ミユキ

闇珈琲。その歴史は遥か明王朝の時代にまで遡る……

リサ

いや、そういう民明書房的なのはいいから

テト

せめてイスラム系の王朝で言えなかったのか

ヴィルヘルム熊

アイユーブとかマムルークとかアッバース朝とか白羊朝とか

ミユキ

ハブられた黒羊朝がかわいそう……

リサ

他にもウマイヤ朝やムワッヒド朝あたりもハブられとるわ!

ミユキ

で、闇珈琲会なわけです

テト

闇鍋のコーヒー版だな

ミユキ

その通り!

ヴィルヘルム熊

ろくでもないことになりそうな

ミユキ

というわけで、皆さんやばいのを持ち寄っていただけましたでしょーか

ヴィルヘルム熊

飲めそうで飲めないギリギリのラインで整えましたよ

テト

同じく

リサ

食べ物で遊ぶな教の教えに反しちゃうなあ

ミユキ

スタッフが全部飲み干すからだいじょうぶ!

 もちろん、スタッフというのはこの場にいる全員のことである。

ミユキ

では、始めましょう。悪夢の祭典を……!

リサ

悪夢なんだね。これ、容赦する気なしだね

ヴィルヘルム熊

流れとしてはどうなります?

テト

闇鍋は全員がそれぞれ鍋に放り込むわけだが

ミユキ

コーヒーはカップですから、ちょっとやり方を変えます

 ミユキが一杯のコーヒーを用意した。湯気が立つ。芳醇な香りが店内に広がる。

ミユキ

ローテーションで仕掛け人になって、まず他の三人が飲む

テト

ふむ

ミユキ

それで材料を当てられたら、仕掛け人も飲む

リサ

すごい。誰も得をしない

ヴィルヘルム熊

闇のゲームにも程がありますね……

ミユキ

というわけで、私から始めます。そこから時計回りでテトさん、ヴィルヘルムさん、リサの順番で

 後ろを向き、ごそごそと仕掛けるミユキ。

テト

怖いな

リサ

みんな、食べられるものを入れてよね?

ヴィルヘルム熊

最低条件ですからね……アレルギーは問題ないですか?

リサ

私は特にない

テト

強いて言うなら、まずいものがアレルギー

リサ

この手の企画に最も向いてない適性!

ミユキ

はい、できました

リサ

飲む順番は?

ミユキ

これも時計回りでいいんじゃないかな

テト

俺からか……

 テトは嫌そうだ。
 テトリスブロックなので、表情はない。
 しかし、漂う雰囲気がもう明らかに嫌悪に染まっている。
 マンガならば『イヤァァァァ』という効果音が出てそうですらある。

テト

飲むぞ

ヴィルヘルム熊

どうぞ

 重ねて言うが、テトはテトリスブロックである。
 飲む時はなんか口っぽい位置に液体を当てると、染みこむように減っていく。
 ミユキはそれを生理用品みたいだと評して、リサから裏拳でツッコミを食らったことがあった。

テト

甘っ!

リサ

甘いのか……

ヴィルヘルム熊

何の甘さです?

テト

生クリームか

ミユキ

ちがーう

テト

ちょい飲んでみ

ヴィルヘルム熊

そりゃ飲みますけど

 ヴィルヘルムの挑戦。
 一瞬、肉食獣の表情が見えた。

ヴィルヘルム熊

何だこれ

リサ

甘い?

ヴィルヘルム熊

甘いけど、こう、何だろこの甘さ、表現しづらいんですよね

ミユキ

ふふーん、わからないかなぁ

ヴィルヘルム熊

チョコレートとかですか?

ミユキ

はずれー

リサ

よし、私だ

 リサは受け取り、飲み、今日という日を後悔した。

リサ

ひでぇ

ミユキ

どう、どう?

リサ

うわ、これ飲ませたいわ。ミユキに飲み干してもらいたい

ミユキ

当てればいいんじゃよ

リサ

当てたい

ミユキ

さあ、リサさんのお答えやいかに!

リサ

あんこ

ミユキ

ぶっぶー。正解はステビアエキスでした

リサ

王道か!

テト

うえー、入れすぎだろ

ミユキ

たっぷり入れさせていただきました

 かくて始まった闇珈琲会。
 ただ、予想すべき事態が頻発した。
 固体を入れるものだから、コーヒーといえども中身がすぐにわかってしまうのである。
 いくら黒いからといって、納豆やらキムチやらが浮かんできてわからないはずがない。

ミユキ

これは企画倒れなのでは? ボブは訝しんだ

リサ

気づいてしまったか……

テト

そこに気づくとは、やはり天才……

ヴィルヘルム熊

ナルトスやってる場合じゃないですよ

ミユキ

じゃあ、予定変更。コンビニにあるものをコーヒーとあわせて食べてみよう

リサ

そういうことなら

 リサはフランクフルトを取り出して、コーヒーに入れた。

リサ

はい、ウィンナコーヒー

ミユキ

うわー、小学生みたいなことやってる

テト

意外と大人でもこれがウィンナコーヒーだと思ってる奴は多いぞ

ミユキ

四条清水だもんなあ

 ウィンナコーヒーはホイップクリームを入れたウィーン風のコーヒーであって、ウインナー入りのコーヒーではないのである。

リサ

む、悪くない

 リサはコーヒー風味のフランクフルトを食べながら、辺りを見回している。

リサ

他に何かないかな

テト

コンビニといえば、というのが欲しい

ミユキ

コンビニらしい商品って何かな?

ヴィルヘルム熊

おにぎりとかですかね

ミユキ

コーヒーゼリーとかならともかく、コーヒーおにぎりはちょっと……

リサ

コーヒードーナツってあるからなあ

ミユキ

ここで逆転の発想を発動! コーヒー1番くじ!

リサ

バカが出たぞー!

テト

コーヒーまみれっていやらしさとはまた違ったプレイ感

ヴィルヘルム熊

それがありなら、コーヒーマルチコピーでもなんでもあり

リサ

ただの故障原因だそれ

テト

コーヒーアマゾンギフト券

リサ

営業妨害

 ここで訪れる突然の沈黙。
 気まずいわけでもないのだが、なぜか互いの様子を伺う。

ミユキ

とりあえず、ひとつ言えることは。コーヒーはコーヒーのままが良い

リサ

異議なし

ヴィルヘルム熊

まあ、そうですよね

テト

仕方ない。フライドポテトくれ

ミユキ

らっしゃーせー!

リサ

いらっしゃいませ!

カナエ

あれ、もう闇珈琲終わった感?

ミユキ

企画倒れで終了です

カナエ

なんだぁ。せっかくブルーチーズを持ってきたのに

テト

バイオテロをするつもりか

ミユキ

待った。せっかく持ってきてくれましたし、試してみましょうか

リサ

なぜそんなところで無駄なフロンティア・スピリッツを発揮する

 開拓者の魂が突然に燃え盛ったところで、ブルーチーズを投入したコーヒーが供された。

ミユキ

飲むのは……?

 ミユキが全員を見る。
 誰もが答えない。
 答えないが、ミユキを見返す。
 お前に決まってるやろ、という無言の圧力。

ミユキ

マジですか

カナエ

いってみよう。ゴーゴーゴー!

ミユキ

ようし、見さらせぇ!

 強烈な宣言とともに、ミユキは飲んだ。
 どうなる?
 表情の変化……なんと顔面がブルーチーズだ。

カナエ

あーあーあ

リサ

ダメそう

カナエ

一言コメントをどうぞ。さん、にー、いち、きゅー

ミユキ

食べ物で遊ぶな

リサ

まったくだ

 コーヒーの強烈な刺激をもってしても中和しきれない独特の香り。
 これが際立つ個性というものかどうかはわからないが、コーヒーにブルーチーズを入れるのは人生で一度だけで充分だ。
 ミユキは心からそう思いつつ、静かに天を仰ぐのだった。

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