魔王の居城は、前人未踏の高く険しいダル山脈という自然の要塞に守られている。
 抜け道の洞窟を知っている者がいる、という噂を聞いた俺たちは、最後の街リゾルートを訪れていた。

 幸い、情報提供者はすぐに見つかった。

賢者

久しぶりじゃの、勇者よ

勇者

……!

 なんでも、勇者の祖父と共に冒険した賢者だという。
 そりゃ、抜け道を知っているはずだ。

村人F

……ということは、だ

 結構なお年を召されているはずだが、そう見えないのは呪文の力か何かだろうか。

 賢者から話を聞けた俺たちは、早くに宿屋入りをすることにした。
 長旅の疲れを十分に癒してから洞窟へ向かう。
 そういう計画である。

 だが、アラルガンドの幻影を見て以来、俺は迷っていた。
 このまま勇者と共に死地へ赴いていいのだろうか。

 すごくいい子だ。
 生き残って幸せになってほしい。

 そうは思えど、説得は無理だろう。
 彼女が簡単に魔王討伐を諦めるような性格でないことは、俺もよく分かっている。

村人F

じゃあ、これならどうだ

 俺一人で魔王城に乗り込んで、ケリをつける。
 それでうまくいけば万々歳だし、うまくいかなかったとしても――賢者に後のことを頼めばいい。

 満月が空に昇った頃、俺はベッドから抜け出し、装備へと手を伸ばした。

 そのときである。
 こんこん、と控えめなノックが部屋に響いた。

 ぎょっとして動きを止めると、扉が軋みを上げてゆっくりと開く。

村人F

勇者

しらべる

 薄着の勇者と目が合った。
 俺の浅はかな企みなど、『賢さ』カンストの勇者はあっさりと看破していたのだ。

 大股に俺へ歩み寄ると、大層お怒りである、爪先立ちで胸倉を掴んだ。
 張り倒される。
 俺は目を閉じた。
『力』のか弱い彼女の一撃など、大したことはない。

村人F

でも、きっと痛いだろうな

 そう覚悟して今か今かと待っているのに、衝撃はいつまでも訪れなかった。
 ――と、彼女がふっと体を預けてくる。
 首の後ろに回される腕の柔肌に、俺は驚いて目を開いた。

 顔が目の前にある、と思った次の瞬間には、しっとりとした唇が俺の口に、

勇者

しらべる

村人F

 甘い感触が俺を衝き動かす。
 彼女が愛おしくなって、震える体をしっかりと抱き締めた。
 身勝手だとお思いだろうか。
 だが、本当は俺だって勇者とは離れたくない。

村人F

生き残って幸せになってほしい?

村人F

いいや、彼女を幸せにするのは俺以外の誰でもないんだ!

 勇者がぷはっと息継ぎをした。

勇者

…………

 のぼせているのは、決して息苦しさのせいだけではないだろう。
 澄んだ瞳が何かを求めて大きく揺れていた。

 村人F、男になるときだ。
 こうなったらもう、夜の『ガンガンいこうぜ』である。

 勇者を抱き上げてベッドに横たえる。

 窓から差し込む月明かりに照らされて、彼女の肢体はいつになく艶めかしかった。
 俺はごくりと喉を鳴らして囁く。

村人F

やあ、今日はいい天気だな

 彼女は微かに頷き、自ら衣服の裾を――

勇者

しらべる

 …………。










 そして、一夜が明けた。
 朝の陽射しにもぞもぞと動くと、俺の胸板を枕にしていた勇者もぼんやりと目を開ける。

村人F

あ、すまん

 頭をぼりぼりと掻いた俺は彼女の背中に腕を回し、その温もりを思う存分堪能する。

 彼女もまた気恥ずかしげに、

勇者

しらべる

村人F

ええい、甘えん坊め

 ……とまあ、予定よりも少し遅く宿を引き上げることになるのだった。

賢者

無事を祈っとるぞ

宿の主人

昨晩はよく眠れましたか?

 妙ににこやかな宿の主人と賢者に見送られて、俺たちはリゾルートの街を発った。
 向かう先は魔王の居城。
 必ず二人で生きて帰る、と誓い合って。

 ――え?
 それで肝心の決戦はどうなったか、って?
 そのことについてはあまり語りたくないな。
 とにかく後味が悪かった。
 向こうには向こうの正義があったというだけの話だ。

村人F

それが俺たち人間にとって善か悪かは――

 さておきとして、な。

pagetop