携帯に向かって悪態をついた長岡はぶっきらぼうにそれをポケットへと仕舞い込むと、ツカサとの画面を切り、別の人間にメッセージを送る。
“キュート*”に向かって送るメッセージは、『今すぐ会いたい』。流石に相手は今頃大学の授業を受けているだろうから、すぐに来るとは最初から思っていない。適当に街を歩きながら時間を潰し、キュート*からの返事を待つ。
少ししてキュート*からの了承の返事を確認するなり、長岡はもう一度ツカサへとメッセージを送った。
んだよこれ……オレが本物だっつーの!
携帯に向かって悪態をついた長岡はぶっきらぼうにそれをポケットへと仕舞い込むと、ツカサとの画面を切り、別の人間にメッセージを送る。
“キュート*”に向かって送るメッセージは、『今すぐ会いたい』。流石に相手は今頃大学の授業を受けているだろうから、すぐに来るとは最初から思っていない。適当に街を歩きながら時間を潰し、キュート*からの返事を待つ。
少ししてキュート*からの了承の返事を確認するなり、長岡はもう一度ツカサへとメッセージを送った。
『訳の分からないこと言ってんなって。見てろよ、口だけのお前と違ってオレはちゃんと証拠見せてやるから』と……。よしっ
ポケットに隠し持った折り畳み式ナイフの感触を確かめながら、長岡は楽しそうに口元を緩めた。
大丈夫、オレは“アーティスト”だから。絶対うまくやれる
自分に言い聞かせるように何度もそう呟くと、長岡は待ち合わせの場所へと向かう。彼女を呼び出したのは大きな公園である。時間帯が時間帯故に人目もあるかもしれないが、長岡は公園の中でも人目に付かない場所を知っていた。そこに連れ込んでしまえばいい。
ツカサとかいう野郎も殺しちまえばいいのか。オレは“アーティスト”だからな
何も難しい事ではない。人間は思ったより頑丈だとか言っている人間もいるが、急所を攻撃すれば簡単に死ぬ。長岡は今からどうやって相手を殺し、どう飾り付けようかと思案し始めていた。
……反応か?
部屋に響いた通知音に、鬱田が音耶の顔を見る。音耶はそれに頷き、画面を確認するとすぐに立ち上がった。
どうした
何かやるかもしれない。証拠を見せる、だとさ
待てよ、“アーティスト”としてのってことか?
ああ。……刺激しすぎたか。鬱田、車はあるか?
俺のでよければ。お前は画面を見ていたほうが良いだろうから、俺が運転する。どこへ行く?
これから考える
音耶はそう言うと、『折角なら見に行きたいから場所を教えてくださいよ』とメッセージを送る。一連の長岡の行動を考えれば場所を教える可能性が高い。そして、音耶の思惑通り場所が書かれたメッセージが音耶に届くと、音耶はそれを鬱田に見せる。鬱田は無言で頷き、音耶を車のある方へと誘導した。
事前に止めるも何も、相手は武器を持ってるんじゃないか? 警察への通報は……って、お前今ややこしいことしてるのか
平気だ、恵司に連絡する
成程な。だが、先に行くとなればそれなりに危険は伴うぞ
人命が優先だ。最悪お前は車から降りなくていい
馬鹿言え、乗りかかった船だ
お前らしいな。……まぁ、心配するな。お前の手は汚させない
どういう意味だ?
ほら、急ぐぞ!
鬱田の疑問に応えず、まるで誤魔化すかのように急かした音耶。鬱田は追及せずにすぐに車に乗るとエンジンをかけた。
外に複数止められた車の内、最も綺麗に車体が磨かれている物に乗った鬱田。音耶もすぐに助手席に乗ると、シートベルトを締めた。
車の中も車体と同じく綺麗にされているが、彼の車は他に並んだ車に比べると一般でもよく見る車種であった。おそらく、他の車は元からこの屋敷にあった高級車で、これは鬱田個人で持っていた車なのだろう、と音耶は考える。
信号も法定速度も無視するぞ。逮捕すんなよ
安心しろ、今の俺は駿河恵司で、警察じゃなくて探偵だ
ははっ、そうだったな!
鬱田が車を走らせると、音耶は場所をナビしながら恵司へと連絡をする。内容は簡潔に、『動きがあった。犯行に及ぶかもしれない』というメッセージと場所の地図。それだけでも十分意味は通じるだろう。
どれくらいかかりそうだ?
左程遠くない。10分あれば十分だ
長岡が準備を始めてからメッセージを送ったのか送ってから準備を始めるのかによっても変わるが、あれじゃあどっちも有り得るな……後者ならいいんだが
恵司からの『今すぐ行く』のメッセージを見ながら、音耶は自分がどうするべきなのかを思案する。全て思い過ごしでただのハッタリなら苦労は無いが、もし向こうが想定以上に頭の回る人間でこの地図が全く関係のない場所だったらどうするのか? 自分が挑発したおかげで誰かが死んでしまうかもしれないとすれば? そこまで考えて、音耶は自嘲気味に小さく笑った。
今更そんなこと考えてどうするんだ。手遅れだというのに
音耶の呟きに、鬱田が少し気にするそぶりを見せるが音耶は何も反応を示さなかった。鬱田も今自分がすべきことは地図の場所に向かう事だけだと思っていたので、音耶の呟きに意味を見出す余裕はなかった。