私、優雨にとっての修斗はいつだって傍にいる異性の相手。
 幼馴染の一言で終わってしまう。
 私たちの関係は幼馴染でしかない。
 偶然にも同い年に生まれ、家が隣同士で、小さな頃から付き合いだけが長かっただけ。
 今も昔も変わらない関係。
 何も変わらない、と思っていたのよ。
 この夏が来るまでは、何も変わらないって……。

 久しぶりに修斗の部屋で一夜を過ごした。
 これが普通の男女の関係なら、色っぽいイベントのひとつでもあったんでしょうけど。
 私と修斗の関係は、そんなイベントもなくただのお泊りだ。
 昨日は朝から友達と遊び疲れていたのもある。
 アイツの部屋で寝る事なんて中学時代でもあまりなかったのに。
 そのまま帰るつもりだったのに、修斗の寝顔を見ていたら、何だか帰りづらくなってそのまま寝てしまったんだ。
 変な気持ち……アイツに対して最近の私は妙な気持ちを抱いてる気がする。
 これが子供じゃなくなるってことなのかな。

優雨

……ただいま


 家に帰るけども、どうせ誰もいない。
 うちの両親は共働きで夜勤のある仕事をしている。
 昔から家にいない事も多い。
 こういう時には小言を言われるでもないので便利だ。

こんな時間に帰ってくるなんて優雨ちゃんも朝帰りをする相手ができたのかしら?

優雨

げっ……お姉ちゃん?


 家のリビングのソファーでくつろぐのは私の姉、白石京子しらいし きょうこ。
 大学生のくせに大学も適当にしか行ってない。

相手はお隣さんの修斗君?ようやく恋人同士になったの?

優雨

アイツの所に泊ってたのは事実だけど、私と彼は恋人じゃない

ふふっ……相変わらずなのね。修斗君、高校生になってからカッコ良くなったわ。男の子も成長すると変わるわね。身長も高くなってきているし、あと1年もすればかなりいい男になるんじゃない?

優雨

修斗は成長しても修斗のまま


 多少、カッコよくなっても私が心惹かれるわけじゃない。

……傍にいすぎると相手の事もよく分かってしまうわ。余計なことを含めてね


 お姉ちゃんはそう呟くと、お気に入りの紅茶のカップに口をつける。

優雨ちゃんと修斗君って付き合わないの?

優雨

別に。私は修斗のこと、好きとかじゃないから

それは嘘。貴方は彼が好きよ。私から見てもそう思う


 修斗が好きかどうかなんて、よく分からない。
 あまりそう言う事を考えた事がないもの。

優雨

好きじゃないっての

素直じゃないわねぇ。それじゃ、例えば、彼に他の恋人ができてもいいの?

優雨

……修斗に彼女が?

優雨ちゃんにその気がないなら、当然、そうなるわよね?


 私達は幼馴染で恋人じゃない。
 彼の事が好きかどうかも自分の気持ちが分からない。
 恋愛感情だけは苦手意識もある。
 それでも、アイツに誰か他の女が一緒にいるのは、想像するだけでも――。

嫌、なんでしょ?

優雨

……っ……

ホント、優雨ちゃんは素直じゃない。修斗君も男前に成長して近付いてくる女の子だっているわよ。そうなってから、自分が後悔しても知らないわよ?

優雨

そんなの、ありえない


 今の修斗には恋人なんて全然できそうにない雰囲気だ。
 学校でも特別にモテているわけじゃない。
 ……そりゃ、気になる相手くらいには思ってる子もいるかも、だけど。

ありえない?どうしてそう思うの?

優雨

お姉ちゃんが言うほど修斗はモテない。女の子の気持ちなんて全然分からない愚鈍だし、気づかいできないし、あんまり優しくないし、ヘタレだし

……でも、優雨ちゃんはそんな修斗君に心を許してるわけじゃない。恋愛っていうのはタイミングでね、自分が好きな気持ちを自覚してからじゃ遅いこともあるのよ。相手に先に別の好きな人ができる、とか


 アイツに彼女が?

優雨ちゃん。本当にそれでもいいの?


 良いも悪いもない。
 私達は恋人になるきっかけすら見つからない。

優雨

互いに異性を意識してない幼馴染が恋人になれると思うの?


 初恋すらしていない。
 私と修斗の関係が変わることはこの先にあるのかな。

ありきたりかもしれないけど、意識する事で人って変わると私は思うの

優雨

意識?

そうよ。今は幼馴染としか見てないように見えて、本当は違ったりするのよ。ふとした時にその違いに気づく。もう昔のような関係じゃないんだって

優雨

……ワケが分かんない


 姉の言葉に私はそう呟いて、

優雨

もう既に私達の関係は変わってるって言いたいの?

優雨ちゃんが気づいてないだけでね


 私達が気づいていない関係。
 近くて遠い、幼馴染って難しいんだな。


 ふと、夜中の2時ごろに目が覚める。

優雨

何か目がさめちゃった


 私は携帯を取り出して、適当にゲームを始める。
 それもすぐに飽きて、あることを思い出した。

優雨

……海だ。そうだ、修斗に水着を買ってもらわなくちゃ


 私は彼にメールを打つことにした。

『明日、私の水着を買ってもらうから。お金と心の準備をしておくこと』

 どうせ、寝てるだろうけど、朝には気づくはずだ。

優雨

……水着を買ってもらって、一緒に海に行って


 海に行くのは一年に何回もあるわけじゃない。
 普段はプールがせいぜいで、一年に一度の楽しみみたいなものだ。

優雨

修斗に泳ぎで負けたくない


 あまり運動神経はよくない私は泳ぎも得意ではない。
 それでも、年々、人並み程度に泳げるようになってきている。

優雨

いつにしようかなぁ。晴れている日がいいんだけど


 私は天気予報を見ながら予定を立てる。
 幼馴染と遊びに行く。
 それは世間でいうデートに似て非なるもの。

優雨

気心知れた相手と楽しく遊ぶのはデートと何が違うのかしら?


 同じ行動でも気持ちの違いだ。
 恋人としてデートに行くのと、幼馴染と遊びに行くのは違うもの。

優雨

デートか。そういう意味じゃ一度もしたことないな


 私は修斗の事を考えながら、

優雨

アイツにいつまでも彼女ができないのも可哀想だし、たまにはデートっぽいことをしてあげてもいいかな。私って優しい♪


 そんなことを思いながら、私は再び眠りにつくのだった。

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