勇者処刑の日。
 梅雨入りにして最悪の日、何人目になるかも分からない勇者は此処で初めて処刑されることとなる。彼が死ぬことでの最悪を現時点で予期した人々は少なく、よろこんでため息をつくものもいたほどだろう。
 その末路は、キミの知るとおりだ。いいやまだ末路までは到っていないかな、それはどうでもいい話だ。
 さて、絶対王権も落ちたなと思わせるほどの愚考、愚作、その歯止めは誰に止められるわけでもなく断頭の刃は落ちる。

運命よ、逆巻け

 ……そのはずだった。
 これは、
 この、蔵書は、ありえたかもしれない世界を刻んだ事実であり虚構である。
 真実はいつもページの外側に、真実はいつもページの内側に。
 唯一つ確定要素をあげるとするならば。
 これは、真実ではないからこその希望の後日談である。

00

もしも僕が遺書書き遺して、それが燃やされない確率ってどれぐらいあると思う

Claus

私が律儀にあなたの骨を拾って、きちんと埋葬するぐらいの確率ですかね

00

つまりは骨を拾うつもりはないんだね

Claus

私は記者なので間接的には骨は拾いますよ

00

その記事が消される可能性は

Claus

死なば諸共

00

清々しいね、キミは

 前略、私は王国の牢獄へ先代紀の遺産【携帯型蓄音機】を携えて、処刑の時刻を待つ勇者を尋ねていた。
 ある依頼と個人的な興味、死の淵に立つことになった彼の言葉をせめて確保するために。
 牢獄の門は意外とあっさり開かれたことに関しては驚きではあったが、これは彼に対してのなけなしの情けなのだと感じ取った。
 看守に聞けば、彼がここに来てからというもの誰も面会にはこなかったそうではないか。少なからず関わりがあったこの国の姫でさえ、この地を踏むことはなかったのだろう。
 だからこそ、私はこうやって通された。
 今この牢獄にいるのは、鉄格子の中の彼と、私と、隣の部屋で眠る死刑囚のみ。看守は彼の食事を取りに席を外していた。

Claus

しかし、まさか実際に話が出来るとは思っていませんでしたよ


 血露戦争終結の立役者であり、戦争最大の戦犯。
 そんな仰々しい看板を背負わされたとは思えないような、自然体で微笑み返す少年はこの状況下では異常であった。
 異常、異端、彼に接触した人々のなかでそう彼を称すのは、片鱗に触れたものたちだった。
 私は、
 私は、彼の噂を聞いてからというもの、彼の冒険譚の真相をかき集めることに執心していた。
 白すぎるのだ、何かある、そんな直感で彼の真新しい足跡を辿り、結果此処までやってくることになった。
 しかし今なら分かる。

Claus

(彼は、やはり異常だ)


 実際に出会うことでしか分からない違和感と狂気。

Claus

(だが)

 彼が死ぬには、早過ぎると思った。
 依頼人の意図はここにあるのか、どうなのか。

00

……どうして

00

どうして、僕なんかに会いにきた

 ──今日、僕は死んでしまうのに。
 光はあれど絶に染まる瞳が揺れている。

Claus

それは

Claus

人になぜ息をするのか

Claus

と聞くのと同意義の質問ですよ

00

……

Claus

私は話がしたくてここまでやってきたのですから

Claus

それだけですよ

Claus

まぁ、記録はとらせていただきますが

00

記録に関しては、別にどうこういうつもりはないよ

00

ただ、気になって

00

今更なんのつもりだとか、思ってたけれど

00

それだけなら、そうなんだろう

Claus

……そろそろ直球にいきましょうか

Claus

あなたは、処刑されることに関してどう考えていますか

00

……

00

………仕方がない、と考えている


 それが一番だから。と言葉が言葉になる直前、彼の背後に魔法陣が浮かんだ。

来たわよ!

00

帰っていいですからね!!

 さてここから本番だ。とでもいわんばかりに空気は逆巻きをはじめた。

Claus

答え、ききそびれた……

つまりは骨を拾うつもりはないんだね。

facebook twitter
pagetop