報は、
僕らが村長さんから聞いたこととほぼ同じ。
特に真新しい情報は得られなかった。
僕たちは護符の代金を作るために
道具屋へ寄り、
そのあと町外れにある空き家へやってきていた。
タックも村人から神父さんの情報を
聞いたらしく、
向かう途中で出会って合流している。
ちなみに彼が仕入れた情報は、
僕らが村長さんから聞いたこととほぼ同じ。
特に真新しい情報は得られなかった。
ここに神父さんがいるのかな?
そのはずだけどね~。
その家のドアは開いていて、
村人が何人か入れ替わり立ち替わり
出入りをしているようだった。
その手には
護符や聖水らしき液体の入った瓶などを
持っていることから、
ここに神父さんがいると考えて間違いない。
――それにしても、
出入りをしていた村人の表情も暗いなぁ。
さっきの道具屋のおじさんもそうだったけど、
みんなボーッとしちゃって覇気がない。
今回の騒動で
かなり精神的に参ってるんだろうな……。
家に入ると、
中年で優しそうな人が出迎えてくれた。
法衣を着ている姿や
十字架を身につけていることなどから、
おそらくこの人が神父様なのだろう。
こんにちは。
おや? 旅の御方のようですね?
はい。僕はアレスといいます。
ミューリエだ。
オイラはタック♪
私は巡回神父のゲドラと申します。
何かご用でしょうか?
村がアンデッド騒ぎで
大変なようなので、
何かできることがあればと
思いまして。
そうでしたか。
ですが相手は人ならざる者。
いくら冒険者といえど、
容易に倒せはしません。
ですから、
護符をいただこうと思いまして。
村長さんの紹介状もあります。
僕は村長さんからもらった紹介状を
神父さんに手渡した。
そうでしたか。
では、護符1枚につき1万ルバーの
ご寄付をお願いいたします。
何枚ご入り用ですか?
それじゃ、3ま――
1枚で構わん。
ミューリエは僕の言葉を遮りながら言い切った。
えっ? どうして1枚だけなの?
僕たちは3人なんだから、
3枚必要なんじゃないの?
その疑問は神父さんも持ったようで、
訝しげな顔をしつつ首を傾げる。
1枚でよろしいのですか?
見たところ、
少なくともあなた方の分だけでも
3枚は必要だと思うのですが?
私にはそんな紙切れ、不要だ。
ミューリエがそう冷たく言い捨てると、
神父さんはちょっとムッとしたような顔をした。
さすがに彼女の今の態度と言い方は、
ちょっとマズかったと思う。
アンデッド除けの護符を
紙切れだなんて言ったら、
それを作った神父さんの力をバカにしてるって
思われちゃうかもしれないから。
――それにしても、
本当に護符は1枚でいいのかな?
ミューリエはいらないって言ってるから
彼女自身は大丈夫なんだろうけど、
タックの分はどうするんだろう?
事実、彼もそれが気になったのか、
すかさずミューリエに問いかける。
あのさぁ、
オイラは護符が
必要なんだけど……。
貴様など、どうなろうが
知ったことではない。
なんだと~?
欲しければ自分でカネを用意しろ。
私はアレスの分しか出す気はない。
アレス~!
ミューリエに
何か言ってやってくれよ~!
ミューリエ、タックの分も出し――
神父、ほれ1万ルバーだ。
ミューリエは僕の話を最後まで聞かず、
さっさとおカネを渡してしまった。
それを受け取った神父さんは、
ザッと額を確認すると満面に笑みを浮かべる。
確かに。
では少々お待ちください。
神父さんは家の奥へ引っ込んで、
なにやらガチャガチャと物音を立て始めた。
机の引き出しか何かから、
護符を取り出しているのだろう。
もはやこの状況では、
ミューリエが追加でおカネを払って
新たに護符をもらおうというような気配は皆無。
タックはすっかり
落ち込んでしまっていたのだった。
うーん、これじゃなんだかタックが可哀想だよ。
こうなったら、僕の分を渡すしかないか……。
タック、僕の護符をあげるよ。
だから安心して!
えっ? それはダメだっ!
アレスが危険だもんっ!
だったらオイラ、
護符なんていらない。
でも……。
オイラなら
いざとなったら戦えるしさ。
アレスの気持ちだけ
受け取っておくよ。
ありがとなっ!
タックは照れくさそうに微笑んだ。
そのあと、
ミューリエの方を向いて今度は口を尖らせる。
ミューリエのバ~カ!
ケチ~!
それに対してミューリエは怖めず臆せず、
フフンッと軽く鼻で笑って
そっぽを向いてしまった。
まったくこの2人は、もう……。
お待たせしました。
しばらくしてから神父さんが戻ってきた。
その手には1枚の護符が握られている。
ではアレスさん。
この護符をお渡しいたします。
これを持っていれば、
アンデッドは
近寄ってこられないんですね?
基本的には。
ただし、追い詰めると
襲ってくる可能性があります。
どうかご注意ください。
ちなみに現れたのが
どんなモンスターか分かりますか?
村長さんの話では
ゾンビのようなヤツだと
聞きましたが?
ゾンビで間違いないでしょう。
村長様から頼まれて
見回りをしているのですが、
その際に遭遇し、
何体か倒しています。
でもどこから湧いてくるのか、
倒しても倒しても減らない。
しかも厄介なことに、
ヤツらは毒を使う。
もし戦うにしても、アレスさんは
あまりご無理を
なさらない方が……。
神父さんはそこまで言うと、
口ごもって僕をチラリと見た。
――ん? どうしたんだろう?
何か言いたそうな感じだけど……。
失礼ながら、
アレスさんは……その……
そんなにお強そうには
見えませんので……。
っ!
そういうことか。それで僕を見ていたのか。
ははは、その通りです……。
ま、大抵の人はそう思うよね。
心配は無用だ。
アレスにはアレスの戦い方がある。
万が一の時は
私がサポートするしな。
オイラも
アレスを助けるしぃ~☆
2人とも……。
ありがとうっ♪
すごく嬉しいよっ!
なるほど……。
そちらのお2人は、
よほど腕に自信があるようですね?
相手はゾンビなのだろう?
そんな最下級のアンデッドに、
やられるわけがなかろう。
っ……!
ほんの一瞬だったけど、
神父さんが殺気に満ちた目で
ミューリエを睨み付けたような気がした。
――僕の気のせいかな?
あの、次の方がお待ちのようなので
お話はそろそろ終わりにして
よろしいですか?
あ、すみません。
ありがとうございました。
どうかお気をつけて。
僕たちは神父さんのいた空き家を出た。
すると家のドアの向こうには、
神父さんのところへ護符を買いに来た人の
長い列があり、静かに順番を待っている。
もう少し手短かに済ませれば
良かったかな……?
僕たちはタックが確保した宿へ向かい、
部屋に入った。
すると着いて早々、
ミューリエが僕に話しかけてくる。
……アレス、ちょっといいか?
どうしたの?
さっきの神父について、
気になることがあるんだが……
ミューリエはいつになく深刻そうな
顔をしていた。
どうしたというのだろう?
神父さんについての気になることって、
何なのだろうか……。
次回へ続く!