太陽が真上からさんさんと光を送ってくれる時間帯、俺はミンにつれられて、その屋敷の食堂まで案内された。


 驚いたことに、俺の部屋は離れの小さな屋敷だったようだ。



 本家の屋敷まで移動する。その移動手段は、なんと船。

 この屋敷は、大きな湖の上に建てられていたのだった。

 船に乗りながら下を見ると、鯨かと思うような魚がうようよと泳いでいる。恐らく鯉だけれど、怖すぎる。

防護魔法がかかってる、安心しろよ

 ミンいわく、そういうことらしいので、どきどきしながらも俺は船の旅を満喫した。

 しかし、本家から離れまで移動するのに、船で五分もかかるって、どんだけ広い家なんだ。
 とんでもなくお金持ちのお嬢様なのだろうか。





 本家の屋敷に到着し、数々の使用人にじろじろと見られ、どぎまぎしながら食堂へとたどり着く。

 大きな食堂の長テーブルの先に、ロッサ様とか言うこの屋敷のお嬢様がちょこんと座っていらっしゃった。

 ロッサ様を囲むようにしてご両親でもいるものかと思ったが、彼女一人だけだ。

では、私はここで

 ミンはあっさりと頭を下げ、まじかよと目で訴える俺にウインクを投げ飛ばし、微笑みながらご退出された。

 残されたのは、俺と、お嬢様のみ。



 頭に可愛らしい薔薇をもした花飾りをつけたお嬢様は、ちらりと俺の方に目をやり、恥ずかしそうに目を伏せた。

どうやら照れ屋であるらしい。


 作法も何もわかったものではないが、俺はとりあえず彼女の前に歩いていった。

……はじめまして。俺は、アキレアと言います

……ロッサ、です

 言って、頬を思いきり染めるお嬢様。

短い名ですが、ロサ、とお呼びいただけると……光栄です

 最後の方はもう、消え入りそうな小さな声だ。

 ロサ様、と俺が言うと、彼女はうつむいたまま、ぷるぷると顔を何度も横に振る。

呼び捨てで、構いません……呼び捨てで

わかりました、ロサ。俺のことも、アキとお呼びください

……アキ

 言って、これ以上ないほどに赤くなるロサ。なんなの、どういうことなの。

……座っても?

……ええ

 着席する俺。沈黙が重い。

何の話をするかで、評価が決まりそうですよ!

 サンザシ大先生は隣でそう言って拳を握りしめた。意味がわからん。

 しかし、サポート役がこう言うのだ。このお見合いは、うまくいったほうがいいのだろう。

びっくりしました、まさか、声をかけられてこんなところに呼んでいただけるなんて

……突然、すみません

いえ、そんな。光栄でした、ありがとうございます

……に、……ですね

 声が聞き取れない。何をいっているのだろうか。

 聞き返したいが、聞き返すと黙ってしまうのではないか、とも思うが、でも聞き返さないと話が始まらないし……ああ、女の子との会話っていつも大変!


 と、そこで、はっとする。




 いつも、だって?




 感覚が俺を襲う。吐き気がする。


 ずっとずっと前の、感覚。


 場所も時間も相手もわからないが、ずっと前。このゲームに参加するよりも前。




 確かに俺は、こんな感覚に陥ったことが――ある。

3 あなたに捧げるその花の意味は(5)

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