早くしなさい、
ゼフストミリィカスト

 絶望に打ちひしがれているオレに向かって、ファンタジー風のコスプレをした女性が言う。

さっきから!
ゼフス、ミリィ…スト?
ってなんだぁ!! 言えねぇぞこら!

ゼフストミリィカスト。
あなたの名前よ

 ごくごく当たり前のことのように彼女は言う。
 一瞬、え?そうなの?と思ってしまうくらいの自然さだ。
 いやいや、おかしいだろ。

オレには文人っていう名前がちゃんとある!

 そう、オレの名前は文人である。

フミト?
そんなみすぼらしい名前イヤよ

なっ!?
オレはともかく、全国のフミトさんに謝れ!
失礼だろ!

 名前にみすぼらしいもクソもあるか!

あなた召喚獣よ?
召喚獣がフミト、なんて弱っちい

よわ、よわっちいって……

まぁホントに弱いけど

 いや、待てよ。
 オレちゃんとあの牛のモンスターを箸だけで戦闘不能にさせたんだぜ。たまたまに過ぎなかったけど。

兎に角そんな舌噛みそうな名前やめてくれ

 彼女は不満気だ。

いいんじゃないか?
ゼフストミリィカスト、
訳してフミトってことで

なるほど!
ライゼンさん流石です!

 男剣士が冷静な調停者の如く(若干面倒くさそうに)述べた意見に彼女は食いつく。

ほら、フミト!
さっさと戦う!

え?

 彼女の指差した方向には、ミイラみたいな野郎が俯き加減で唸ってるではないか。

バトル中だったのかよ!

飲み込みが早くて助かるなー

 冷静に言うんじゃねぇよ!
 ミイラはゆっくりとした速度ながらこちらに近付いてきていた。

 ゔゔゔゔゔ。

 死者ならではの声を発している。

あれにやられると自分もああなるの!?
この世界のルールはどうなの!?

やっぱこの召喚獣逃げ腰よね

 答えてくれないし!

 この間は箸でなんとかなったが、今の持ち物はスマホだけ。

 服なんて寝巻きだし……。

 この姿で徘徊するミイラになってしまった自分を想像してゾッとする。

フミト、攻撃して!

出来るわけねぇだろ!

ああ、もう、
とんだものを召喚してしまったのかしら

 こっちは美女に召喚されて光栄ですけどね。

来るぞっ!

 男剣士が短く叫ぶ。
 自分の方に飛びかかってきていた。

 慌てて避けたが転んだ。

フミト!

 足が動かない、と思ったら何かに足を掴まれている。
 足を掴む手は地面から出ていた。

 気持ち悪!

 足をバタつかせるがその手は離そうとしない。

剣士さん、切ってくれ!

うわぁ! ちがっちがうっ!

オレの足を切るんじゃねぇよ!
危ねぇだろ!!

 剣士がアホなことにオレの足に向かって剣を振り下ろそうとしたので慌てて止める。

 その一悶着の間にミイラが近くまで迫ってきている。

 早くしろと揉めてると、ゾンビはまだ一車長程ある距離をジャンプして飛びかかってきた。

うわぁ!

 ミイラなんかになりたくない!

 何かが発光した。

 なんだ!?
 ミイラの目が眩み、オレの手前で地面にべちゃりと堕ちる。

フミトは光魔法が使えたのね!

 いや、魔法でもなんでもない、スマホのフラッシュだ。

 持ってたスマホを恐怖で手を握りしめた拍子にカメラが作動しただけだ。


 見苦しく地面に堕ちたゾンビは這ってでも進もうとしている。

 そこを男剣士が剣を振り下ろし、ざくりと頭と身体を引き離す。

 ゾンビはやがて動かなくなった。

ありがとうフミト、お戻りなさい

あ、ちょっ

 彼女がそう言ったら元の世界に戻る、それを悟って止めようとした。

待って!

 だが、伸ばした手は虚しくも宙をかいた。

 見慣れた真っ白な天井。
 自分の匂いのする布団。
 やはり戻ったんだ……。


 なぁ、だれかこの状況を説明してくれ。

 これはただの夢なのか?

 せめて君の名前を聞かせてほしい。

 そのまま眠りについたらしく、次に目が覚めた時も同じ天井がそこにあった。

 どうやら例の夢の続きは見なかったようだ。
 まだ起きる時間ではなかったのでまた寝ようと、点けっ放しだった電気を消す。

 目覚ましをセットしようと握りしめたままだったスマホにタッチすると画面の照明がパッと点灯した。

 眩しさに思わず目を瞑った瞬間、ハッとして次の瞬間には写真フォルダを開いていた。



 それは、そこにあった。

 某アニメ映画みたいに寝巻きのまま歌って小躍りしたい気分だ。

 そう、写真フォルダの中にはミイラと思しきモノのドアップ写真が保存されていた。


 そう、あれは夢じゃなかった。
 夢じゃなかったんだ!

 その日は興奮してそのまま眠れなかったのは言うまでもない。

召喚獣として召喚される(再)

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