ミューリエが町から戻り、
僕たちは再び試練の洞窟へ入った。

彼女が買ってきてくれた魔法薬のおかげで、
走ったことによる疲労は完全に回復。
……と言っても、
あの岩のモンスターが回復魔法みたいなものを
僕にかけてくれていたから、
使わなくても大丈夫だったんだけどね。


今回の挑戦では僕が先に進み、
後ろからミューリエが付いてきている。

もし僕の力が通用しなかったら、
タックさんのいる場所までは
辿り着けないだろうな。
そうなったら、
勇者の証を手に入れるどころか、
ミューリエとの旅はここまで。

逆に言えば、
タックさんのところへ辿り着けたなら、
勇者の証が手に入る可能性が出てくる。
 

ミューリエ

これでアレスとの旅も終わりだな。

アレス

そうはさせないさ。

ミューリエ

自信ありげな顔だな?
何かあったのか?

アレス

内緒っ♪

ミューリエ

ふふ、そうか。
どうなることやら……。

ミューリエ

ただし、無理はするなよ?
私が危険と判断したら、
勝手に加勢するからな?

アレス

その場合、
ミューリエとの約束は
ダメになっちゃうの?

ミューリエ

残念ながら、そうだ……。

アレス

じゃ、絶対に手を出さないで。

ミューリエ

なんだと?

アレス

悔いは残したくないんだ。
その代わり、本当にダメだと思ったら、
助けを求める。
それでいいでしょ?

ミューリエ

しかしな……。

アレス

僕、どんなピンチになっても
絶対に乗り越えてみせる。
だから、お願い。

ミューリエ

分かった。

 
僕たちはさらに洞窟の奥へと進んでいった。
幸いなことに、モンスターとは遭遇しない。
 
あの力を試したいところではあるけど、
なるべく体力を温存したいという気持ちもある。

――うん、
やはり無駄な戦いは避けるのが一番だ。
 

アレス

っ!?

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
何者かの気配を感じ、僕は思わず身構えた。

――そしてついに
僕らの前にモンスターが立ちふさがる。
 
 
 

 
 
――スライムだ。


でも初めて出遭った時と比べると、
恐怖も焦りも感じない。

むしろすごく心は静か。
相手の動きがハッキリと見えるし、
次の行動の予測も容易につく。
  

ミューリエ

スライムが出たぞ?
どうする?

アレス

あれは動きが遅い。
だから無理に戦う必要はないよ。
逃げよう。

ミューリエ

逃げるだと?

アレス

戦闘が避けられるのなら避ける。
戦略のひとつだよ。
逃げるのは禁止されてないよね?

ミューリエ

確かに。
もっとも、
いつもうまくいくとは限らんがな。

アレス

分かってる。
逃げられない時には、
腹を据えて戦うさ。


スライムの次の動きを予測し、
隙を見て僕たちは逃げ出した。

やはりヤツは追いついてこられない。
それとも走り込んだおかげで、
少しは僕の速力が上がったのかな?
 
 
 
それから程なくして、
今度はデビルバットが正面から飛来してくる。
 
 
 

 
 
 

ミューリエ

今度はどうする?

アレス

あいつは動きが素速いからね。
逃げるのは難しいかもしれない。

アレス

よしっ! 今回は戦う!

ミューリエ

では、アレスの戦いっぷり、
見せてもらうぞ!

 
僕はミューリエを下がらせ、1人で前へ出た。

するとデビルバットは
こちらを標的に定めたのか、
まっしぐらに飛んでくる。

それを見て僕は剣を鞘にしまい、
深呼吸をして心を研ぎ澄ませた。
 

アレス

…………

ミューリエ

剣を納めて棒立ちだとっ!?

アレス

見てて。
これが僕の戦い方だよ。

 
僕は振り返り、
ミューリエに対して満面の笑みを浮かべた。

それから再びデビルバットの方へ向き直ると、
想いを念じ始める。


大丈夫、岩のモンスターには通じたんだ。
今回だってきっとうまくいくさ!
 

アレス

僕はキミと戦うつもりはない。
だから襲わないでくれ。

アレス

友達になろうよ!

ギギギッ!

アレス

うくっ!

 
鋭いツメの攻撃を腕に食らった。
服が筋状に破れ、
下から真っ赤な血が滲んでくる。

でも岩のモンスターの攻撃に比べれば、
これくらい全然へっちゃらだ。

彼は未だに僕の周りを飛び回り、
次の一撃を狙っている。
 

ミューリエ

…………。

アレス

……いいよ。
気が済むまで、落ち着くまで攻撃しな。
僕は何もしないから。

アレス

――ぐっ!

 
今度は太ももへの攻撃。
さっきよりもちょっと傷が深かったのか、
熱を帯びて痺れるような感覚になってくる。

……立っているのがツライかも。

でも、まだまだっ!
 

アレス

……おいで!

ギ……ギギ……

ミューリエ

ほぅ!?

アレス

あはっ♪

 
ついにデビルバッドは攻撃するのをやめ、
僕の服に止まって翼を休めた。
もはや敵意は感じられない。

――やっぱり僕の力、
モンスターにも通用するんだ!
 
 
 

ミューリエ

モンスターとも
意思疎通ができたか。
アレスよ、
それはすごいことなのだぞ?

アレス

そうなの?

ミューリエ

あぁ!
魔族であっても
モンスターの使役には
苦労すると聞く。
お前はそれを
簡単にやってしまったのだからな。

ミューリエ

やはりお前はすごいヤツだ!

アレス

えへへ!

 
 
 

 
 
 
その後、
デビルバットは僕たちを先導するように
飛び始めた。
おかげでほかのデビルバットや、
彼よりも弱いモンスターである
スライムも襲ってくることはなかった。
 
どうやらこの洞窟には
個体数こそ多いものの、
単体ではデビルバットよりも
強いモンスターは生息していないらしい。
 
おかげでこれ以上の戦闘は避けられたのだった。
 

 
そしてついに――
 
 
 

 
 
 
 
 
僕たちはタックさんの待つ大広間へ到着した。

ということは、ミューリエとのあの約束を
果たしたことになる。
 

アレス

ミューリエ、
僕はタックさんのところへ
自力で辿り着いたよ?
だからこれからも
一緒に旅を続けてくれるよね?

ミューリエ

もちろんだ!
そういう約束だったからな!

ミューリエ

だが、まさか本当に成し遂げるとは
思わなかったぞ?

ミューリエ

人間は大した力もないくせに、
思いも寄らぬ奇跡を
起こしたりする。
面白いものだな。

アレス

そうだね。
必死になれば、
きっとなんとかなるんだよ!

 
本当に良かった!
これからもミューリエと旅ができるんだ!

あとはこの勢いのまま、
タックさんの試練もクリアして勇者の証を
もらうんだ!


――僕たちはそのまま大広間を進んでいく。
 

アレス

タックさん!

タック

んっ!?

 
タックさんは、
出会った時と同じ場所で寝転んでいた。
 
そしてこちらの存在に気付くと、
目を丸くしながらヒョイッと起き上がる。
 

タック

なんだ、お前か。
まだいたのか。何の用だ?

アレス

試練を受けさせてください!

タック

はぁっ?

タック

オイラは言ったはずだぞ?
自分の力だけでここまで来いって。
それができない限りはお断りだ!

アレス

僕は自分の力だけで
ここへ来ました。
本当です。

ミューリエ

その通りだ。
私は何も手出しをしていない。

タック

はぁっ? 嘘だろっ!?
だってあれからそんなに時間は
経ってないじゃん!
それなのに急に強くなるなんて
あり得ないっ!

ミューリエ

強くなったというよりも、
アレスには元々それだけの力が
あったということだ。
それならきっかけさえあれば、
短期間で化けることは
充分あり得る。

ミューリエ

男子三日会わざれば刮目して見よ。
貴様自身の目で確かめるがいい。

タック

…………。

タック

よく分からないけど、
彼が自分の力だけで
ここまで辿り着いたというのは
本当みたいだね。

タック

いいよ、試練を受けさせてやるよ。

タック

せいぜい頑張ってね。

 
タックさんは手振りで空中に印を描いていった。

やがてそれは光を放ち始め、
周りの空間が徐々に揺らぎ始める。
 
 
 

 
 
 

アレス

……ごくっ。

 
なんだか緊張してきた。

タックさんの話では、
命までは取られないらしい。
でもダメージを受けて大怪我をすることは、
あり得るとのこと。

僕の身体が最後まで耐えるか、
それとも鎧の騎士の攻撃が勝るか?


――さぁ、勝負だ!
 

ミューリエ

アレス!

アレス

っ? ミューリエ?

ミューリエ

アドバイスだ!
敵を見誤るな!

アレス

それはどういう――

 
 
 

 
 
 
そうこうしているうちに、
目の前には鎧の騎士が現れた。



――お、大きい!
岩のモンスターを
さらに一回り大きくしたような感じだ。

思わず怯んでしまった。
  

アレス

……くっ!

タック

こいつを呼び出したのも
久しぶりだなぁ!
では、見習い勇者くん、
楽しませてもらうよ~☆



最初の勇者の試練が、いよいよ始まるっ!
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第11幕 再挑戦! 試練の洞窟へ!!

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