目を覚ますと、サンザシが心配そうにのぞきこんでいた。

崇様!

サンザシ……

あ? サンザシがどうしたんだよ?

 騎士の声だ。

サンザシが見えるのか?

 体をおこし、大きな声を出してしまう。

 部屋の中にあるソファに腰かけていた騎士は、目を丸くしながら、いや、と首を横に振る。

ここの近くにサンザシの花はねえよ……どうした、急に

ああ……ごめん、なんでもない、寝ぼけてた

 ふう、と一息ついたところで、腹部に激痛が走る。

いっ……でえ!

すまん、強く殴りすぎた

ざけんな……って、ここは?

 ずいぶんと豪華な部屋だ。

 俺のベッドもふかふかのダブルベッド。

 頭上に煌めくシャンデリア。

 俺一人を寝かせておくには広すぎる部屋には、様々なインテリアが並べられている。

依頼人様の屋敷だよ。

依頼人様の名前はロッサ様だ。失礼の無いようにな。

結婚できればいいな

話が早いな……っていうか、俺はあんたの名前、知らないんだけど?

そういうあたしも、あんたの名前を知らないね

俺は、アキレア

私はジャスミン。ミンでいい

 この世界では、省略して名前を呼ぶ習慣があるのだろうか。試しに言ってみる。

俺も、アキで構わない

そうか、アキ

 俺の名を呼んで、ミンはにこりと微笑んだ。

 今までずっと険しいかおをしていたからわからなかったけれど、笑うとずいぶんと幼くなる。

 いつもそうしていればいいのに。

サンザシって、妹かなんかか?

 ミンがけろりと訊いてきた。

 突然の推理に、ぎくりとする。

 なぜだ、と思うが、そういえば彼女の名前はジャスミン、俺もアキレア、両方植物。

 ルキの本名も、オルキデア、花の名前――蘭の花、だったか。

 どうやらこの世界の人の名前は、植物からとられるようだ。
 いろんな世界があるもんで。

びっくりしました……

 サンザシも、となりで胸を押さえながら驚愕している。いや、ほんとに驚いた。

いや、単純に好きな花だよ

 適当にごまかすと、ふうんとミンはうなずくだけだった。さほど興味はないらしい。

見合いはいつでもいいってさ。勇者様の好きな時間帯を教えてくれ

……今、何時なんだ?

朝だね。朝食を少し過ぎた辺りだ

じゃあ、昼食の時にでも……

はいよ

 ミンはうなずくと、部屋を出ていった。あっさりとしたものだ。

なあサンザシ、この世界の人は、婚約者を探していますよっていうのがしきたりなのか?

いえ、若い人たちのブームのようですよ

 ブーム! こちらもずいぶん、あっさりとした返答だ。なるほどねえ。

なんだか、ゲームみたいだよね

ゲームですけどね

そうでした

3 あなたに捧げるその花の意味は(4)

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