城門が開き、馬車を引いた一行が入ってきた。
出迎えに来ていた男性がその一行に声を掛ける。
先頭の女性がそれに気づくと、
乗っていた馬を仲間に預け男性の元へ駆け寄った。
城門が開き、馬車を引いた一行が入ってきた。
出迎えに来ていた男性がその一行に声を掛ける。
先頭の女性がそれに気づくと、
乗っていた馬を仲間に預け男性の元へ駆け寄った。
おっす、オーゼ。
戻ったよ。
ああ、お疲れ。アステリア。
長旅ご苦労だったな。
何も問題は無かったか?
なにもないね。
なにも無さ過ぎて退屈な仕事だったよ。
何言ってるんですか。
2回ほど盗賊の襲撃を受けたでしょうが。
一行の中から、兵士が口を挟む。
ああ、あったね。そんなことも。
金になるものなんて積んでないのに、
城の馬車ってだけで群がって来やがって。
まあ、あんなのは私の敵じゃないね。
どっちにしろ問題はないよ。
頼もしいな。
お前に頼んで良かったよ。
それで、アルマは?
もうちょい後ろの馬車だよ。
……ところで、アルマが来るまでに1つ伝えておきたいことがあるんだが。
伝えたいこと?
ああ、ちょっと耳を。
―――。
……なるほどな。
彼女の情報が私達の耳に入らなかったのは、それが原因か。
どうする?
わざわざ皆に教えるってのも変な感じだし、
かといって何も知らなければ藪をつついちまう奴が居るかもしれない。
……この城でそんなことを気にする者はいないだろう。
余計なことは言わなくてもいい。
ただ、今後彼女とよく関わる者には一応知らせておこう。
ルーツには君から頼む。
ニケとファイナには私から伝えておく。
それもそうだな。
ルーツには伝えておくよ。
それとは別に、その腕の封印? だったか。
そちらはどうしても目立ってしまうだろう。
あまり触れないよう、皆に周知しておこう。
了解だ。
兵士達には私から知らせておく。
他の住人には……ファイナにでも頼むか。
お、そろそろアルマの馬車が来るね。
ほら、あれだ。
丁度城門をくぐった馬車を、アステリアが指差す。
さて、それじゃ彼女のことは頼んだよ。
私は少し休ませてもらう。
ああ、お疲れ。
そういってアステリアは、城の中へ入っていった。
アステリアが城に入るとき、入れ違いに
少年が猛スピードで飛び出してくるのが見えた。
少年は、オーゼの元まで全速力で駆けた。
オーゼさん!
アルマは!?
はは、早いなニケ。
アルマならあの馬車だ。
すぐに来るよ。
おお、もうすぐですね!
その時ふと、ニケの腕を誰かが掴んだ。
見ると、ニケの背後に息を切らした女性が立っている。
ま、待ちなさい……!
ニケくん……! まだ講義の途中でしょ!
げぇ……!
撒いたと思ったのに。
あ、甘いわね……。
私だって、兵士の端くれよ。
基礎鍛錬ぐらい……してるわ……。
息上がってますよ。
もういい、ファイナ。
彼がはしゃぐのも無理は無いだろう。
こんな日に授業をしても仕方がないさ。
流石オーゼさん!
ありがとうございます!
その代わり、
明日は今日の分もしっかりやるんだぞ。
わかってますよ。
はあ。オーゼさんが言うなら……。
ファイナはそれ以上何も言わず、
息を整えることに集中している。
顔だけはしっかり馬車に向けているあたり、
やはり彼女も気になるのだろう。
馬車はすぐに3人の前へ来た。
オーゼが馬車を止め、中から少女を降ろした。
長旅お疲れ様。
2人とも、この子がアルマだ。
……はじめまして。
はじめまして!
俺の名前はニケ。
この城は同年代の子が居なくて退屈なんだ。
友達になってよ。
う、うん。
お、ありがとう!
はじめまして。アルマちゃん。
私はファイナ。
貴方の教育担当よ。よろしくね。
……?
ファイナは、アルマの左腕に光の輪を見た。
二の腕の辺りに浮いたそれは、
何かの文章のようにも見える。
……。
輪について尋ねようとしたファイナは、
オーゼの視線に何かを察したように口を噤んだ。
はい、よろしくお願いします。
え、ええ。よろしく。
アルマはこの後どうするの?
特に予定が無いなら、
城内の案内でもしようか?
いや、彼女も疲れがあるだろう。
夕食をとったら、今日は休んでもらおう。
そっか、残念。
それじゃ、夕飯一緒に行こうよ。
悪いが、ニケはここに残ってくれ。
アルマはファイナに任せる。
え?
彼女の部屋は伝えてあるな?
夕食のあと、部屋に案内してやってくれ。
わかりました。
ファイナは困惑しつつも、
アルマを連れて行ってしまった。
ちょ、ちょっと待ってよ。
オーゼさん。なんで俺だけ残るんですか?
すまないな。
彼女について、君に話しておきたいことがある。
……話?
すっかり陽も沈んだ頃。
夕食を終えたアルマとファイナは、アルマの部屋へやって来た。
ここが貴方の部屋よ。
ひと通りの家具は揃ってあるわ。
置いてあるものは自由に使ってね。
はい。ありがとうございます。
それじゃあ、私は行くわね。
何かあったら、その辺にいる人に声を掛ければ助けてくれるからね。
はい。
ファイナは軽く手を振ると、部屋を後にした。
アルマがソファに腰掛け一息ついたとき、
机の上に自分の荷物が置いてあることに気がついた。
誰かが予め持ってきてくれていたのだろう。
……。
片手で抱えられる程度の袋。
自分の家から持ってきた荷物はこれだけしかない。
私は、今日からここで暮らす……。
今となってはこの小さな袋が、
生まれ故郷の最後の思い出だ。
恐らく、2度と自分の村に帰ることは無いだろう。
それは少し寂しくもあり、
気が楽でもあった。