鎧の騎士との戦いが始まった。
広間の隅では、ミューリエが真剣な表情で
僕の様子を見守ってくれている。
一方、タックさんは
彼女の数メートル横にある岩の上に座り、
ニタニタと悪戯っぽい笑みを浮かべながら
僕たちの戦いを眺めていた。
行くぞっ!
鎧の騎士との戦いが始まった。
広間の隅では、ミューリエが真剣な表情で
僕の様子を見守ってくれている。
一方、タックさんは
彼女の数メートル横にある岩の上に座り、
ニタニタと悪戯っぽい笑みを浮かべながら
僕たちの戦いを眺めていた。
ゴォアアアアッ!
鎧の騎士の動きはそんなに速くない。
ただ、その代わり一撃は重そうだ。
岩のモンスターとタイプは似ているかも。
だとすれば、早めになんとかしないと
僕の身体が耐えられない。
攻撃を食らうにしても、2、3発が限界か……。
へぇ、大したものだね。
随分と落ち着いてるじゃん。
これなら少しはやってくれそうだ。
…………。
僕は深呼吸をして心を落ち着けた。
そしていつものように想いを念じ始める。
――っ!? なんだアイツっ?
急に戦意を消しやがった!
しかも隙だらけじゃないか!
鎧の騎士よ、僕は戦いたくない。
どうか動きを止めてくれ。
…………。
もともと僕たちは
敵同士なんかじゃないんだよ?
鎧の騎士は僕に向かって突進してくる。
その勢いは変わらず、
大きく右腕を振り上げたまま接近し――
――えっ?
ガガガァッ!
ゴハァアアアアアアァーッ!
アレスーっ!
――一瞬、僕の意識が飛びかけた。
目の前が白く霞んで、息ができなくて、
何の音も聞こえなかった。
岩のモンスターの一撃なんて
比べものにないくらい強烈なパンチ。
その上、身体は壁にまで吹っ飛ばされ、
背中側まで大きなダメージを食らってしまう。
なんだ……これ……?
様子がおかしい。
動物やモンスターに対して念じた時とは、
どことなく相手の動きが
違うような気がする……。
か……はぁ……っ……。
あいつ防御もせず、
マトモに腹に食らいやがった。
でもまぁ、ヘタに防御していたら
むしろ終わっていただろうね。
力が抜けていたからこそ、
衝撃を多少は受け流せたわけだし。
ただ、呆気なく終わっていた方が、
幸せだったかもしれないよぉ~ん♪
だって立っている限り、
戦いは終わらないんだからさ~☆
はぁ……はぁ……。
どういうことだ?
もしかして、
鎧の騎士みたいな疑似生命体には
僕の力が通じないのだろうか?
だとしたら、僕に打つ手はない。
可能性があるとすれば、
ヤツの急所を見つけて
そこを衝くくらいしか……。
――いや、例え急所を見つけられたとしても、
僕の剣の腕では、おそらく無理。
くっ、何か打開するためのヒントは……。
敵を見誤るな!
そうだ、戦いが始まる直前、
ミューリエはそんなことを言っていた。
敵を見誤るな……か……。
ガォオオオオォーン!
くそっ!
考えている間にも、
鎧の騎士は再び僕に向かってくる!
さっきの感じだと、2、3発どころか、
あと1発食らったら終わりだ。
なんとか避けないと!
くっ!
うわっ……とととっ!
鎧の騎士を寸前にまで引きつけ、
足と足の間をすり抜ける形で攻撃をかわした。
思った以上に動ける。
少しは走り込みが役に立ったのかも。
……もちろん、
運も味方してくれたんだろうけど。
へぇ、やるねぇ~っ☆
アレス……。
はぁっはぁっ!
とはいえ、状況は全く変わらない。
依然としてピンチ。
時間が経てば経つほど体力は失われるわけで、
いつまでも避けられるわけでもない。
ミューリエは心配そうに僕の方を見ている。
タックさんは相変わらずケタケタと笑っていて
実に楽しそうだ……。
……ん?
っっっ!
――待てよ?
もしかしたら……
本当にもしかしたらだけど、
僕のヒラメキが正しかったとしたら――
可能性は……あるっ!
よしっ!
僕は意を決し、力を振り絞って走り出す。
そして鎧の騎士と距離を取り、
とある『狙い通り』の位置へ移動した。
――ここなら、きっと効果が出るはず。
……っ?
っ!
たまたま僕と目が合ったミューリエが、
微笑みながら小さく頷いてくれた。
ということは、もしかしたら僕のヒラメキは
当たっているのかもしれない。
起死回生の策であればいいんだけど……。
もう僕の体力は残り少ないから、
そんなに多くのことはできない。
――これが最後のチャンス。
次の行動に全てを賭ける!
すぅ~はぁ~……。
僕は深呼吸をして心を落ち着けた。
そしていよいよ――
次回へ続く!