いつもの資格情報誌のとある資格を指で弾き、勇者兼資格猟師、単独行ライカは発表する
いつもの資格情報誌のとある資格を指で弾き、勇者兼資格猟師、単独行ライカは発表する
次の資格はこれ、「エングラド王国特別史跡検定3級」
観光ガイドにでもなろうってこと?
さすがスタイア察しがいい
魔王が討伐されれば、エングラドでは旅行が流行るはずだ
闘技場と同じだな、娯楽が流行る
比較的安心して動けるようになるもんね
そういうこった
そんな時、この資格があればちょっとしたガイドの仕事ができる
それにこの資格、価値が落ちてるらしいのか、講習を受けるだけで取れるんだな
まあ、実際にこれまでの旅で見た所もあるし、討ち取らせてもらおう
そうだ、スタイアはどっか行きたい所とかってあるのか?
えっ、どうしたのいきなり?
まあまあ
どっかないのか?
うーん
ライカが連れていってくれる所なら、どこでもいい、かな……
!
…………
スタイア、自主性がないのはよくないぞ
なっ……
そんなのだと、自分が行きたくない所に行っちまうかもしれないじゃないか
ぐぬぬ……っ
ほら、どこでもいいから言ってみろよ
ライカのバカっ!
えっ、ええぇ……
行きたい場所訊いただけなんだけど……
おっといけない
講習の時間だ
はあ、帰りになんか買って帰ろう……
機嫌なおしてもらわないとな
えっと、ここを曲がって
こう入って
橋を渡って流れに沿って下って
あった
エングラド王国特別史跡検定3級講習会場
うん、間違いない
入ってみたら、オレ一人だったりして
そうだったら言うことは一つ、そう、アーシスから貰ったあの言葉
ふへへへへ……
ようやく言えるぞ
失礼します
エングラド王国特別史跡検定3級講習会場で間違いないですか?
ああ、そうだ
もう少しで始める、そこの席に座って待っていてくれ
はい
さあ、一人か? オレ一人かー?
……
さすがに一人ってことはないか
どの分野には好き者はいるわけだし
あ、今日はよろしくお願いします
ああ、どうぞよろしく……んんっ?
んんっ!?
貴様、なんでこんな所に……?
ファ、ファリアス……
な、なんとま……
本日はこの二名だけだな
講義担当は、私、ラルタル・デインだ
よろしく
まさか勇者が二人とは思わなかったが
残念だが特別扱いはしないから、しっかりと勉強するように
はい
当然です
では、始める
3級だ、そんなに難しいものではないから大丈夫だとは思う
魔王のおかげで史跡は忘れられていく一方だ
私も今はこのように物の加工を生業としているが、元々は史跡ガイドだった
それなりに人気のあるガイドだったのだがね
へえー
魔王は嫌いだが、あいつらは野蛮ではないらしい
史跡の破壊などは行っていないとの調査結果を聞いているよ
確かにそういう破壊活動はしていないようだ
何度か史跡調査団の護衛をしたことがあるが
まさかお前にこういう趣味があるとは
史跡はいいものだ。どこのものであろうと変わりはない
ほうほう
お前の故郷にもあるのか?
それはどういう意味だ
我が祖国にそういうものがあってはならんのか?
あっ、いや、ごめん
ただ気になっただけで……
すまない、ついカッとなってしまった
アンラド、いや君たちの呼び名ではエイレルか
史跡巡りをしたことがあるが、素晴らしいものだった
ボニーの遺跡とか、ああ、スケラドにも入らせてもらったよ
スケラド?
あの、果ての島にもですか?
ああ。もちろん無断ではないぞ
どうしても見ておきたくてね、エイレルの上の人たちとも交渉し続けた結果だ
ほんのちょっとしか入っていないけどね
先生、あなたは凄まじい権威なのでは?
そんなことはない
ただの史跡好きさ
まあそんなことより講義だ。君たち、私語は慎んでくれよ
すいません
申し訳ないです
エングラド最北端のここ。ここが北限(ほくげん)の城
まあ、今は残念ながらその名称よりも、エクリプス城として知られているな
元々は今から150年ほど前、さらに北のコートラド王国が侵攻してきた場合の防衛拠点、要塞として建てられたものだ。
バルストルほどではないが、街もあった
それになによりノザンバランド魔法学校が近くに存在していて、魔法の都として有名だったな
あ、今は異法と使わないと怒られるね、失敬
へえー、ノザンバランドって元々そこにあったんだ
名前からわかるだろう
現在の位置は明らかに北ではない。東だ
あーそういやそうだ
コートラドとの戦いでは一度も落ちることなく、何度も跳ね返してきたまさに、難攻不落の城
だが、コートラドとの争いがなくなっていくにつれて、ただの観光地となっていった
別の大州からの知識を取り入れた、エングラド、いや、ユーパストでも他にない設計の城であったからね
なぜ他の大州の知識を取り入れたのですか?
ああそれはね、当時の王、エグルドバルト王、通称「覇王」の好みだと言われている
とにかく新しいもの好きの、好奇心旺盛な王だったようで、その別の大州から一人を自分の配下に迎え入れたようだ
ただ、その配下が間違いなく実在していたかはわからないんだけどね
まあ、建築に苦労したんだろう、北限の城以外には同様の設計で作られることはなかった
ああそう、さらに覇王は名前の通り、戦いも好んでいてね
エングラドの領土拡大にも全力を注いでいた。自ら先頭に立ってね、実際に剣を振るっていたそうだ
…………
あ、すまない
あまり聞きたい話ではないね……
いえ、ボクは勉強をしに来ていますから、気になさらないでください
そうか、聞いたことある。アンラドを征服したのは覇王だって
アンラドの人にとっては、魔王に等しい存在なんだろうな
それに、エイレルの魂を持っていますが、ボクはエングラド人です
言葉の訛りも、名前もエイレルのものですが
ここの人でも、大切な人は多い。旅の仲間とか
知っている
ファリアスという勇敢な勇者の活躍は、私も聞いている
もちろん、単独行ライカもだ
そりゃどうも
やっぱり単独行てつくのね
さて話が逸れたね
戻るよ。本の123頁を見てくれ
北限の城の敷地は……
試験の結果を発表する
ファリアスくん、合格
ライカくん、まあ、合格というところだな
ま、まあって……
いやいや、まったく知らない状態からよく頑張っている
勉強に少し慣れているのかな?
ありがとうございます
ちょっと最近、資格を色々取っていて
ほう、それはいいことだ
単独行らしい発想だね
ではこれにてエングラド王国特別史跡検定3級の講習を修了します
お疲れ様でした
合格証はこれから発行させてもらうので、しばらく時間をいただきます
しばしお待ちを
長い時間ありがとうございました
そうだ、予定がなければでいいんだけどね
夕食を一緒にいかがかな?
ぜひ君たちの旅の話を聞いてみたいんだ
もちろんタダというわけじゃない。ご馳走する代わりにということで
どうかな?
ええ、いいですよ
オレも大丈夫だと思います
ちょっと遠通法(えんつうほう)使える方いませんか?
ああ、同居人がいるのかな?
わかった。私が使えるから、えっと相手は?
スタイア、スタイア・ギウダです。えっと確か綴りが書いてある紙が、ここに入ってて……
あった
「スタイア・ギウダ・オ・アースコ」です
わかりやすい綴りだ。いい子なんだろうね
それを聞いたら喜びますよ
うん、繋がった
あーあー、スタイア、聞こえるかー?
ライカだ
あ、ライカ
遠通法、このラルタルという人に頼んだんだね
どうしたの?
今講習が終わったところなんだけどな、先生に夕食をご馳走になることになってな
その子も構わないよ
スタイアも一緒にどうかって言われてるけど
ううん。ライカだけ行ってらっしゃい
あたしは勉強しなくちゃならないこともあるし
ホントに?
ウソついてどうするのよ
ほら、楽しんでらっしゃい
じゃあね
あ、くれぐれもラルタルさんに迷惑掛けないように
お、切れたね
なんと?
オレだけで楽しんでこいって言ってました
あと、先生に迷惑掛けるなってとも
はははは!
なんだ、まさか単独行に奥さんがいたとは!
そんなのじゃないです
幼馴染で、ちょっと厄介になっているだけですっ
心配しないでくれ、イメージは大切だ
言いふらしたりはしない
本当に、本当に違うんですよーっ
はあ……
今日はありがとう
色々と面白い話が聞けた
もちろん、黙っておくから安心してくれ
いえ、こちらこそ美味しい食事、ありがとうございました
いやあ、外の食事は久しぶりだったんで、楽しかったです
ほほう、今の言葉、奥さんに聞かれると怒られるぞ
だから違いますってば!
ははは!
では、今日はこれにてお開き!
さらばだ諸君! 機会があれば会おう!
見事に酔っぱらっちゃったなあ
さて、オレも帰るか
ファリアス、お前も帰るだろ?
…………
ライカ、貴様……エクリプス城で敗走したと聞いたが
!?
なんだ、もうそんな話が回ってるのか
本当だったか……
ああ
エクリプスには届かなかったよ
その前でやられちまったからな
そう、か……
気をつけろよー
すんごく強いからな
そうか
しかし、貴様が敗走したということで、勇者たちは一気に退いていったぞ
おいおい、なんでそんな事になってるんだよ
お前が思っている以上に、単独行という名は評価されているのだ
弱虫どもめ……実際はこの程度だがな
言ってくれますねえ
模擬戦ではボクが勝ち越しているからな
おいおい、ウソつくんじゃないぞ
ウソじゃない
間違いなくボクが勝ち越している
大体、貴様は勇敢心だけの真っ直ぐな戦い方しかできないからな
試してみるか?
いいや止めておこう。迷惑になる
それに、本調子ではないのだろう?
ははは、さすが
同じ勇者だ、隠していてもわかる
貴様の勇敢心はまだまだ回復しきっていない
まあ、そんなことはいい
貴様、なぜ資格など取っている?
それはこっちのセリフだ
お前もなんでバルストルで、それも資格なんか
質問を質問で返されるのは気に食わないが、いいだろう
ボクはただの趣味だ。たまたまバルストルに用があったから、ついでに取得しようとしたまで
オレも面白そうだから受けたまでだ
ウソを言うな
貴様がそういう性質か
失礼なヤツだな……
ああそうだよ
オレは勇者を辞めて、資格猟師に転職したんだ
資格猟師だと?
いずれ魔王は討たれる
だからそのあとの、勇者のいらなくなった時代、勇者失効でも食べていけるように、色んな資格を取っているんだよ
貴様、魔王を討ち取らないというのかっ?
ああ、オレよりも優れた勇者なんて多くいる
お前だってそうだ
なにを腑抜けた貴様らしくないことをっ!
……「らしくない」? 「らしくない」ってなんだよ
お前が知らなかっただけで、元々オレはこういうヤツだっただけだ
勝手にお前の印象を押し付けんじゃないっ!
きっ、貴様……っ!
お前こそどうなんだ
討てるのか? 用事があったんだろうけどな、こんなところでのほほんと講習受けてて、それでエクリプスを討てるのかよ?
さっさと仲間と一緒に行きやがれってんだっ!
言わせておけばーっ!!
ぐあっ!
いいだろう!
このボク、エイレルの勇者ファリアスがエクリプスを討ち果たしてくれる!
貴様は資格猟師でもなんでも、無様に腐っていけばいいっ!
痛ってえぇぇ……
ああ、そうさせてもらうよ……
貴様ぁ……っ、どこまでボクを愚弄するのだ……っ!
そうだ、これ返しておいてくれ
途中、通るだろ?
ゆ、勇者資格証……っ
もうオレにはいらないものだからな
ああ、貴様のようなヤツ、勇者であるものか!
くそっ、まさかあいつがあんなヤツだったとはっ!
くそっ! くそっ! くそっ!
ライカ……単独行は、輝いていたのだぞ……っ!
資格猟師ライカ
「エングラド王国特別史跡検定3級」、合格……成功!
「勇者」……資格放棄
次の資格へと続く