星野亘

今日は僕が料理を作ってあげるよ!

ラムダ

なん…ダと?


ラムダが押しかけてきてから一週間目のことだった。

ラムダ

しかし星野亘は料理は苦手ではなかったのか?


確かにその通りだった。

だからこれまでの食事は外食か出来合いのもので

ほとんど済ませてきていたのだった。

星野亘

だけどそれもそろそろ限界! このままでは……仕送りがゼロになってしまう!

星野亘

もちろんラムダに食費のことを相談してみたんだ。でも……


それは二日前のこと――

ラムダ

ウィー。我は満腹ダ。この牛丼という食べ物、実に気に入っダ。持ち帰りもできて極めて嬉しいダ。

星野亘

まさかギガ盛りを頼まれるとは……。安く済ませるつもりだったのに、完全に裏目に出てしまった。

星野亘

あのー、食費って払ってもらえないのかな?

ラムダ

食費とはなんダ?

星野亘

要するにお金だね。

ラムダ

我は宇宙人ダ。地球の通貨は所持していない。

星野亘

じゃあアルバイトをするなりして、多少は稼いできてもらえないかな?

星野亘

僕もただの一介の大学生だからさ。決してお金に余裕があるわけじゃな……

ピシャオウ!!!

星野亘

ピシャオウ? なんか変な音が……って、あれ?


ラムダのブレーレイが僕の頬をかすめていた。

ラムダ

……星野亘は自分の立場を忘れダか?

ラムダ

そもそもこんな状況になっているのはなぜダ? 我の温情を忘れダか? それを言うに事欠いて働けダ?

ラムダ

我のことをニート扱いするとは……許さん…許さんダ……。それだけは言っちゃならんダ……。我はニートとは違うんダ!

星野亘

ごめんなさい!ごめんさい!ごめんなさい!僕が全面的に間違ってました!!!(ヤッバー。また地雷を踏んだっぽいよ)


……というのが二日前。

要するにラムダには金銭面で全く頼れないのだ。

星野亘

とりあえず食材を適当に買ってきたぞ。これからは自炊系男子になるんだ。


しかし当然の摂理なのだが、

食材があるだけでは料理は出来上がったりはしない。

星野亘

うーん。それにしても全然メニューを思いつかない! これは素直に人に聞いた方が早いな。


僕は荻野月子さんに電話をかけることにした。

実は彼女は料理が上手いらしいという噂を

以前、大学で聞いたことがあったからだ。

星野亘

それに彼女がラムダに撃たれた後、どうなったのかそろそろ確かめておかないといけないからなあ。

星野亘

あ! もしもし、ハギノさん?

荻野月子

オギノだっての!

星野亘

良かった! 普通に戻っていたんだね!

荻野月子

はあ? 何それ? まるで私が普通じゃないみたいじゃない!

星野亘

いや、こっちの話。覚えてないならいいんだよ。

星野亘

ところでちょっと聞きたいんだけど、初心者でも簡単に作れる料理って何だろう?

荻野月子

レトルトかインスタントであろう。

星野亘

身も蓋もないなー。意地悪しないで真面目に答えてよ。ハギノさんを頼って電話したんだからさ。

荻野月子

私のことを……頼って? ……頼って? ……頼って?……頼って?……頼って? ……それって愛?

荻野月子

致し方あるまい。面倒だが今から私が直々に指南しに行ってあげよう。

星野亘

いや、家はいいよ。早く作りたいから電話でお願いしたいんだ。(来られたら先週の二の舞いだからなあ)

荻野月子

……そうか。では口頭で。例えば豚の生姜焼きなんてどうだろう?


荻野さんのテンションが下がったように聞こえたが、

荻野さんは豚の生姜焼きのレシピを紹介してくれた。

星野亘

なるほど、へー、わかりやすいね!


彼女の説明は上手く、料理をしたことのない僕でも

簡単に豚の生姜焼きを作れるような気になった。

星野亘

ありがとう! おかげでプロ級の料理ができそうだよ。流石だね、ハギノさん!

荻野月子

ふ、ふん。こんな簡単なレシピを教えたくらいで感謝するとは、おまえも安価な男だな。ちなみに私の名前はオギ……


僕はすぐに通話を切り、料理にとりかかった。

星野亘

よーし! レシピを聞いたらなんか適当に焼くだけみたいだし、チャッチャと済ませてしまうぞ。

星野亘

手間も時間もかからず、それでいてお金も節約できる。手料理ってなんて素敵なことなんだろう!


ところが説明を聞いて理解するのと、

それを実践するのとはまったく別の問題だった。

星野亘

……おかしい。ハギノさんのレシピでは5分で完成しているはずだったのに、まだ何一つとして形になっていないぞ?

星野亘

ハギノさん、別のレシピと間違ったんじゃなかろうか? フランス料理のフルコースとかさ。

ラムダ

夕食はまだダ?

星野亘

うわっ! ……って、もうそんな時間?

ラムダ

そうダ。夕食の平均開始時刻は既に大幅にオーバーしてしまっている。

星野亘

……え? じゃ、じゃあ、地球は……もう?

ラムダ

本来であればもう消滅している。ただし、我もそこまで非情ではないつもりダ。

ラムダ

星野亘が我のために料理に奮闘しているのは伝わってきダ。お腹は空いたが、今日は特別に完成を待ってやろう。

星野亘

……ラ、ラムダ。

ラムダ

手が止まっている。早くするダ。

星野亘

あ、ハイ。


急かされはしたが、僕はけっこう嬉しかった。

今まで人の都合をまったく聞き入れないラムダが、

僕のために初めて妥協してくれたのだ。

星野亘

こうなったらとびきり美味しい料理を完成させてやるぞ! ラムダのために!


それから僕は過去最大級にがんばった。

彼女に喜んでもらいたい一心で

慣れない調理器具を懸命に振るった。



料理が完成した時は外はすっかり暗くなり、

空には煌々とした月がのぼっていた。

星野亘

……ゴメンッ! 思った以上に時間がかかちゃって!

ラムダ

確かに想像以上だっダ。待つとは言ったが、よもやこんなに待たされるとは思いもよらなんダ。

ラムダ

だが、星野亘の努力する姿は悪くはなかっダぞ。さあ、いただこうではないか。

星野亘

……ど、どうかな? 美味しいかな?

ラムダ

こ、これは……!


その時、外で大きな音がした。

窓の外では鮮やかな色の花火が打ち上がっていた。

星野亘

うわあ、凄い。キレイだなあ。

星野亘

まるで僕の初めての手料理を祝福してくれているかのようだ。

ラムダ

星野亘。

星野亘

ハイ!(……あ、なんか笑ってる)

ラムダ

……なんダ、これは?

星野亘

え? 豚の生姜焼きだけど?

ラムダ

豚の飼料の間違いではないのか?

星野亘

え、ええーっ? 酷いなあ。そんなに不味い? 僕、腕によりをかけて頑張ったのに!

星野亘

……あ、クッソ不味いな、これは。なんかザラザラする。飲み下せない。ベオー。

ラムダ

星野亘が我のために努力した姿勢は認めよう。だがしかし、ダ。こんなものを我に食べさせた報いは受けてもらう。

星野亘

え、えええ? そ、それってもしかして……

ラムダ

安心しろ。破壊するのは地球ではない。地球人が地球の次に大切にしているものダ。

星野亘

……地球の次?

ラムダ

ツキ、ダ。

星野亘

スキ?

ラムダ

月ダ。今、外で輝いているのは花火ではない。粉砕された月の破片が地球の大気圏で燃え上がっている光景ダ。

星野亘

月が……燃えて……えええ?



ラムダの言葉は嘘ではなかった。

外の光が消えると、さっきまで空に上っていたはずの

月がどこにも見当たらなくなっていた。

星野亘

僕の手料理が不味かったから、月が消滅した……?

ラムダ

そうダ。以後、気をつけて我に食事を提供するように。

星野亘

外食もダメ! 手料理もダメ! そして月は消滅! 僕は、僕はどうすればいいんだ!?

――次回、 
人の金で焼き肉が食べたい! 

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