メイド喫茶『ユアオーダー』にはあらゆる時代、世界線を飛び越えて人がやってきます。とはメイド長の言。
面接時は「はぁ」と生返事でしたが、周りの先輩メイドが得体のしれない一応生物らしき物体に応対をしていたり、人間だろうが話してる内容が理解が及ばぬ未来的言論だったりと、納得させられる出来事はかれこれあったのです。
メイド喫茶『ユアオーダー』にはあらゆる時代、世界線を飛び越えて人がやってきます。とはメイド長の言。
面接時は「はぁ」と生返事でしたが、周りの先輩メイドが得体のしれない一応生物らしき物体に応対をしていたり、人間だろうが話してる内容が理解が及ばぬ未来的言論だったりと、納得させられる出来事はかれこれあったのです。
先ほどの風除室の光はナントカ転送装置の起動したエネルギーだとか。
願い、望みを持ったご主人様が後を絶たず訪れる、当館の秘密でございます。
こちらのお客様は……まぁ分かりやすいですねぇ
服装、というよりは布地を纏っただけの格好。それも物騒なことに槍なんて持ってましたよ、槍。ぐったりしているうちにコレは取り上げ、です。
言葉が大変感情一直線な構成(ご主人様に対する配慮表現)だった上、解析した果てに肉とか村とか言っていたところを伺うと、この方は原始時代の狩猟民族なのだと推測されます。槍の先端、尖った石ですし。
こんな方に暴れられてはひとたまりもありませんね……研修、真面目に受けて正解でした
……
すっかりぐったり横たわっているご主人様をよそ目にこんなことを考えている私。
代々、ご主人様ともなるお方はその身を狙われる要人だったりするものであるから、振りかかる魔の危機を抑え守るのも侍女の側面などと、護身術をまるまる教わりましたが、初めてのお客様で早速活躍するなんて思いもしません。守ったの自分ですし。
……ぐ、ぅ
あ、お目覚めでしょうか?
ここ、は……
先程はご無礼を申し訳ございませんでした。ここはメイド喫茶『ユアオーダー』。ご主人様の願いに、私どもが務める場でございます
なんで、俺はここに
願いを持つ方が、ご来館されると聞き及んでおります。改めまして、おかえりなさいませ。ご主人様
ご主人様の顔が、なんのことだか分からない、と言葉以上に訴えていらっしゃいます。
……
……
で、出迎えたは良いものの、私としてもご主人様にそんな顔をされては困ります……。
えっと、ご主人様、どうぞなんなりと
……ぅ、うぅ
だ、大丈夫ですか?
腹が……腹が減った
お腹……お腹が空いたのですね! よし! かしこまりました!
考えれば、察せるものでした。
持ってる得物も言葉も格好も、なんと言いながらご来館されてきたのかも、全てに答えが含まれています。ご主人様の生活環境まで憶測しておきながら、こちらに気が付かないとは至りませんね。
ご主人様は狩りに出られており、こうして衰弱しきっていらっしゃいます。答えはひとつ。しばらくまともな食事にありつけなかったことでしょう。
そうとなれば、こちらとしては私達なりの流儀でおもてなしをするまでです。
お待たせいたしました
コレは……?
お時間をいただくこと十分少々。お持ちしたお皿にはとろとろぷりんとした黄色い卵がふっくらとドーム状に盛られています。
というか、そう盛りました。上手に出来たでしょうか?
オムライス、でございます
なに……? なんだ、それは
予想できた反応です。ご主人様の生活を察するに、獲った獲物を捌いてそのまま焼いたぐらいの食生活でしょう。
このオムライスはそこから幾千年の時を越えて現代、その獲物の子孫にまで手を伸ばしこんなとろとろ半熟にしてご飯の上に乗せるという悪辣非道極まる人類の叡智が結集した調理文化の最高傑作です。
そんな料理、原始の方が想像つくでしょうか。答えは、目の前の反応が全てでした。
食べられるのか……コレは
勿論です! では、こちらに
見たことも聞いたこともない食べ物に食指が動かないのは人の性でございます。人類で初めてナマコやホヤを口にした方は偉大ですね。ウーパールーパー丼など誰が考えたのでしょうか。私たちだって青色や紫色など、寒い色をした食べ物は遠慮したいものです。ナスとか。
ではこのオムライスを原始の方に食べていただく方法、とは。
失礼します
おいおい、今度は
サラサラ、と手にしたチューブから赤色のソースを斜線状にかけていきます。
この赤色なら、かのご主人様でも見覚えがあるでしょう。狩りの際に己が獲物に手をかけるとき、幾度となく目にしたはずなのです。今日この時を生きるために嗅ぎつける匂いも、こんな色をしています。
さぁ、できあがりです!
肉食系男子に召し上がってほしい血の彩りを添えたアコ特製オムライスでございます。
物は言いようですよ。
どうぞ、お召し上がりください
……
あ、スプーン手に取りました。いけそうです。
大丈夫です、卵を割って出てくるのはチキンライス。鶏ならいくらでもお召しになっているでしょう。一口食べてしまえば、
おっ、おおっ
お口に合いますでしょうか?
うまい、うまいぞ、コレ!
当然でございます。
あとはあれよあれよという間にどんどんとスプーンが口に進んで、
ぐふっ、ごほっごほっ
どうぞ、お水ですよ
なんてお約束のやりとりも通り越して、あっという間に完食されたのでした。