サンザシは、ただでさえ大きな目をさらに大きく広げ、言葉を失っていた。

 いや、言葉を選んでいたようだ。
 しばらくの沈黙の後、サンザシが目を伏せ、えっと、と切り出す。

どのような、記憶でしょう。まずは、そこからです

質問に答えて、サンザシ。

これは俺にとっていいことなのか、悪いことなのか――

記憶によります!

 サンザシが叫ぶ。その迫力に圧倒された俺は、反射的に謝っていた。

ごめん

あ……いえ、ご無礼を

 しゅん、とするサンザシ。

……俺の記憶といっても、さっきあのロサさんと話してたときにね、女の子と話すの、大変だよなあって思ったんだ。

そのとき、いつも大変だなって思った。

俺、記憶がなくなってからまだ三つ目の世界なのに、いつもって思った、そのいつもは、なんていうか……もっと、古い記憶っていうか

具体的な内容は、思い出されていないのですね

ああ、でも、感覚が戻ってきてるっていうか

それは、大丈夫です。おそらくですが……今後も、そのようなことが繰り返されるかと

 繰り返される。

それも、ゲームの中の一部なの?

はい……逃れることはできません

そっか……じゃあ、世界を直しながら、実は俺の記憶も探してるような、そんなゲームだと思っていいのかな

ええ

そんでもって、サンザシは記憶がある前の俺のことも知ってる

 サンザシは驚くと思ったが、しかし、このことを予測でもしていたかのように、静かに目を伏せ、首を振るだけだ。

そのことは、以前もお話しした通り、まだ明らかにすることは許されていません

 赤い目がふっと開かれ、俺を見据える。

 その瞳のなかに、悲しみの感情があるきがして、俺は思わずひるんだ。


 これ以上、このことに触れると、サンザシが壊れてしまうのではないかと、思ったのだ。
 瞳の中にある感情に、押し潰されてしまうのではないか。
 そう、感じた。

しかし、お約束します。いつか必ず、すべてをお話しします

 凛とした瞳は、しかし、すぐにふいと視線をはずす。

少しずつ、わかっていきます。

それが、幸せかどうかはわかりません。

崇様がどうお考えになるかは、私の預かり知らぬところです

 でも、とサンザシは、拳を強く握りしめる。

あの方……ゲームマスターが言っていたことは、間違っていません。

崇様、私からも警告を……いえ、そんな重苦しいものではないのですが、とにかく

 宙を睨み付けるようにしながら、サンザシはぽつりと言った。

ご覚悟を

 俺は、静かにうなずく。

 記憶が戻るのに、覚悟がいるなら、それは、俺が驚くような内容であることは確かだろう。

 何が来ても、覚悟ができていれば、俺はそれを受け入れられるのかもしれない。

わかった……ごめん、問い詰めるようなこと、言って

 サンザシは、珍しく、静かに微笑んだ。

何でも、訊いてくださいね

 言っていることとはうらはらに、彼女はそれ以上の質問を拒絶しているようにも見えた。

サポート……頼りにしてるから

 だから、質問をする代わりに、伝える。

ありがとう、いつも。

明るいサンザシに、俺、助けられてるから。

これからも明るくいてよ

 ね、と笑いかけて、はい、と明るい返事が返ってくると思っていたのに。

 サンザシは、俺の言葉に、ぼろぼろと涙をこぼしたのだった。

3 あなたに捧げるその花の意味は(7)

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