Eva

とりあえずどうも

 魔法陣から不法進入といえばいいのだろうか。
 彼の背後、牢獄の中に突如現れた魔法陣からぬるりと姿を見せたのは可愛らしい少女だった。

00

待て

 少女は彼を一瞬見やると、私へ視線を飛ばす。

Eva

お取込み中だったかしら

Claus

いえ、お気になさらず

 何を言うまでもない、手段はアレだが別に問題はないだろう。看守を呼ぶほどのことではない。

00

おい

Eva

久しぶりね。勇者くん

Eva

随分精神が疲れきっているようだけれど

Eva

喋ることに関しては問題なさそうね

Eva

むしろ喋り相手がやってきて息を吹き返したのかしら

Eva

相変わらず寂しがり屋ね

Eva

そういうところ虫唾が走るわ

00

何しにきたんだ

Eva

別に、

Eva

どんな顔して死ぬのかなーって見に来ただけよ

Eva

どうせまた笑いもしない顔でぼんやり首を落とすのでしょうけど

Eva

ね、記者さんもそう思うでしょう

Claus

さぁ、私にはさっぱり

Claus

会ったばかりですので

Eva

あらあら

Eva

貴方が一番よく分かっていると思ったのだけれど

Eva

見当違いだったかしら


 少女はにやにやと猫のように微笑む。
 東の賢者の少女。勇者の彼が最初で最後に指針を求めたただ一人の人物。
 彼女はただの暇潰して此処まで来たのだと語る。それが本当なのかはさて置いて。

Eva

ところで勇者くん

00

なんだよ

Eva

貴方に借りていたもの、返しにきたわ


 賢者の少女は懐から手帳を勇者へと投げ捨てた。
 乱雑な対応だな、と私は思うが彼女の研究室を見ている以上、指摘は無駄だと思える。

Eva

貴方のでしょう

00

棄ててくれてよかったのに

00

こんな見苦しいもの

Eva

見苦しいから返しにきたのよ

Eva

そんなもの、あたしには必要ない

Eva

勇者くんの遺物なんて、あたしには必要ない

Eva

だから死ぬ前に返してあげるのよ

Eva

温情でしょう?

00

……貴女がそういうなら、そうなのだろうけど

Eva

ははは、素直じゃないわね

Eva

素直じゃなくなったわね

Eva

斬首台をみて怖気ついたかしら

Eva

貴方自身がどれほど狂っているか、気がついたかしら

Eva

枯れたわね、勇者くん

Eva

あたしが望んだのはそんな姿じゃなかったわよ

 馬鹿な人ね。
 からから笑う彼女に、明らかな不快感を見せている彼の顔はここでは初めて見る表情だった。
 思い出話でもはじまるだろうか、そんな期待をしていると。 

やあ


 牢獄の天井から声が響いた。

そういうところ虫唾が走るわ。

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