地球から108光年離れたとある惑星――

イプシロン

ラムダ? おーい、ラムダの奴はどこだ?

イプシロン

え? 太陽系第三惑星の視察に行ってる?

イプシロン

それにしちゃ時間がかかりすぎだろ。あんな星の存続判定なんて一瞬で済ませられるじゃんか。

イプシロン

まったく、あいかわらずグズのラムダだな。

イプシロン

そうだ! 今からオレが行ってやろう。どうせ太陽系第三惑星なんてド田舎のド辺境なんだろ。即効でバンしたって誰も困らねえだろうし。

イプシロン

んじゃ、ちょっと行って来るわ!


一方、ここは太陽系第三惑星、地球。

星野亘

……ふう。道路工事のアルバイトは想像以上にキツイなあ。腰がメリメリいうよ。

星野亘

日払いにつられて働き出したけど、考えてみれば僕はあんまり体力に自信がなかったんだよね。

星野亘

でも、こうでもしないとラムダを満足させられる食事は用意できそうにないし……。

星野亘

あーあ。都合よく異世界の扉が開いたりしないかな。ここではないどこかへ行きたい。

星野亘

うわあああ、な、なんだ!

星野亘

……って、前にも似たようなことがあった気がするな。

イプシロン

ふーん。ここが太陽系第三惑星、地球ってやつか。想像してた通りのクソ田舎だな。

星野亘

……ア、アレ? この少年、変な格好がラムダと似てないか?

イプシロン

お、地球代表のサンプルモデルをさっそく発見。流石はオレ。仕事が早いね。

星野亘

き、君。もしかしてラムダの関係者か何か?

イプシロン

うっわー。冴えない喋り方。べちゃべちゃした声。締りのない顔。こりゃ駄目だな。

星野亘

え、ダメって何が?

イプシロン

オレだったらこんな星とは交易したくねー。絶対にしたくねー。ってなわけでこんにちは。オレの名前はイプシロン。そしてサヨナラだ。


いきなり分厚い光線が僕に向けて照射された。

星野亘

う、う、うわああああ!


突如、僕の横からブルーレイがほとばしった。

二つの光線はぶつかりあって空中で相殺された。

ラムダ

どういうことダ、イプシロン。

星野亘

ラ、ラムダ!


いつの間にかラムダが僕の隣に立っていた。

イプシロン

よーお、ラムダ。元気してた?

ラムダ

普通ダ。それよりなぜ、星野亘を攻撃しダ。彼はこの地球の代表サンプルなんダが?

イプシロン

知ってるよ。だから処分しようとしたんだ。そいつの顔を見た途端、この星の平均水準がいかに低いか、すぐに理解できたからさ。

イプシロン

まあ、グズのラムダはオレより頭の回転が遅いから、判断を下すのに時間がかかるのかもしれないけどな。

ラムダ

確かに我はイプシロンよりも処理速度が遅い。それは認めるダ。しかし、この星の決定権は我にある。イプシロンには、ないダ。

イプシロン

杓子定規なこと言ってないでさ、オレの判断に従ってさっさと済ませちゃおうぜ。それで余った時間はオレとアンドロメダ星雲に最近オープンしたブラックホール遊園地に行こう。

ラムダ

遠慮するダ。

イプシロン

なんでだよ?

イプシロン

グズのラムダはオレの言うこと聞いていりゃいいんだよ! さっさとそいつをぶっ殺して、地球もぶっ壊して、ブラックホール遊園地に行くんだ!

イプシロン

それとも何か? この星を存続させたい理由でもあるってのか?

ラムダ

……それは、言えないダ。

イプシロン

なんでだ! クソッ!


イプシロンは再び僕に向けて光線を放った。

ラムダ

させないんダ。


両者の光線は空中でまたもや相殺された。

星野亘

……ラ、ラムダ。


普段であれば簡単に地球を壊すと言ってくるラムダが、

地球を、そして僕を守るために戦っている。

星野亘

こ、怖い! でも、ラムダが僕のために戦っている! 僕だけ逃げるわけには……

ラムダ

星野亘。勘違いするんじゃないダ。


激しい戦闘を繰り返しながら、ラムダが言った。

ラムダ

我が戦っているのは地球にはまだ美味しいものが残っていると予想されるからダ。

ラムダ

そして星野亘を守っているのは、食事を効率良く提供させるためダ。個人的な感情はないダ。

星野亘

………………

星野亘

アニメやマンガではこういうのをツンデレって言うらしいけど、ラムダの場合はきっと素で言ってるんだろうなー。


僕は流れ弾に当たらないように二人から離れた。

正直、宇宙人同士の戦いで僕の出る幕はないのだ。

イプシロン

ムカツク! ムカツク! オレの思い通りにならないことは全部ムカツク!!!


しばらくは対等な戦いのように見えていた。

しかし徐々にラムダが圧され始めた。

ラムダ

しまっダ! エネルギー切れダ! お腹すいダ!

イプシロン

グズのラムダがオレに歯向かいやがって! 後悔しろ! 喰らえ!


イプシロンの光線によりラムダの右手が消し飛んだ。

ラムダ

……………!?

星野亘

ラムダッ!!!


気がつけば僕はイプシロンの前に飛び出していた。

星野亘

や、や、やめてくれ!

ラムダ

星野亘! 逃げるんダ!


怖かった。足が震えた。

でも逃げるわけにはいかなかった。

星野亘

は、話せばわかる。い、いや。食べればわかる。ラムダが地球を守ろうとしているのは、地球の食べ物が美味しいからなんだ。

星野亘

き、君も地球の食べ物を食べればきっと気持ちが変わってくれるはずだ! かつてラムダがそうだったように!

イプシロン

ふーん。そういうことか。へー。

イプシロン

じゃあさ、その美味しい食い物ってのを持ってこいよ。3分間だけ待ってやる。

星野亘

本当に!? あ、ありがとう!


時間がないから僕は最寄りのコンビニに駆け込んだ。

そしてハッピーターソを購入して戻ってきた。

ラムダと同じ宇宙人なら、これで恍惚になるはずだ。

イプシロン

じゃあ、食うぜ。

星野亘

こ、これできっと……

ラムダ

……ダ、ダメなんダ。

星野亘

……え?

イプシロン

全然ダメだ。まったく美味くねえな。


イプシロンはハッピーターソを爆発させた。

路上には魔法の粉や破片が舞い散った。

星野亘

……な、なんで?

ラムダ

イプシロンは我々の誰よりも能力が高いエリートなんダ。しかし……!

ラムダ

超弩級の味オンチなんダ!

星野亘

は? 味オンチ?

イプシロン

うるせーぞ、繰り返すんじゃねえ!


――次回、 
第二の使者、イプシロン(後編) 

第二の使者、イプシロン(前編)

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