幼馴染って都合のいい言葉だと思う


 それは誰の言葉だったのか。

だって、好きでも、想いを誤魔化す事に使えるじゃない


 そうだ、あれは……。

幼馴染だから。それで、何でも許されると思ってない?


 中学生の頃に、私にそう言った女の子がいた。
 『ずっと、修斗が好きだったんだ』って言葉と共に。
 なぜか、彼に告白せずに私に文句を言われてしまった。
 当時は私たちも距離が近いからよく恋人みたいに扱われていたもの。

優雨

彼に告白する勇気もないくせによく言うわ


 私はつい彼女に反論してしまったけども。

私も貴方みたいに修斗君の幼馴染になりたかった


 今でも時々嫌な記憶として彼女の言葉を思い出す。

誰よりも近い存在になりたい。誰もが貴方と同じになれるわけじゃないの

優雨

好き勝手に言ってくれちゃって……私達の事を何も知らないくせに。


 私は特別な存在。
 まるでそう言われている気がした。
 幼馴染が特別?
 そんなの……皆のよくある勘違いでしかない。
 幼馴染なんて、ただの親しい男女。
 交際するのも、想いを伝えるのも……。
 そこに“特別”なんてものはなく、“男女”のそれとたいして変わらない。
 好きだと言う言葉を紡ぐ、その勇気も、関係も、他の皆と同じなんだ――。

優雨

修斗、起きろー


 朝から彼の部屋を訪れると、まだ彼は布団の中。
 せっかく、バイトも終わったのに自堕落な生活になんて突入させてあげない。

優雨

起きなさい、はやく~っ

修人

ぐぅ……


 寝たままの彼を揺さぶっても起きる気配がなし。
 しょうがないので、私は彼に悪戯をする。

優雨

起きないと、キスでもするわよ

修人

……だが、断る

優雨

起きてるじゃん!こら、タヌキ寝入り?


 修斗はうめきながら声を上げる。

修人

ぬぁ、誰だ?優雨か?

優雨

そうよ、私。さっさと起きる


 なんだ、寝ぼけていただけか。
 それはそれで、キス発言で反応して即否定はムカつくけどね。
 修斗は寝起きがかなり悪い。
 起きてもしばらくは寝ぼけている。

修人

ふぁ……朝からなんのようだ

優雨

可愛い幼馴染が起こしに来てあげたのよ

修人

……ぐぅ


 そこで寝るな。
 この幼馴染、ホントに寝てるのかしら。

優雨

修斗、起きてるでしょ

修人

……


 この状態の修斗は反応が鈍い。
 頭が半分だけ起きている状態。

優雨

そうだ、修斗。前から気になっていたんだけど

修人

んー

優雨

私たちって、幼馴染でしょ。例えば、恋人になったら面白いと思わない?


 これまでも、周囲からよく言われてきたことだ。
 私たちはまるで恋人みたいだ。
 他人からそう見えても、現実は恋人なんて甘い言葉からは程遠い。
 それでも、仲はいいつもりだし、互いにその気がないだけ。
 きっかけでもあれば、恋人になってしまうかもしれない。

修人

思わないな


 だけど、彼から返ってきたのはそんな言葉だった。

優雨

思わないわけ?

修人

お前と俺は恋人にはなれないよ


 あまりにもはっきりと断言されるので面白くない。
 別にその気はないけど、否定されるとムカつく。

優雨

言うわね。どうして?

修人

……俺にその気があっても、優雨が俺を好きになるとは思えない

優雨

私が?

修人

想像もできないよ。俺の恋人、優雨って構図は……


 寝ぼけているくせに言ってくれる。

修人

お前は俺を好きにはならない。男と女の関係になることはない

優雨

断言してくれるじゃない。そこまで言うわけ?

修人

……昔、お前自身が言った言葉だろ。俺を好きになることはないって


 そんな事、言った?
 確かに、私は修斗と一緒にいると周囲から、かわれるのが嫌で似た事を言ったかもしれないけど深い意味はなかったはず。
 男と女の関係になれない、と言われたのが微妙に嫌な気分にさせられる。
 寝ぼけてる相手の質問だから、どこまで本音か分からないけども。

優雨

……うっさい


 私は複雑な心境で修斗の頬を引っ張る。

修人

いて……?あん?誰だ?


 ようやく頭がはっきりとしてきたのか、薄っすらと見開く。
 寝ぼけタイムは終了らしい。

修人

あれ?優雨?なんで、お前が俺の部屋にいるんだよ

優雨

さっきから、いたわよ!

修人

うぎゃ!?な、何をする?

優雨

うっさい、うっさい!


 私は枕で彼を叩きながら、モヤモヤとした感じを胸に抱いた。
 何なのよ、これ。
 自分でもワケが分からない。

優雨

……ホント、アンタって最低

修人

意味わかんねぇよ。ていうか、痛いから叩くな。まくらは痛い


 完全に目が覚めた彼は状況が分かっていないようで。

修人

大体、俺の部屋にきやがって何の用事だよ


 彼は眠い目をこすりながら、起き上がる。

修人

耳元で騒ぐなよ、ちくしょう。俺の夏はまだ始まったばかりなんだ

優雨

そう、始まったばかりよ。それをこんな寝るだけで過ごすなんてもったいないわ

修人

夏と言えば無駄に昼まで寝るってのがいいんだろうが


 自堕落なのはいけない。
 そんな生活してたらあっという間には夏は終わってしまう。

優雨

だらけた生活禁止!ほら、さっさと起きて。今日は私の水着を買いに行くって約束してるでしょ。忘れたの?

修人

その約束をした覚えがないんですが?

優雨

あら、昨日の深夜にメールしたわよ。夜中の2時頃

修人

とっくに寝てるわ!?うわ、マジでメール来てるし


 彼は携帯を眺めながらしょんぼりとする。

修人

えっと、水着を買いに行くこと。こんな約束してねぇよ。……はぁ、分かった。着がえるからさっさと、出てけ。ったく、俺にとっては恋人でもない幼馴染に水着を買うという、楽しくないイベントなんだがな

優雨

……

修人

な、何だよ?黙るなよ、変な感じだな。どうした、優雨?

優雨

うるさい!何でもない、早く着替えて!!


 私は枕をもう一度、彼に投げつける。

修人

いだっ!?てめぇ、俺に枕を投げるとは……はっ、目覚まし時計を持つな!?お、落ち着け。俺が悪かった。話し合えば分かりあえると思うんだ


 胸のモヤモヤが消えない。
 修斗の恋人になりたいわけじゃない。
 それでも、なぜか彼の口から否定されると変な気持ちになる。

優雨

……ホント、幼馴染って変な関係よね


 そう呟きながら、私は彼に目覚まし時計を放り投げた。

 彼を待ってる間に私は廊下で不満気味だった。
 頬を膨らませながら拗ねる。

優雨

……別に当たり前の台詞なのに


 なのに、こんなにも胸がざわめいて不愉快なのはなぜ?

優雨

アイツもアイツで、全然、意識してないし


 恋人にはなれない、と修斗の言葉で言われたのが軽くショックで。

優雨

わ、私だって別になりたいわけじゃないけどさ。恋人になりたいって……


 強がってみても、不愉快な気持ちが晴れない。

優雨

何か、すごく複雑な気持ちだわ


 私は軽く壁を叩きながら、自分の中のモヤモヤする気持ちに心を揺らしていた。

修人

こらー。人様の家の壁を破壊する気か、お前は……やめれ。俺が怒られる


 部屋から出てきた修斗が呆れ顔で私に言った。

優雨

着替えるのが遅いっ!

修人

なんか理不尽な怒り方だ!?

優雨

うっさい。アンタのせいでしょ

修人

……意味が分からないよ。お前、今日は変だぞ。どうしたんだよ?


 私はどうしてこんなにも不機嫌なのか。
 自分でもよく分からない。

優雨

さっさと行くわよ

と彼の背中を押して廊下を歩く。
 本当に今日の私はどうかしている。
 ……変な意識ばかりしちゃってどうしちゃったのかな。

第6章:きっかけを求めて

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