美味しいご飯をたらふく食べて、満腹のうちに宿屋へ戻った。

美味しそうでしたね、私も食べたかったです

 部屋はもちろん別々。部屋に戻ると、サンザシが残念そうに言った。

食べればよかったじゃん、俺のやつ、こっそりさ

いえ、食べることができないのです

え、そうなの

はい。私はこの世界の人には見えません。この世界にいないも同様なのです

なるほどねえ……あれ、でも、カレーは食べてたよね?

 最初の世界を思い出す。姫様のカレーを、この子はモグモグ食べてたぞ?

私のことを認識できる方がくださったものなら、話は別なのです

姫様がイレギュラーってことか……いやあ、今日のご飯美味しかったな

もう、ひどいです!

 頬を膨らませ、ぷんぷんと起こっている。やっぱりこの子は、可愛らしい。

ごめんごめん

許しません!

 きゃっきゃたわむれていたところに、ノックの音が飛び込んでくる。

 サンザシがあわてて口を押さえる。ルキかな?

誰?

さっき、飯屋で隣どうしになったやつだよ。少し聞きたいことがあるんだ

 女性の声だ。低くて落ち着いた声。俺は警戒して、

どうど、そこで話してくれ

 といい放つが、扉の向こうの彼女は、納得がいかないようだ。

嫁探ししてるんだろ? 

いい情報だから、聞いとけよ

 そういえば俺は、公開嫁探し中なのだった。

 開いた方がいいのか、危険なのか? サンザシに視線をやると、さあと彼女は首をかしげた。俺が選べ、ということらしい。


 まあ、動いてみる他無いだろう。恐らく今回のゲームのゴールは、婚約者探しなんだろうし。

 扉をゆっくりと開ける。

 そこにいたのは、褐色の肌に赤い髪の毛、全身を金の防具で包んだ、まあ強そうな女性だった。

 女騎士、とでもいうのだろうか。

お、思ったよりちいせえな

お前も十分小さいだろ、花より小さいくせして

あん?

言葉遊びはおいといて。

で、なんの用事だよ?

雲の谷の向こうがわ出身なんだろ?

 俺は眉をつり上げる。出身の話をしていたのは、確か、飯屋を探しながら……ってことは。

つけてたのか? 何の用だよ

……嫁探しの話だって、おまえ、これみたらわかるだろうが!

 騎士さんは、ずいと顔を寄せ、自分の額を指差して見せる。

 なにかと思えば、そこには赤い宝石が埋め込まれていた。

これでも自己紹介が必要か?

……お願いします

……まじでおまえ、嫁探ししたいんだろうな

……一応

 はん、と騎士さんに鼻で笑われた。

だったとしたら、宝石の意味ぐらい覚えとけ。

赤色宝石をつけているあたくしめは、代行人だ、婿探しのな! 

代行人をおくぐらいなんだから、そんぐらいの地位の相手なんだぜ? 

ったく、喜ぶと思ったのに肩透かしくらっちまった……そんで、おまえ、どこ出身なんだよ? 

雲の谷の向こう側だろ……滝の園か、太陽の都か?

……さあな

そこらへんなんだな?

 騎士はにやりと笑って、よしよしと手をもんだ。勝手に話を進めてくれる。

あたしの依頼人は、勇者で、故郷から遠くにいる人っていう、少しかわった注文を出してきてるんだ。

なんでも冒険家さんがいいんだとよ。

よかったな

 よかったのだろうか。よく分からないので、無言で待機をしておく。

お前をつれていくぜ。ちなみに拒否権はねえからな

 なんと。ひどすぎる。

なんで拒否権ねえんだよ

拒否するつもりなのかよ? 

こんなにいいはなし、めったにないぜ? 

断るなんてもったいねえよ

いやいや、まてよまてまて、おれにも都合が

ったく、めんどくせえなあ!

 騎士さんが腕をひき、なにかと思えば、次の瞬間、俺の懐にものすごい勢いで拳がめり込む。





 あっ、と小さい悲鳴をあげるサンザシさんの声を聞き、いやいや、助けてくれないのかよと思いつつ、世界が暗転する。


 こうして俺は、突如、強制的に、お見合いをさせられることとなった。

3 あなたに捧げるその花の意味は(3)

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