都内某所にある
コンビニ『サイコーマート』は、
アリスのバイト先である。
サイコーマートは
北日本を中心に展開しているチェーン店で、
店内調理のメニューも人気となっている。
時間は午後一時。
客がごった返すお昼時を過ぎ、
店内はやや落ち着き始めたところだ。
都内某所にある
コンビニ『サイコーマート』は、
アリスのバイト先である。
サイコーマートは
北日本を中心に展開しているチェーン店で、
店内調理のメニューも人気となっている。
時間は午後一時。
客がごった返すお昼時を過ぎ、
店内はやや落ち着き始めたところだ。
ありがとうございましたー。
ふぅっ、
これで少しは休憩できるかなぁ。
アリス君、
ちょっといいかね?
店の奥から出てきたのは、
店長の羽田花 禁句(はだか きんぐ)だった。
ちなみに王様の格好をしているのは、
単なる彼の趣味。
どこかの国を治めているという
わけではないし、
異世界からやってきたというわけでもない。
なんですか、店長?
こら、王様と呼びたまえ!
いつも口を酸っぱくして
言っているだろう?
火あぶりの刑にされたいのか?
火あぶりの刑って、
唐揚げ調理のことですよね?
それならいつも
やらされてるじゃないですか。
そう言われてみれば、
確かにそうだったな……。
それにエリアマネージャーからは、
『従業員に王様と呼ばせるな』って
叱られてませんでした?
あんなの無視だ、無視。
どうせいつもは見ていない。
店長と呼ぶのは、
ヤツらが監査に来た時だけにせよ。
かしこまりました、王様。
でもわたしは注意しましたからね?
責任をなすりつけたら、
労働基準監督署に相談しますから。
分かっておる。
家臣を蔑ろにしたりはせぬ。
で、何かご用ですか?
今日から新人のバイトが入る。
良きに計らえ。
承知です。
入りたまえ。
王様がそう声をかけると、
奥から誰かがやってくる。
……失礼いたします。
シャムっ!?
アリス……。
なんだ、顔見知りだったのか。
それならうまくやれるな?
――では、店は頼んだぞ。
王様はどちらへ?
余は庶民の生活を視察しに参る。
はいはい、
競艇へ行ったあとに仲間と居酒屋、
それから朝まで風俗店ですね?
さすが我が腹心。
よく分かっておるではないか。
褒めてつかわす。
また奥さんに怒られても
知りませんからね……。
こうして王様は視察へと出かけた。
夕方になるまで、
店にいる従業員はアリスとシャムの
2人だけとなる。
よろしく、アリス。
じゃ、わたしはバックヤードで
商品管理関係の作業をするよ。
シャムはカウンターで
レジや接客をやってくれる?
それならできるよね?
御意っ!
こうして店内は
シャムが1人で対応することになった。
それからしばらくして、
店には男子高校生Aがやってくる。
彼は真っ直ぐカウンターへ向かい、
シャムに声をかけた。
すみません、コーヒーください。
コーヒー?
……ちょっと待ってて。
シャムは店内を歩き回り、
何かを手に持ってカウンターへ戻った。
そしてしゃがんで何かゴソゴソとやったあと、
それを男子高校生Aの前に差し出す。
お待たせっ!
これ、ドッグフードでしょっ!?
しかもご丁寧に
入れ物にまで入れてっ!
間違えた。こっちだった。
わぁ、おいしそうなラーメン♪
――って、俺が買いたいのは
コーヒーだってば!
あ、コーヒーか。
シャムは飲み物コーナーの冷蔵庫に
陳列されている缶コーヒーを持ってきて、
男子高校生Aに差し出した。
130万円っ♪
高っ!
真に受けないで。
よく下町の商店街で
店のおっちゃんが言ってる
冗談と同じ。
ホントは130円。
そういうことかぁ……。
あ、でも俺が買いたいのは、
缶コーヒーじゃなくて
この場で淹れたやつだよ。
そうなの?
じゃ、もう少し待ってて。
シャムは缶コーヒーを開けると、
近くにあった壺にそれを入れた。
ただ、1本では到底足りないので、
数十本を空けて壺の中をコーヒーで満たす。
おまたせー。
ふざけてるのかっ?
もういらないよ! ふんっ!
男子高校生Aは怒って帰ってしまった。
缶コーヒーを大量に開けてしまったのに
売れず、
店にとっては大損害である。
なんで怒ったんだろ?
もしかして微糖よりも無糖の方が
好みだったのかな?
シャムは「んー」と唸りながら、考え込んだ。
すると出ていった男子高校生Aと
入れ替わるように、
今度は素浪人・佐々木こうじろうが
店に入ってくる。
もし、店員よ。
拙者、プリンを所望したいのだが。
……イメージに合わない。
やめた方がいい。
余計なお世話だ!
プリンはどこにある?
……分かった。
そんなに欲しいのなら用意する。
そう言うと、
シャムは床に油性ペンで魔方陣を描き、
呪文を唱えて『それ』を地獄から召喚した。
お待たせっ!
なんだこれはっ!?
どこから持ってきたっ?
まーいっか。
自走式だから運ぶの楽だし。
でも、お高いんでしょう?
29万8000円。
むむ、ちと手が出ぬな……。
でも、今なら特別に10万円引き。
19万8000円。
それは安いっ!
分割払いは可能か?
30回までOK。
分割金利手数料は当店で負担する。
しかも謝恩キャンペーンで
高枝切りバサミと布団圧縮袋も
オマケで付いてくる。
すごいお得。
よし、買った!
――というのは、全て冗談。
あのプリン男は非売品。
それならなぜ連れてきたっ?
おい、なぜ連れてきたっ?
大事なことなので、2回言ったぞ!
暇つぶし。
――ッ!
斬り捨てるぞ、貴様ぁああぁっ!
もういいっ!
佐々木こうじろうは激怒しながら
去っていった。
なお、既の所で刀を抜かなかったのは、
人を斬ると手入れをする手間が
メチャクチャかかるという理由からだ。
あれってね、かなり面倒くさいらしいよ?
――ちなみにプリン男も、
いつの間にか行方をくらませていた。
商売って難しい……。
それから5分後――。
今度は店の前をサユリが通りがかった。
彼女はカウンターにいるシャムに気付くと、
微笑みながら店へと入ってくる。
……チッ、変なのがきた。
あっ、シャムさん。
このお店でバイトしてるんですか?
うざい。帰れ。二度と来るな。
声を尖らせて即答。
相変わらず、シャムはサユリが嫌いらしい。
その理由は『本能的に合わない』
ということなのだが、
ここまで激しく拒絶するのを見ると
真相はほかにあるんじゃないかという
気さえしてくる。
私、お客さんですよ?
そういう態度を取って
いいんですか?
客だからって
大きい態度に出るとか最悪。
あんたなんか客じゃない。
…………。
お店にクレーム電話をかけてやる。
これから毎日24時間、
何度も何度も何度も何度も……。
ひゃははははははっ!
店内に響き渡るサユリの笑い声。
病み属性の発動だ。
だがその時、
タイミングを見計らったかのように
警官が巡回にやってくる。
それを見るなり、シャムはサユリを指差した。
あっ、お巡りさん。
この人、脅迫してきました。
威力業務妨害です。
それは本当かね?
キミ、ちょっと交番まで来なさい!
やっ、ちょっ!?
そんなぁ~!
サユリはお巡りさんの呼んだ
パトカーに乗せられ、
連れていかれてしまった。
これから交番でお説教タイムとなるであろう。
――これで彼女が更正してくれることを
望むばかりだ。
正義は勝つ!
次にやってきたのは、軍服マニア。
今回は珍しく何事もなく唐揚げ弁当を販売し、
あとは袋に入れるだけという状態となった。
ただ、その段階で、
彼は思い出したようにシャムへ声をかける。
あっ、お弁当、温めてください。
分かった。
シャムは弁当を持つと、
それを服の中に入れてしっかり抱きしめた。
そのまま何もせずにジッとしている。
何が起きたのか分からず、
呆然とする軍服マニア。
やがて恐る恐るシャムへ問いかける。
キ、キミ、なにしてんの?
わたしの体温で温めてる。
恥ずかしいけど、
仕事だから我慢してやってる。
あとでニオイ嗅いだり、
舐めたりしないでね?
失敬な! もういらん!
軍服マニアは弁当を置いたまま、
店を出て行ってしまった。
代金は支払済みだったので、
店としての損害が出なかったのは
不幸中の幸いかもしれない。
シャムは遠ざかっていく軍服マニアを眺め、
大きなため息をついた。
セクハラ客にはホントに困る。
また誰か来た。
次に店へ現れたのはキララだった。
というのも、
さすがにそろそろ登場させないと、
また出番がないと騒いでうるさいからだ。
ホント、作者にとってはいい迷惑。
本来であれば
この辺りで話にオチをつけて終わるのだが、
キララのわがままのせいでそれができない。
――作者の負担は増える一方だっての!
うるせー。黙れ!
あれっ? シャムじゃねーか!
キララ。どうしたの?
王様を恐喝し――じゃなくて、
お小遣いを借りにきたんだ。
アイツ、奥にいるのか?
庶民の生活を視察しに行った。
ということは、今ごろ競艇場だな。
それなら
行きつけの居酒屋で待ち伏せるか。
ところで、アリスはどうした?
今日、バイトの日だろ?
バックでヤってる。
アイツ、後ろが好きなのか?
しかも王様がいないからって
店でプレイとは、大胆だなぁ。
わたしがいないところで、
何を話してんのよっ!
不穏な空気を察して、
奥にいたアリスが表へ顔を出した。
うん、やっぱり最後はレギュラー陣が
揃ってないとねっ♪
あんたたちは、もう……。
誤解されそうな言い方を
しないでよ……。
おー、アリス。
邪魔してるぜー。
アリス、行為は終わったの?
だからシャム、
そういう発言はやめいっ!
まー、そんなに怒るな。
アイス、奢ってやるからよ。
シャムも好きなのを選べ。
ホントっ? それなら許すっ!
じゃ、わたしはモナカね。
わたしはソフトクリーム。
代金は王様に請求な。
あとで話はつけておく。
キララったらぁ……。
シャム、
在庫管理の関係があるから、
このアイスもレジに通しておいて。
御意っ!
ところでアイス、温める?
はっ?
お腹が冷えちゃうから、
今回は電子レンジを使うけど。
そんなことをしたら、
融けちゃうでしょーが!
っ!?
ここでアリスは何かに気付き、
大きく息を呑んだ。
そして顔を曇らせながらシャムに訊ねる。
……ねぇ、シャム。
わたしが奥で作業している時、
お客さんにどういう対応をした?
えっとね――
楽しげに説明をするシャム。
しかも各対応をした時に使ったものを
わざわざ再度用意し、
実演までしてみせる丁寧さ。
それを聞いた途端、アリスは頭を抱えていた。
――翌日、シャムは王様から
斬首刑を言い渡されることとなった。
要するにクビってことね……。
何がいけなかったんだろ?
おしまいっ!