今、吹雪でしょ。これ、七日の吹雪っていって、毎年起こる天気なの。

アイリスも、みんなも、この吹雪が怖いの。
だから、お家でがたがた震えてるんだ。

魔法が守ってくれてるのはわかっても、怖いものは怖いんだ。

でも、勇者様が来てね、みんな楽しそう。お客様大歓迎だからね。

あと三日で七日の吹雪が終わるから、それまでいてください

 宝石のような目が、こちらをじっと覗きこむ。

だめ?

 かわいいー!

いいよいいよ、いるよ。

こんな中、俺、どうしようもできないしね

わーいやったあ! みんな、勇者様が七日の吹雪が終わるまでいてくれるって!

 村の人たちが、わあっと声をあげた。ありがとうとみんなに言われ、戸惑ってしまう。

俺がいることが何かの助けになるのなら、喜んで

 なんて言っている俺は、しかし頭の片隅で、本当になんだこの物語は、と混乱しているのだった。


 パーティーも終わり、お言葉に甘えてアイリスの家におじゃまさせていただくことにした。

 アイリスのお母さんは、突然のパーティーに少し疲れているようだった。

 それもそうだ。大人みんな、飲めや歌えやの大騒ぎだったし。

 しかし、アイリスは元気いっぱい。子どもの体力は無限大のようだ。

どうぞ、先にお休みになってください。俺はもう少し、アイリスちゃんと遊んでいます

 アイリスのお母さんは、お言葉に甘えて、と寝室に戻っていった。

 しかし俺、小さい子が思いの外好きなようだ。

あのねー、アイリスお姉ちゃんとお兄ちゃんがいるの、ふたりずつ

すごいなあ、五人兄弟なの?

 なつきまくってくれているアイリスは、相変わらず俺の膝にのって、そうなのそうなの、と足をふらふらさせている。かわいい。

それでねえ、明日くるよ

さっき言ってた、お姉ちゃん?

うん! 
今年はねえ、上から二番目のお姉ちゃん!

そうなんだ! 楽しみだね

いろいろ持ってきてくれるんだよ、食べ物とか、飲み物とか。

明日もきっと、パーティーになるよ

すごいなあ。また美味しいもの、食べられるね

 と、そのとき。

ただいまー! 早めだけどついちまったー

ジャスミンお姉ちゃん!

 アイリスが俺の座を飛び降り、お姉ちゃんのもとへかけていく。


 俺は、ミンの姿を見て、硬直している。

アイリス! でっかくなったなー!

うん! さっきはじめてね、短い名前教えてもらった!

まじかよ、そりゃすげえ! レディの証拠だな!

でしょ、あの人に!

 アイリスに指差された俺。


 驚愕の表情を浮かべる、ジャスミン。

……なんでお前がここに?

いやあ……偶然ってすごいね

……っていうか、お前、アイリスに短い名前教えたのかよ?

……え?

 ずんずんずん、と近づいてくるミン。

あ、の、なあ! 

アホかお前! 見境なしかよ! 

年頃の女の子に礼儀として教えるならまだしもさ!

何が? 何が?

な、に、が、じゃ、ねえええええええ!

 容赦なく繰り出される、右フック。


 認識したときにはもう、俺の顎を直撃していた。


 遠退く意識の中、ミンの声がする。

短い名前を教えるってのは、あなたも恋愛の対象ですって意味だろうが! 

そんなのも知らねえでその宝石埋め込んでやがるのか、ばかか!

 サンザシさんの叫び声。


 ああ、もう。世界のしきたり、細かいことからなにやら、毎回セイさん、教えてくれないかな、ほんとに。

3 あなたに捧げるその花の意味は(12)

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