ライカ

痛てて……
ファリアスのヤツ、思いっきり殴りやがって

ライカ

ま、あいつならきっとエクリプスを討てるだろうな
そうすりゃ、アンラドだってもっと待遇が良くなる

ライカ

火を着ければしっかり燃え広がる
それがあいつのいいとこだな

ライカ

さてと、帰りますか
お土産はと……もうこんな時間に店なんかやってないか

ライカ

よしっ、と

ライカ

ただいまー

ライカ

お、さすがに先に寝たか?
ついてるー

スタイア

おかえりなさい
遅かったね

ライカ

居間で勉強してたかー

ライカ

いやー、先生が話聞きたいってずっと

スタイア

それはそうだよ
勇者の話なんてあんまり聞けるものじゃないから

スタイア

って、どうしたのその頬

ライカ

えっ? いや、なんかおかしいか?

スタイア

おかしいよ。それ、殴られたんでしょ?
大丈夫? なんで? 誰に?

ライカ

大丈夫、心配すんなって

スタイア

心配するに決まってるでしょ!

ライカ

うっ

スタイア

何があったの?

ライカ

ホントに大したことじゃないって
ケンカに巻き込まれたって感じで

スタイア

ライカがそんなきれいに貰うはずないじゃない!

ライカ

いやいや、気を抜いてたらそうもなるって

スタイア

ウソついてても意味ないよ
ホントかどうかわかる異法があるんだから

ライカ

えっ、いや、ちょっ

スタイア

正直に言うならちょっとは怒らないであげる
でも、このまま使わせて、そしてウソだったら……!

ライカ

わかった! わかった!
ファリアスだよ。あいつにたまたま会って、それでちょっとケンカになったんだ

スタイア

ファリアス……さん?
それってあの勇者の?

ライカ

そうだそうだ
なんか用事があったみたいで、それで史跡の講習会に来ててそれでまあ

スタイア

それで、資格猟師のことでケンカになったんだね?

ライカ

よくもまあわかるもんだ

スタイア

わかるよ。だってその勇者さんの気持ちになったら……

ライカ

はっ、はは……そりゃそうだな

スタイア

だったら……

ライカ

適当に誤魔化してもよかったけど、どうにもそう上手くいきそうもなくてな

スタイア

そういう、ことじゃない、よ
そういうことを言ったんじゃ、ない、よ

ライカ

…………

ライカ

今のオレは勇者じゃない、資格猟師だ
それに、もう勇者に戻れなくなった

スタイア

それって……まさか……

ライカ

ああ、ファリアスに勇者資格証を持っていってもらった
これでオレは資格放棄者だ

ライカ

勇者ライカ・アベインでも、単独行ライカでもない
資格猟師だ、ただの

ライカ

ま、代わりに資格を三つ持ってるからな
これからもっともっと増やして、強化していくぞ

スタイア

ライカ……ムリしてない?

ライカ

ム、ムリ?

スタイア

あたし、いつでもライカの味方でいたい

スタイア

本当の味方に……

ライカ

本当の、味方?

スタイア

ねえ、ライカ
どうして資格猟師になろうって思ったの?
あんなに勇者になれたのを喜んでいたのに

ライカ

やったぞスタイア!
オレ、勇者だって認められたぞーっ!!

ライカ

あの時はそうでも、生きてるんだから心変わりだってあってもおかしくはないだろ

スタイア

ねえ、何があったの?
あの大きなケガが原因なの?
あたしにはわからない、後遺症があるの?

ライカ

…………

スタイア

黙ってちゃ……ぐすっ、わからない、わからないよぉ……ぐすっ

ライカ

スタイアっ?

スタイア

あたしじゃなんにも支えにならないかも……しれないけど、ぐすっ

スタイア

でもっ、なりたいのっ!

スタイア

わがままだって思う。でもっ、ライカが苦しんでいるならあたしは……あたしだって苦しいのっ……!

ライカ

おいおい、泣くなって
小さい頃みたいだぞ

スタイア

ライカぁ……ぐすっ、ぐすっ……

ライカ

…………

ライカ

スタイア、残念だけどオレはムリもしてないし、別にケガの後遺症なんかもないぞ

ライカ

オレはオレだ
変わらず、そのままだ
別に何か変な術を掛けられたわけでもない

ライカ

でも、そうだな……
スタイアには理由を話すべきだったろうな
厄介になってるわけだし

スタイア

うえっ、ぐずっ、ぐすっ……

ライカ

ちょちょちょ、鼻水鼻水
ほら、十七歳なんだろ? お姉さんなんだろ?
え、ええっと……これで拭きな

スタイア

これぇ、包帯じゃない……っ

ライカ

仕方がないだろ
オレ、そういう布とか持ってないんだから

スタイア

ぷっ、ぷぷっ、もう、バカ……っ!

ライカ

まったく、泣いたり笑ったり忙しいな

スタイア

ライカがそうさせてるんでしょっ!

ライカ

ご、ごもっともで……

スタイア

ふふっ、ふふふ……

ライカ

そうだな、前置きとか順を追うとかそういうのできないからな
はっきり言うぞ

スタイア

う、うん

ライカ

力の限界を感じたんだ

スタイア

力の、限界?

ライカ

ああ、力の限界
スタイアには言ってなかったけど、オレはエクリプスの城の寸前まで迫ってたんだ

スタイア

えっ?

ライカ

そう、魔王のいる城だ
単身、そこまでオレは進むことができた
自分で言いたくないけど、単独行なんだ、ここまでできるからそう呼ばれてしまうんだろう

ライカ

とまあ寸前まで来たのはいいけど、やっぱり敵の本拠地
すごい強さのヤツがいてだな、オレはあっけなくやられちまった

ライカ

自慢じゃない
自慢じゃないけど、オレはこれまで色んな敵を倒してきた
他の勇者がパーティーを組んででも討てなかったのを、オレは一人で討ったこともある

ライカ

オレは強い
でもそれに驕らないよう、鍛錬は怠らなかった
魔王はもっと強いってわかってたからだ
派手な技ではなく、勇敢心の使い方とか、そういう基礎的な能力をどんどんと積み上げていった

ライカ

自信があった
オレこそ魔王を討てるという、自信が

ライカ

でも結果はこうだった
剣の切っ先を直接魔王に向けることはできなかった

ライカ

さらにオレはトドメを刺されることもなく、このバルストルへと飛ばされた
あいつらはオレをただの遊び相手程度にしか思ってない。そう痛感した

ライカ

だから自分の力の限界を感じたんだ
限界、いやそれ以上に鍛えたのに、通用しなかった

ライカ

だからオレは勇者を辞めることにした
魔王を討てない勇者なんて、いても意味はない

スタイア

ライカ……

ライカ

そんな辛そうな顔するなよ
大丈夫、魔王は近いうちに必ず討たれる
オレよりさらに強い勇者だって、そう、ファリアスだっている

ライカ

あいつはめちゃくちゃ強いんだぞ
アンラドの期待を一身に受けて、さらにそれを背負えるだけの器がある
仲間だってその筋の超一流たちだ

ライカ

そういうわけで、オレは資格猟師へと転職することにした
食べていくのに資格があったほうがいいに決まってる

ライカ

なんだかんだで勇者だったんだ
そんな勇者が魔王討伐後は何もできないってなるのは、色々と恥ずかしいだろ

ライカ

いいのかースタイアー?
「あなたの幼馴染の勇者、魔王がいなくなったあとは役立たずだ」
なーんて言われちゃって

スタイア

…………

ライカ

「いいよ、気にしないよ」 とか言ってくれるなよ
オレはそんなの嫌だからな

スタイア

うん

スタイア

でも、再挑戦しても、いいんじゃない……?

ライカ

おいおい話聞いてたのかよ
だから、オレは限界を感じたんだぞ

スタイア

そんなの、ライカの思い込みかもしれないじゃない

ライカ

ああ、思い込みであって欲しかったよ

ライカ

でもな、「越えられない壁はない」とか「試練は乗り越えるためにある」とか、そういうの、他の勇者たちを見ていると思えなくなる

ライカ

勇敢心を使える、数少ない選ばれし者
みんな魔王を討つために必死でやってる
中にはそうじゃないやつもいるけど、でもほとんどみんな勇者であることに誇りを持って、そしてみんなの期待に応えようとしている

ライカ

それでもわかってくれない、応えられないことは多くて……

ライカ

……!

ライカ

……いや、そういう話じゃなくてだな
えっと、オレは他の勇者より強かったんだ
もちろん鍛えに鍛え続けた結果だ。素質だけとかじゃない
だからこそ、伸びしろがないってよくわかるんだよ

スタイア

ホントに、ホントに辞めちゃうの?

ライカ

ちょっとくどいなあ
もう資格証だってないんだし、お終いだお終い

ライカ

まあそれなりに名の通った勇者だったから、王に「辞めないで欲しい」とか呼び出されるかもしれないけどな

ライカ

しかしそれでもオレは辞める、絶対に辞めてやる

ライカ

というわけで、ごめんな
最初に言っておくべきだった
納得はできないだろうけど、それでも色々と考えて考えて考え抜いた結果なんだ

スタイア

ううん、ライカがそこまで考えたのなら
……あたし、もう何も言わないよ

スタイア

だから、必死で資格取っていこうね

スタイア

あたしももっと厳しくするからっ!

ライカ

ひいっ、お手柔らかにお願いします……
なにより、勉強に慣れてないんで……ははは……

スタイア

じゃあもう夜も遅いし、休もう
あたしもそろそろ寝るから

ライカ

ああ、そうさせてもらうよ

スタイア

ふんふん、そこまでお酒臭くないね

ライカ

勇者は適量を守るのだ

スタイア

ふーん意外
旅先でもっと飲んだくれてるのかと思ってた

ライカ

 健 康 第 一 

スタイア

ぷっ、なにそれ
でも、いいことだよ
飲み過ぎは身体に毒なんだから

ライカ

そういうことだ
それに、酔ったって一時しのぎにしかなんないからな

スタイア

ふーん
色々あるんだね

ライカ

あと二日酔いが辛い

ライカ

さて、じゃあちょっと汗流してくる
異法、お願いできるか?

スタイア

うん、大丈夫だよ

ライカ

あんがと
スタイア、先に寝ててもいいからなー

スタイア

言われなくてもそうさせてもらうよ
誰かさんのせいでどっと疲れちゃったもんね

ライカ

ははは、まあそう言うなよって

ライカ

…………

ライカ

くっ、オレは……何やってんだっ!

スタイア

……ライカ

                次の資格へと続く

7 勇者、「勇者資格」を放棄する

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