ニケ

おはよう。アルマ。

時は早朝。
まだ人が疎らな食堂の一角に、2人は居た。

アルマ

あ、おはようございます。

ニケ

ここ、いいかい?

アルマ

あ、どうぞ。

ニケは、向かいの席に腰掛けた。

ニケ

昨日はお疲れ様。
よく眠れた?

アルマ

うん。

ニケ

そう。
それはよかった。

ニケ

あ、そのジャム。
それうちの村で作ってるやつなんだよ。

そう言って、ニケが机のいちごジャムを指差す。

アルマ

へぇ……。

ニケ

俺はクランベリーって村の出身なんだけど、聞いたことあるかな?
いちごで有名なんだ。

ニケ

まぁ、俺はそのいちご苦手なんだけどね。
香りは好きなんだけど、味はいまいち合わなくて。
以前無理に食べようとして気を失ったこともあったよ。

アルマ

フフ……。

ニケ

あれはいつだったかなぁ……。
確か、友達に無理矢理食べさせられたんだった。
村でいちごが食べられなかったのは俺だけだったから、「特訓しよう!」なんて言ってさ。

……あいつらにも、もう随分会ってないよ。
元気にしてるかなぁ。

アルマ

……。

ニケ

俺の幼馴染でさ、シュウとシーナってやつがいるんだ。
村に居た頃は、いつも3人で過ごしてたよ。
今は2人とも騎士団の一員として村を……。

アルマ

……。

ニケ

……やっぱり、そういうことなのかな。

ニケは、さり気なくアルマの左腕を見た。

腕の光輪。
オーゼの話では、彼女の魔力を封じているらしい。
どうして魔力を封じる必要があったのか。
オーゼは詳しいことを話さなかったが……。

ニケ

なんですか? 話って。

ニケは不満を隠そうともせずに言った。

オーゼ

そんな顔をしないでくれ。
君が怒るのもわかるが、理解してくれ。
大事な話だ。

オーゼ

君は、アルマの左腕を見たか?

ニケ

左腕?
いえ、見てないですけど。
何かあるんですか?

オーゼ

そうだと思ったよ。
下手に触れられる前に伝えておきたい。

オーゼ

君は気づかなかったようだが、アルマの左腕には環状の光が絡みついている。
それは、彼女に施された封印だ。

ニケ

封印?

オーゼ

そうだ。
具体的には、彼女の魔力を抑えこんでいる。

ニケ

魔力の封印……って、俺たち魔力が無ければただの人ですよ?
それで戦えるんですか?

オーゼ

それについては問題ない。
魔力の全てを封じているわけではないし、
封印自体は彼女の意思で弱めることも可能だそうだ。

ニケ

じゃあ、別に問題ないじゃないですか。

オーゼ

その通りだ。
魔力については何も問題はない。
問題なのは、彼女の気持ちの方だ。
彼女は、魔力の開放を拒んでいる。

ニケ

ええ? 何故ですか?

オーゼ

彼女本来の魔力は非常に強力なものだ。
彼女自身に制御しきれなかった程のな。
加えて、彼女の居た村は人里離れた小さな村だ。当然、情報の伝わりも遅い。

オーゼ

そんな環境で、彼女のような存在がどういう扱いを受けるか。
同じ力を持った君ならわかるはずだ。

ニケ

……。

ニケ

そりゃあ、どういう扱いを受けるかはよく分かる。どんな思いで過ごしていたのかも……。

でも、一緒に戦うことになれば、魔力を抑えたままではいられない。
なんとか魔力を引き出せるように説得するって言っても、難しいなぁ……。

アルマ

あ、あの。何か……?

ニケはアルマの声に、はっと我に返った。
見ると、アルマは右手で左腕を隠すようにしている。

ニケ

し、しまった!
見過ぎたか……。

ニケが慌てていると
アルマの背後から誰かが顔を出した。

アステリア

おいおい。
何さっきからジロジロ見てんだよ?

ニケ

!?

いつの間に来ていたのか。
アステリアはアルマの後ろの席に座っていた。

机に頬杖をつくようにして、
丁度アルマの左腕から顔を出している。

アルマ

ア、アステリアさん?
いつからそこに……。

アルマは、自分の左腕から右手を離した。

ニケ

い、いや、その……。

……!

ニケ

長距離の護衛任務が終わったばかりなのに、アステリアさん元気そうだなぁと思って。
やっぱり流石ですねぇ。

アステリア

へっ。
当たり前だろ? 私を誰だと思ってんだよ。
あんたも世界を救うつもりなら、私ぐらいにはなれないとね。

ニケ

世界を救うっていうのは大袈裟すぎじゃないですか?
まだそうと決まったわけではないですし。

アステリア

口答えしない。
そんな気の持ち方じゃ、いざって時困るよ。

アステリア

……まあいいや。
私は用事があるからそろそろ行くよ。
じゃーね。

アルマ

あ、さようなら。

ニケ

すみません。
アステリアさん……助かりました。

アステリア

来をつけろよな。

アステリアは軽く手を振りながら、
食堂から出て行った。

ニケ

アステリアさんのように、かぁ。

そういえば、もう聞いたかな?
アステリアさんは騎士団のNo2なんだよ。
それぐらい強いんだ。

アルマ

へぇ……。

ニケ

ちなみにNo1はオーゼさんだよ。
No3はルーツって人なんだけど、まだ会ったことはないよね。
ルーツさんは俺たちの訓練を担当してるから、すぐに会えると思うよ。

ニケ

ルーツさんは、剣の腕は本物なんだけど、ちょっとお調子者というか……

その後もニケの話は続いた。
アルマは時々相槌を打つ程度だったが、
ニケは気にも留めない。

ニケ

それで……

ニケ

おっと、もうこんな時間か。
座学の時間だね

アルマ

あ、本当ですね。

ニケ

それじゃ、お喋りはこの辺にして。
行こうか。

2人は食器を片付けると、食堂を後にした。

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