次の資格へと続く
痛てて……
ファリアスのヤツ、思いっきり殴りやがって
ま、あいつならきっとエクリプスを討てるだろうな
そうすりゃ、アンラドだってもっと待遇が良くなる
火を着ければしっかり燃え広がる
それがあいつのいいとこだな
さてと、帰りますか
お土産はと……もうこんな時間に店なんかやってないか
よしっ、と
ただいまー
お、さすがに先に寝たか?
ついてるー
おかえりなさい
遅かったね
居間で勉強してたかー
いやー、先生が話聞きたいってずっと
それはそうだよ
勇者の話なんてあんまり聞けるものじゃないから
って、どうしたのその頬
えっ? いや、なんかおかしいか?
おかしいよ。それ、殴られたんでしょ?
大丈夫? なんで? 誰に?
大丈夫、心配すんなって
心配するに決まってるでしょ!
うっ
何があったの?
ホントに大したことじゃないって
ケンカに巻き込まれたって感じで
ライカがそんなきれいに貰うはずないじゃない!
いやいや、気を抜いてたらそうもなるって
ウソついてても意味ないよ
ホントかどうかわかる異法があるんだから
えっ、いや、ちょっ
正直に言うならちょっとは怒らないであげる
でも、このまま使わせて、そしてウソだったら……!
わかった! わかった!
ファリアスだよ。あいつにたまたま会って、それでちょっとケンカになったんだ
ファリアス……さん?
それってあの勇者の?
そうだそうだ
なんか用事があったみたいで、それで史跡の講習会に来ててそれでまあ
それで、資格猟師のことでケンカになったんだね?
よくもまあわかるもんだ
わかるよ。だってその勇者さんの気持ちになったら……
はっ、はは……そりゃそうだな
だったら……
適当に誤魔化してもよかったけど、どうにもそう上手くいきそうもなくてな
そういう、ことじゃない、よ
そういうことを言ったんじゃ、ない、よ
…………
今のオレは勇者じゃない、資格猟師だ
それに、もう勇者に戻れなくなった
それって……まさか……
ああ、ファリアスに勇者資格証を持っていってもらった
これでオレは資格放棄者だ
勇者ライカ・アベインでも、単独行ライカでもない
資格猟師だ、ただの
ま、代わりに資格を三つ持ってるからな
これからもっともっと増やして、強化していくぞ
ライカ……ムリしてない?
ム、ムリ?
あたし、いつでもライカの味方でいたい
本当の味方に……
本当の、味方?
ねえ、ライカ
どうして資格猟師になろうって思ったの?
あんなに勇者になれたのを喜んでいたのに
やったぞスタイア!
オレ、勇者だって認められたぞーっ!!
あの時はそうでも、生きてるんだから心変わりだってあってもおかしくはないだろ
ねえ、何があったの?
あの大きなケガが原因なの?
あたしにはわからない、後遺症があるの?
…………
黙ってちゃ……ぐすっ、わからない、わからないよぉ……ぐすっ
スタイアっ?
あたしじゃなんにも支えにならないかも……しれないけど、ぐすっ
でもっ、なりたいのっ!
わがままだって思う。でもっ、ライカが苦しんでいるならあたしは……あたしだって苦しいのっ……!
おいおい、泣くなって
小さい頃みたいだぞ
ライカぁ……ぐすっ、ぐすっ……
…………
スタイア、残念だけどオレはムリもしてないし、別にケガの後遺症なんかもないぞ
オレはオレだ
変わらず、そのままだ
別に何か変な術を掛けられたわけでもない
でも、そうだな……
スタイアには理由を話すべきだったろうな
厄介になってるわけだし
うえっ、ぐずっ、ぐすっ……
ちょちょちょ、鼻水鼻水
ほら、十七歳なんだろ? お姉さんなんだろ?
え、ええっと……これで拭きな
これぇ、包帯じゃない……っ
仕方がないだろ
オレ、そういう布とか持ってないんだから
ぷっ、ぷぷっ、もう、バカ……っ!
まったく、泣いたり笑ったり忙しいな
ライカがそうさせてるんでしょっ!
ご、ごもっともで……
ふふっ、ふふふ……
そうだな、前置きとか順を追うとかそういうのできないからな
はっきり言うぞ
う、うん
力の限界を感じたんだ
力の、限界?
ああ、力の限界
スタイアには言ってなかったけど、オレはエクリプスの城の寸前まで迫ってたんだ
えっ?
そう、魔王のいる城だ
単身、そこまでオレは進むことができた
自分で言いたくないけど、単独行なんだ、ここまでできるからそう呼ばれてしまうんだろう
とまあ寸前まで来たのはいいけど、やっぱり敵の本拠地
すごい強さのヤツがいてだな、オレはあっけなくやられちまった
自慢じゃない
自慢じゃないけど、オレはこれまで色んな敵を倒してきた
他の勇者がパーティーを組んででも討てなかったのを、オレは一人で討ったこともある
オレは強い
でもそれに驕らないよう、鍛錬は怠らなかった
魔王はもっと強いってわかってたからだ
派手な技ではなく、勇敢心の使い方とか、そういう基礎的な能力をどんどんと積み上げていった
自信があった
オレこそ魔王を討てるという、自信が
でも結果はこうだった
剣の切っ先を直接魔王に向けることはできなかった
さらにオレはトドメを刺されることもなく、このバルストルへと飛ばされた
あいつらはオレをただの遊び相手程度にしか思ってない。そう痛感した
だから自分の力の限界を感じたんだ
限界、いやそれ以上に鍛えたのに、通用しなかった
だからオレは勇者を辞めることにした
魔王を討てない勇者なんて、いても意味はない
ライカ……
そんな辛そうな顔するなよ
大丈夫、魔王は近いうちに必ず討たれる
オレよりさらに強い勇者だって、そう、ファリアスだっている
あいつはめちゃくちゃ強いんだぞ
アンラドの期待を一身に受けて、さらにそれを背負えるだけの器がある
仲間だってその筋の超一流たちだ
そういうわけで、オレは資格猟師へと転職することにした
食べていくのに資格があったほうがいいに決まってる
なんだかんだで勇者だったんだ
そんな勇者が魔王討伐後は何もできないってなるのは、色々と恥ずかしいだろ
いいのかースタイアー?
「あなたの幼馴染の勇者、魔王がいなくなったあとは役立たずだ」
なーんて言われちゃって
…………
「いいよ、気にしないよ」 とか言ってくれるなよ
オレはそんなの嫌だからな
うん
でも、再挑戦しても、いいんじゃない……?
おいおい話聞いてたのかよ
だから、オレは限界を感じたんだぞ
そんなの、ライカの思い込みかもしれないじゃない
ああ、思い込みであって欲しかったよ
でもな、「越えられない壁はない」とか「試練は乗り越えるためにある」とか、そういうの、他の勇者たちを見ていると思えなくなる
勇敢心を使える、数少ない選ばれし者
みんな魔王を討つために必死でやってる
中にはそうじゃないやつもいるけど、でもほとんどみんな勇者であることに誇りを持って、そしてみんなの期待に応えようとしている
それでもわかってくれない、応えられないことは多くて……
……!
……いや、そういう話じゃなくてだな
えっと、オレは他の勇者より強かったんだ
もちろん鍛えに鍛え続けた結果だ。素質だけとかじゃない
だからこそ、伸びしろがないってよくわかるんだよ
ホントに、ホントに辞めちゃうの?
ちょっとくどいなあ
もう資格証だってないんだし、お終いだお終い
まあそれなりに名の通った勇者だったから、王に「辞めないで欲しい」とか呼び出されるかもしれないけどな
しかしそれでもオレは辞める、絶対に辞めてやる
というわけで、ごめんな
最初に言っておくべきだった
納得はできないだろうけど、それでも色々と考えて考えて考え抜いた結果なんだ
ううん、ライカがそこまで考えたのなら
……あたし、もう何も言わないよ
だから、必死で資格取っていこうね
あたしももっと厳しくするからっ!
ひいっ、お手柔らかにお願いします……
なにより、勉強に慣れてないんで……ははは……
じゃあもう夜も遅いし、休もう
あたしもそろそろ寝るから
ああ、そうさせてもらうよ
ふんふん、そこまでお酒臭くないね
勇者は適量を守るのだ
ふーん意外
旅先でもっと飲んだくれてるのかと思ってた
健 康 第 一
ぷっ、なにそれ
でも、いいことだよ
飲み過ぎは身体に毒なんだから
そういうことだ
それに、酔ったって一時しのぎにしかなんないからな
ふーん
色々あるんだね
あと二日酔いが辛い
さて、じゃあちょっと汗流してくる
異法、お願いできるか?
うん、大丈夫だよ
あんがと
スタイア、先に寝ててもいいからなー
言われなくてもそうさせてもらうよ
誰かさんのせいでどっと疲れちゃったもんね
ははは、まあそう言うなよって
…………
くっ、オレは……何やってんだっ!
……ライカ
次の資格へと続く