……サンザシ、ごめん、俺

 サンザシはやだ、やだ、と涙をぬぐっている。

嬉しくて、嬉しくて! 感涙です、はは、ご……ごめんなさい

 嘘だ。それくらい、すぐにわかる。

サンザシ



 どうして、どうしたの、何があったの、どうすればいいの。



 様々な疑問が駆け巡り、どれを選択するかわからず、でも、とりあえず彼女の手を取ったそのとき、内蔵に響くような、大きな地響きが聞こえた。

 部屋が突如、薄暗くなる。





わっ!

きゃっ!

 家ががたんと大きな音をたてて揺れる。

 サンザシが、バランスを崩してソファから転げ落ちそうになる。

 俺の体もぐらりと揺れていたが、そんなのお構いなしだ。

 とりあえず、サンザシを助けなければと、からだが動いていた。



 サンザシに向かって、手を伸ばす。
 頭が、キン、と痛くなる。
 こんなこと、前にも。

 前にも。




 痛みに歯を食い縛りながら、サンザシに手を伸ばす。

 あと少しで地面に激突しそうになっていたサンザシを、間一髪で受け止める。

 肩をつかんで、そのまま俺の体をサンザシと地面の間に滑り込ませ、直後、俺の背中が床に強く当たる。

いって……

た……崇様! 崇様! 申し訳ございません

いやいや……大丈夫?

私は大丈夫です! 崇様は、崇様

大丈夫大丈夫……

 むくりと起き上がり、何があったのかと外に目をやると、窓の外に大きなバラが見え、ぎょっとした。

 よく見ると、バラのつるが、窓の外にびっしりと敷き詰められているようにして見える。

 離れが、バラに囲まれているようだ。

どういうこと……

アキ……

 静かに扉が開き、ロサが顔を覗かせた。

ロサ! 大丈夫?

 立ち上がり、こっそりサンザシに視線を送ると、サンザシがにこりといつものように明るい笑顔を見せた。

 大丈夫の返事には十分だ。いつも、そうやって笑っていてほしい。彼女に涙は似合わない。



 サンザシが大丈夫だったことを確認した後、俺はロサに駆け寄った。

何があったのかわからないけれど……なんか、家の回りに、バラ?

はい……私が咲かせました

 なんですって。
 ロサが、頬を染め、にこりと微笑む。

あなた様との、お城にと思って……ご結婚、いたしましょう



 ぞっとする。

 直感。このお嬢様、とんでもないことをしてくださっている。



 幽閉されたぞ、俺!

ちょ、ちょっと待って、落ち着きましょう、順序があるし、その

どういった順序? 私と結婚、しないの?

 ずずず、と近づいてくるロサ。ひええ。後ずさる俺。

なぜ、閉じ込められたのでしょうか、俺は

逃げられたら困りますから

 ひえー! 今すぐにでも逃げたい、俺!

待って、落ち着いて、とりあえず……その!

結婚、しないつもりなの?

 ミシ、ときしむ音がしたかと思うと、地面から大きなバラがにょきりと顔を覗かせていた。

 そんなことないよな、と俺を責めるように、巨大なバラがこちらを見ている。

まって、早いよ、考えさせ……

 言った途中で察した。しまった、ミスった。

3 あなたに捧げるその花の意味は(8)

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