魔法陣から不法進入といえばいいのだろうか。
彼の背後、牢獄の中に突如現れた魔法陣からぬるりと姿を見せたのは可愛らしい少女だった。
とりあえずどうも
魔法陣から不法進入といえばいいのだろうか。
彼の背後、牢獄の中に突如現れた魔法陣からぬるりと姿を見せたのは可愛らしい少女だった。
待て
少女は彼を一瞬見やると、私へ視線を飛ばす。
お取込み中だったかしら
いえ、お気になさらず
何を言うまでもない、手段はアレだが別に問題はないだろう。看守を呼ぶほどのことではない。
おい
久しぶりね。勇者くん
随分精神が疲れきっているようだけれど
喋ることに関しては問題なさそうね
むしろ喋り相手がやってきて息を吹き返したのかしら
相変わらず寂しがり屋ね
そういうところ虫唾が走るわ
何しにきたんだ
別に、
どんな顔して死ぬのかなーって見に来ただけよ
どうせまた笑いもしない顔でぼんやり首を落とすのでしょうけど
ね、記者さんもそう思うでしょう
さぁ、私にはさっぱり
会ったばかりですので
あらあら
貴方が一番よく分かっていると思ったのだけれど
見当違いだったかしら
少女はにやにやと猫のように微笑む。
東の賢者の少女。勇者の彼が最初で最後に指針を求めたただ一人の人物。
彼女はただの暇潰して此処まで来たのだと語る。それが本当なのかはさて置いて。
ところで勇者くん
なんだよ
貴方に借りていたもの、返しにきたわ
賢者の少女は懐から手帳を勇者へと投げ捨てた。
乱雑な対応だな、と私は思うが彼女の研究室を見ている以上、指摘は無駄だと思える。
貴方のでしょう
棄ててくれてよかったのに
こんな見苦しいもの
見苦しいから返しにきたのよ
そんなもの、あたしには必要ない
勇者くんの遺物なんて、あたしには必要ない
だから死ぬ前に返してあげるのよ
温情でしょう?
……貴女がそういうなら、そうなのだろうけど
ははは、素直じゃないわね
素直じゃなくなったわね
斬首台をみて怖気ついたかしら
貴方自身がどれほど狂っているか、気がついたかしら
枯れたわね、勇者くん
あたしが望んだのはそんな姿じゃなかったわよ
馬鹿な人ね。
からから笑う彼女に、明らかな不快感を見せている彼の顔はここでは初めて見る表情だった。
思い出話でもはじまるだろうか、そんな期待をしていると。
やあ
牢獄の天井から声が響いた。