もちろん、スタッフというのはこの場にいる全員のことである。
闇珈琲。その歴史は遥か明王朝の時代にまで遡る……
いや、そういう民明書房的なのはいいから
せめてイスラム系の王朝で言えなかったのか
アイユーブとかマムルークとかアッバース朝とか白羊朝とか
ハブられた黒羊朝がかわいそう……
他にもウマイヤ朝やムワッヒド朝あたりもハブられとるわ!
で、闇珈琲会なわけです
闇鍋のコーヒー版だな
その通り!
ろくでもないことになりそうな
というわけで、皆さんやばいのを持ち寄っていただけましたでしょーか
飲めそうで飲めないギリギリのラインで整えましたよ
同じく
食べ物で遊ぶな教の教えに反しちゃうなあ
スタッフが全部飲み干すからだいじょうぶ!
もちろん、スタッフというのはこの場にいる全員のことである。
では、始めましょう。悪夢の祭典を……!
悪夢なんだね。これ、容赦する気なしだね
流れとしてはどうなります?
闇鍋は全員がそれぞれ鍋に放り込むわけだが
コーヒーはカップですから、ちょっとやり方を変えます
ミユキが一杯のコーヒーを用意した。湯気が立つ。芳醇な香りが店内に広がる。
ローテーションで仕掛け人になって、まず他の三人が飲む
ふむ
それで材料を当てられたら、仕掛け人も飲む
すごい。誰も得をしない
闇のゲームにも程がありますね……
というわけで、私から始めます。そこから時計回りでテトさん、ヴィルヘルムさん、リサの順番で
後ろを向き、ごそごそと仕掛けるミユキ。
怖いな
みんな、食べられるものを入れてよね?
最低条件ですからね……アレルギーは問題ないですか?
私は特にない
強いて言うなら、まずいものがアレルギー
この手の企画に最も向いてない適性!
はい、できました
飲む順番は?
これも時計回りでいいんじゃないかな
俺からか……
テトは嫌そうだ。
テトリスブロックなので、表情はない。
しかし、漂う雰囲気がもう明らかに嫌悪に染まっている。
マンガならば『イヤァァァァ』という効果音が出てそうですらある。
飲むぞ
どうぞ
重ねて言うが、テトはテトリスブロックである。
飲む時はなんか口っぽい位置に液体を当てると、染みこむように減っていく。
ミユキはそれを生理用品みたいだと評して、リサから裏拳でツッコミを食らったことがあった。
甘っ!
甘いのか……
何の甘さです?
生クリームか
ちがーう
ちょい飲んでみ
そりゃ飲みますけど
ヴィルヘルムの挑戦。
一瞬、肉食獣の表情が見えた。
何だこれ
甘い?
甘いけど、こう、何だろこの甘さ、表現しづらいんですよね
ふふーん、わからないかなぁ
チョコレートとかですか?
はずれー
よし、私だ
リサは受け取り、飲み、今日という日を後悔した。
ひでぇ
どう、どう?
うわ、これ飲ませたいわ。ミユキに飲み干してもらいたい
当てればいいんじゃよ
当てたい
さあ、リサさんのお答えやいかに!
あんこ
ぶっぶー。正解はステビアエキスでした
王道か!
うえー、入れすぎだろ
たっぷり入れさせていただきました
かくて始まった闇珈琲会。
ただ、予想すべき事態が頻発した。
固体を入れるものだから、コーヒーといえども中身がすぐにわかってしまうのである。
いくら黒いからといって、納豆やらキムチやらが浮かんできてわからないはずがない。
これは企画倒れなのでは? ボブは訝しんだ
気づいてしまったか……
そこに気づくとは、やはり天才……
ナルトスやってる場合じゃないですよ
じゃあ、予定変更。コンビニにあるものをコーヒーとあわせて食べてみよう
そういうことなら
リサはフランクフルトを取り出して、コーヒーに入れた。
はい、ウィンナコーヒー
うわー、小学生みたいなことやってる
意外と大人でもこれがウィンナコーヒーだと思ってる奴は多いぞ
四条清水だもんなあ
ウィンナコーヒーはホイップクリームを入れたウィーン風のコーヒーであって、ウインナー入りのコーヒーではないのである。
む、悪くない
リサはコーヒー風味のフランクフルトを食べながら、辺りを見回している。
他に何かないかな
コンビニといえば、というのが欲しい
コンビニらしい商品って何かな?
おにぎりとかですかね
コーヒーゼリーとかならともかく、コーヒーおにぎりはちょっと……
コーヒードーナツってあるからなあ
ここで逆転の発想を発動! コーヒー1番くじ!
バカが出たぞー!
コーヒーまみれっていやらしさとはまた違ったプレイ感
それがありなら、コーヒーマルチコピーでもなんでもあり
ただの故障原因だそれ
コーヒーアマゾンギフト券
営業妨害
ここで訪れる突然の沈黙。
気まずいわけでもないのだが、なぜか互いの様子を伺う。
とりあえず、ひとつ言えることは。コーヒーはコーヒーのままが良い
異議なし
まあ、そうですよね
仕方ない。フライドポテトくれ
らっしゃーせー!
いらっしゃいませ!
あれ、もう闇珈琲終わった感?
企画倒れで終了です
なんだぁ。せっかくブルーチーズを持ってきたのに
バイオテロをするつもりか
待った。せっかく持ってきてくれましたし、試してみましょうか
なぜそんなところで無駄なフロンティア・スピリッツを発揮する
開拓者の魂が突然に燃え盛ったところで、ブルーチーズを投入したコーヒーが供された。
飲むのは……?
ミユキが全員を見る。
誰もが答えない。
答えないが、ミユキを見返す。
お前に決まってるやろ、という無言の圧力。
マジですか
いってみよう。ゴーゴーゴー!
ようし、見さらせぇ!
強烈な宣言とともに、ミユキは飲んだ。
どうなる?
表情の変化……なんと顔面がブルーチーズだ。
あーあーあ
ダメそう
一言コメントをどうぞ。さん、にー、いち、きゅー
食べ物で遊ぶな
まったくだ
コーヒーの強烈な刺激をもってしても中和しきれない独特の香り。
これが際立つ個性というものかどうかはわからないが、コーヒーにブルーチーズを入れるのは人生で一度だけで充分だ。
ミユキは心からそう思いつつ、静かに天を仰ぐのだった。