試練の洞窟を出て数時間後、
僕たちは隣国のラート共和国方面へ向かって
グラン街道を歩いていた。
タックの話によると、
次の試練の洞窟はその国の山間部にあるらしい。
地図でおおまかな位置を確認してみたけど、
そこへ辿り着くまでにはまだまだ距離がある。
試練の洞窟を出て数時間後、
僕たちは隣国のラート共和国方面へ向かって
グラン街道を歩いていた。
タックの話によると、
次の試練の洞窟はその国の山間部にあるらしい。
地図でおおまかな位置を確認してみたけど、
そこへ辿り着くまでにはまだまだ距離がある。
――と、
次の目的地を目指して進み始めたものの、
僕の目の前はなにやら賑やかで……。
こっちへ寄るな、貴様!
クククッ!
そう言われると、
寄りたくなっちゃうなぁ!
このひねくれ者めっ!
キミにだけは
言われたくないねぇ~♪
あ……あはは……。
2人とも、
ケンカはそれくらいに……。
なんか不穏な空気が漂ってきたので、
僕はすかさず間に入った。
するとその直後、
2人は同時にこちらへ振り向いて、
ニコニコと微笑んでくる。
なんだろ、2人のこの晴れやかすぎる笑顔。
ちょっと薄気味悪くて怖い……。
アレス、腹は空かないか?
特別にお手製の干し肉をやるぞ?
ようよう、アレス~☆
干しキノコ食べるか?
コイツは薬効成分が含まれてるから
疲れが取れるぞぉ?
え……あの……。
2人はそれぞれ干し肉と干しキノコを持って
にじり寄ってくる。
なにこの得も言われぬ圧力……。
マネをするな、貴様!
どっか行け! シッシッ!
そんな何の動物かも分からない
怪しい干し肉なんか食べたら、
アレスがお腹壊しちゃうよぉ~!
失礼なっ!
貴様、殺されたいか?
いいのか?
オイラを殺したら、
勇者の証がなくなっちゃうんだぜ?
アレスを困らせたいわけぇ~?
うぬぬぬぬっ!
はぁ……。
最初からこんな調子じゃ、
先が思いやられるよぉ……。
想像以上に苦労することになるかも……。
まぁまぁ、2人とも。
そんなに対抗意識を
持たなくても――
っ……!?
…………。
なんか……急に目まいがした。
それと一瞬だけど
全身から力が抜けたようになって、
危うく倒れてしまいそうになる。
今はなんとか踏みとどまれたけど……。
まだ足が震えていて、立っているのがツライ。
全身から汗も吹き出してくる。
もしかしたら、
かなり疲れが溜まっているのかな?
どうした、アレス?
あはは、少し目まいがしてさ。
でも大丈夫だよ。
だが、
その汗の量、普通ではないぞっ?
顔色も悪いしな……。
よしっ!
オイラ、
薬草を摘んできてやるよ~♪
アレスはその間、ここで休んでろ。
……ありがとう、タック。
ここ数日の疲労が
一気に出たのだろう。
歩くペースを落とそう。
休憩も多めに取った方がいいな。
アレス、今日は無理をするな。
うん。ゴメンね。
僕は道の隅に座って、休ませてもらった。
だけどなかなか体調は良くならなくて、
結局この日はすぐそばで
野宿をすることになった。
それでも翌日の朝には、なんとか復調。
その後、
僕たちは歩くペースをやや緩やかにして、
街道を3日くらい進んでいった。
なお、ここは比較的整備されている
主要道なので、
往来する旅人や馬車などと
何度もすれ違っている。
一方、
動物やモンスターとは一度も遭遇しておらず、
これはブレイブ峠からシアの城下町へ
移動した時と状況が同じだった。
なぜそんな事態になっているのか、
相変わらず原因は不明。
だけど余計な争いが起きないのは
いいことだよね。
やがて僕たちは、
山あいにあるレビー村へ到着した。
もうすぐ日没なので、
今日はここに滞在する予定。
だから今はタックが情報収集をかねて
宿屋を探しに行ってくれている。
シアを出て以来、ずっと野宿だったから、
久しぶりにベッドでゆっくり休めそうだ。
そして酒場で、
おいしい郷土料理でも食べられたらいいなぁ。
とはいえ、旅の資金はミューリエの手持ちと、
僕の持ち物を売って
なんとか捻出している状態だから
あまり贅沢はできないんだけどね……。
町外れでタックを待っている間、
僕はひたすら剣の素振り。
相変わらずミューリエは
「まだ早い!」と言って、
剣の技を教えてくれない。
でもこうして自己鍛錬を続けていれば、
いつか教えてくれる時が来る。
それを信じて頑張るだけだ。
せめて自分の身を守れるくらいには
ならないと……。
いちっ、にぃっ、いちっ、にぃっ!
いくらか筋力が
ついてきたようだな。
だいぶ動きもマシになった。
ホント?
それじゃ、そろそろ技を――
バカもの。
まだ初心者レベルにも
達していない。
あくまでも、
『出会った頃と比べれば』の話だ。
まだまだ先は長いと思え。
そっかぁ……。
アレスー!
僕たちがそんな会話をしていると、
タックが走って戻ってくる。
あれ?
なんだか表情が硬いな……。
お疲れ様。宿は見つかった?
見つかったけどさぁ、
この村にはあまり長居しない方が
いいかもしれないぞ?
どういうこと?
最近、夜になるとアンデッドが
出るらしい。
あんでっど……って何?
ゾンビやグール、ゴーストみたいに
黄泉の世界からやってきた連中さ。
物理攻撃は効きにくいし、
毒や麻痺、呪い、混乱、即死といった
厄介な攻撃を
仕掛けてくるヤツもいる。
それと大抵、見た目がグロイっ♪
うあ……。
ヤツらは生あるものへの憎しみと
暗黒エネルギーによって動く、
人形のようなものだ。
場合によっては、
私でさえ手に余ることもある。
そういう相手だ。
へぇ、そうなんだ?
それはちょっと意外かも。
まさかミューリエがねぇ~☆
貴様には話しておらん!
話に入ってくるな!
へいへい。
まっ、そういうわけだから、
先を急ぐのも
アリかなぁと思ってさ。
相手がアンデッドじゃ、
アレスの魔法無効化能力も
あまり活かせないだろうしね~♪
えっ?
僕の力って魔法の無効化だったの?
違うのか?
オイラ、アレスの能力って
魔法の無効化だと
思ってたんだけど……。
そういえば、
タックは僕の力を体感しているんだった。
どういう状況だったのか、
話を聞いてみようかな?
ねぇ、タック。
鎧の騎士の制御が
できなくなった時、
僕の声は聞こえた?
いや、何も聞こえなかった。
不思議な力が
流れ込んでくるような感じがして、
勝手に魔法力が
小さく収まっていっただけさ。
だからオイラは魔法無効化能力だと
思ったんだよ。
でも僕はタックに
『戦うのをやめて』って
念じてただけだよ。
いつもそれで動物やモンスターは
戦うのをやめてくれてたから。
ふーん……。
なるほど……。
アレスの能力が、
なんとなくだが推測できたぞ。
えっ?
獣やモンスターのように、
本能が強く働く相手には
アレスの想いが
ダイレクトに伝わる。
だから戦うのをやめたり、
敵とは認識しなくなって
従順になるのではないだろうか?
あぁ、なるほど……。
だが、ある程度の知能を持ち、
本能が抑制されている種族には
ノイズが混じる。
その結果、
深層心理にだけ
アレスの力が作用し、
戦うのを避けようという行動を
無意識のうちに
起こしてしまうのだろう。
じゃ、
魔法力が収まっていったのは、
オイラ自身がやったってこと?
そうだ。貴様にはその意識が
なかっただろうがな。
――生物である以上、
最終的には本能の方が勝る。
いくら抵抗しようとしても
本能には逆らえん。
そうだったのか……。
あくまでも私の推測だ。
だが、もしそれが正しければ、
アンデッドだろうが
疑似生命体だろうが
どんな生物にも力は効くだろうな。
でも僕の力は人間には効かないよ?
それはアレスの力がまだ弱いか、
人間という種族に何らかの問題が
あるということだろう。
じゃ、
鎧の騎士に通じなかったのも、
まだ力が弱かったって
ことなのかな?
どうだろうな?
おそらく
そういうことなんだろうが、
実際のところは私にも分からない。
そっか……。
ミューリエの推測通りなら、
自己鍛錬を積み重ねていけば無用な戦いを
避けられる可能性が高まるって
ことかもしれない。
だとすれば、剣の腕を磨くだけじゃなくて、
瞑想みたいな
精神面の鍛錬も重要になっていくのかも。
やらなければならないことが一杯だなぁ……。
で、アレス。どうするんだ?
村で休む? それとも出発する?
僕の力がアンデッドに通用すると、
ハッキリ分かってればなぁ……。
私はアレスの判断に従うぞ。
オイラも~☆
さて、どうすればいいのだろうか?
アンデッドをなんとかするにしても、
今の状況では、僕は戦力にならないだろう。
だとすればミューリエやタックに
負担をかけてしまうことになる。
それならここは無理に関わらずに、
先を急いだ方が得策かも……。
――うん、そうだな。そうしよう。
じゃ、先を急ごうか?
避けられる戦いなら、避けたいし。
分かった。
では食材を買い込んだら
出発するとしよう。
こうして僕は先を急ぐ選択をし、
レビー村を早々に立つことにした。
だけど関所方面への出入口へ向かう途中、
僕たちは――
次回へ続く……。