いや、それは違うよ!

 エラくきっぱりと涼は言い切ってくれた。

 しかしこいつ……一度嘘ついてるしな。

 俺がしんねりと目を細めて見返したせいか、涼は焦ったように首を振る。

いや、ホントだって! 仲間の振りはしてるけど、仲間じゃないよっ。なんだったら、ヒロ君だって僕と同じことができる……このブレスレットがあればね!

 そう言って、安物くさいブレスレットを掲げて見せる。

僕はただ、たまたまコレを買っただけ!

買っただぁ? どこで?

池袋の路上アクセサリーショップ。今時、ヒッピーみたいな格好をしてた人が、カーペットみたいなの広げて売ってたんだよ

ふむ

 あまりにも嘘くさいので、逆にこれは本当かもしれないな。

 ようやく涼の胸ぐらを掴むのをやめ、俺は少し考えてみた。

つまり、こういうことか? そのブレスレットを嵌めると、何の仲間か知らないが、とにかく仲間が来たら、振動で教えてくれる。で、おまえは近付いてきた誰かに、仲間の振りをして答えた?


 俺も、似たようなことをやろうとマルイで試したので、この涼が同じことをしたとしても不思議はない。

 俺の場合は失敗したが、あの時だってカマかけがもう少し上手くいってれば、あるいはもう少し違う展開が望めたかもだ。

そうそう、そうそう!

 俺に認めてもらったのが嬉しかったのか、涼は十回くらい頷いた。

振動がすると、このブレスレットをした同じヤツが寄ってくるんだよ。おまえもか、みたいなこと言ってさ。だから、適当に合わせたら、何となく向こうが僕のことを仲間だと思ったらしくて……ユタカって人だと勘違いしてるみたい

ユタカねぇ

そう! そして、上手くその人と電話番号交換したから、それからちょくちょく連絡があるのさ。今のところ『敵が近くに来てるようだから、警戒しろっ』て連絡ばかりだけど。さっきも、マルイで怪しいヤツがうろついてるって連絡もらって――

ああ、それは聞いたよ。だから、駆け付けられたんだって言いたいんだろう?

そういうこと!

 良かった、これで納得してもらえたっ――みたいにニコニコしている涼だが、あいにくコトはそう簡単ではない。
 さすがに俺も、そんな簡単に信じられない。

おまえの話は一応、つじつまが合ってるけど、肝心な部分で疑問が残る

えぇーーっ

えー、じゃないんだよ

 俺はだんっと机を叩いた。

だいたいおまえの言う通り簡単に敵――まあ、どんな敵か知らんが――とにかくヤツらになりすませるなら、もっと他にも敵に紛れ込んでるヤツがいそうなもんだろ? それに、そんなブレスレットの振動だけで味方を見分けるなんてシステム、識別装置としては欠陥がありすぎる

そ、それは僕に言ってもらっても知らないよ……僕だって、三ヶ月前にこのブレスレット買って、それから綱渡りの毎日だしねー

ほぉ? で、今の時点で、わかったことは

いや、残念ながらあまりない

 涼は真面目な顔で言いやがったが、正直俺は、こいつはどっかで嘘をついているか、あるいはさっきと同じで隠し事があると思う。

 しかし、涼の方はもうすっかり誤解が解けたと思ったのか、熱心に身を乗り出した。

でもさ、わかったこともあるんだ。たまたま知ってしまったことだけど……お陰でちょっと僕もびびっちゃってー

前置き長いっ

 俺が一喝すると、涼は頭をかいてようやく結論を言った。

どうもこの謎の集団、人の血を吸うらしいんだよね……

 思わせぶりにそんなことを吐かしたせいか、部屋の空気が一気に重くなった。






 それからしばらく問い詰めたが、涼はのらりくらりと会話を続け、大した情報は出さなかった。おそらく何かを知っているかあるいは隠しているんだろうと思うが……俺を助けようとしたのも事実なので、そこに免じて今日は黙って引き上げることにした。

 まあ、ヤツの方も俺に興味ありそうだし、まさか逃げないだろう。

さあ、家に帰って妹手作りの料理でも食うかねぇ


 中野から自宅近くの駅に戻った俺は、平穏なことを呟いて家路を歩いていたが……結局、今度もわざと脇道に逸れて、人気のない裏路地の方へと歩く羽目になった。

 というのも……またしても尾行に気付いたからだ。

 ビルとビルの隙間のような薄暗い路地を歩き、俺は適当なところで、振り返る。

 一見、誰もいないように見えるが、もちろん気配があるので、そんなわけない。

それで……今度は誰かな

 出てこなかったから、こっちから引きずり出そうと思ったんだが、今回はあっさり角から女の子が姿を見せた。

 しかも……つい数時間前に見た顔である。

おまえ……ええと、りせちーだっけ?

誰よ、それ!?


 不機嫌120パーセントの声音で、制服着用の女子高生……みたいな女が柳眉を逆立てた。

わたしはリーシャよ! マルイで会った時、名乗ったでしょう。その年でもうボケてるの、あなた!?

 ……相変わらず見かけがきっつい上に、口も悪い女の子だった。

 だが、俺は美人にはフレンドリーに接することにしているので、柔らかく言ってあげた。

わあ、そりゃちょうどいい。そのうち、君とも会いたいと思ってたトコだ

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