4月最初の出社日

コンビニの雑誌売り場でため息をつく小生。

ドージン

あぁ・・・いつにも増して憂鬱だ・・

今日が月曜日、すなわち週刊誌『少年ジャンポ』の発売日じゃなければ絶命し兼ねない。

一冊の雑誌が小生の様な働きたくない勢の命を救っているのだ。

出版社の方々、頑張って下さい。

4月に似合わない高い気温と、強烈な直射日光が小生の体を攻め立て気持ち悪くなる。

ドージン

ランナーズNo.1 埜下樹里(ノノシタキリ)
通称『ドージン』

同人活動が忙しいので定時で帰りたい系女子

ドージン

今日も定時で帰って原稿しないとなんだけど・・

とある気がかりをかかえ、若干左右にフラつきながらトボトボと地下鉄の階段を下りていく小生だった。

某IT企業 ドージンの職場

職場の自席についた小生。誰かを探すかの様に辺りをキョロキョロする。

ドージン

今日から新しい『新人』が来るはず・・

ドージン

出来るだけ絡まない方向で頑張りたい!!

カチョウ

おはよう、埜下君
例の新人の子を連れてきたよ

ドージン

(びくっ!)

死にたくなる様な呪言を小生の背後からかけるカチョウ。背後にはショートヘアの小さな女の子が立っている。

ヤルキ

おはようございまっす!!

ドージン

オェーッ!!
なぜ連れて来た!?

ドージン

っつ!!!!!?

小生達の様な廃人社畜とは違う、光の宿った目をする新人の背後に仏が見えた。

ドージン

まぶしっ!!!!!!!!!!!!!!!

ヤルキ

・・・

ドージン

・・い、いかん、挨拶を返さねば・・・

何とか口から言葉を発しようとする小生。

ドージン

・・お、おはよう・・(ボソリ)

ヤルキ

えっ?

ドージン

え、あ、ごめん・・おはようっ!!

ヤルキ

はいっ!
おはようございます!!

ドージン

休日はずっと引き篭もって同人誌を描いているから、月曜日は声が出ないわ・・・

カチョウ

それでなんだけど

カチョウ

彼女の現場教育担当を君にしたから

ドージン

ふぁっくっ!!?

カチョウ

あと宜しくね♪

言いたい事だけ言いササッと消えるカチョウ。そして期待を含む様な目でこちらをみるヤルキ。

ヤルキ

死ぬ気で働くので
宜しくお願いいたしますっ!!!!

ヤルキ

ランナーズの好敵手? 小村月姫(コムラカグヤ)
通称『ヤルキ』

ニューカマー 死ぬまでヤル気系女子

ドージン

は、はい・・

ドージン

ゆとりなのに凄いヤル気がある子だな(偏見)

夢の定時ダッシュが危うい予感・・ハァ

事務室の隅、小さな打ち合わせスペースでヤルキと話をする小生。新しく淹れたコーヒーを飲みながら平静を取り戻そうとする。

ヤルキ

大学では化学を専攻していたので
情報系はあまり詳しくないのです・・

ドージン

へ、へぇ~そうなんだ
まぁ業務は覚えれば誰でも出来るようになるから大丈夫だよ

ヤルキ

何でもやるのでご教授お願い致します!!

ドージン

ハハ、凄いやる気だねぇ

ドージン

ハァ~おばあちゃんから教えてもらった自然薯(長いも)の掘り方しか教える自信無いわ

テーブルに頭をこすりつけ教えを請うヤルキの姿に、テンションが下がる小生。

ドージン

まぁ、業務を一緒にやりながら色々教えていく予定だけど、今週はちょっと手がいっぱいで・・

ドージン

なので、この技術情報について調べて
プレゼン用の資料としてまとめて欲しいな

ドージン

勉強と技術情報の共有を兼ねてね

小生の見せたパソコンの画面にTCP/IP、SANといったIT用語が表示されている。ヤルキはそれらが何か分からないという表情だが、真剣に話しを聞いている。

ドージン

資料ができたら、まずは私に対してプレゼンをしてくれればオッケーだから

ドージン

だいたい今週の半ば位までに出来ればいいよ

ヤルキ

なるほど了解です!!

ドージン

大丈夫かな~・・違う意味で
あんまり頑張らなくていいのに・・・

一抹の不安を覚える小生だが、ヤルキはるんるんとした動きで自席に戻り早速作業に取り掛かり始めた。

そんな様子を見ていた一人の男。

コモチ

くくく・・・ちゃんと課題を与えてコミュ障のお前にしては先輩らしく頑張っているじゃないか

コモチ

ランナーズNo.2 持田速人(モチダハヤト)
通称『コモチ』

娘とお風呂に入りたいから帰りたい系男子

ドージン

ああ言っておけば自分の仕事ができるからね・・

ドージン

来週末が原稿の締め切りだから、せめてそれまでは帰りが遅く事は避けたいのだ

コモチ

そういう事か
まぁ何にせよ見捨てずやってくれるとは

コモチ

教育担当にお前を推した甲斐があったよ

ドージン

ちょっ!? お前のせいか!!
カチョウが私に教育担当を任せたのはっ!

コモチ

くくく、相変わらずベイビーだなドージン

12時間後

ドージン

・・・・・・・

コモチ

・・・・・・・

ドージン

なぜこんな遅くに打ち合わせをしている!?

遡る事、定時の30分前。小生は帰る作戦を練っていた。

ドージン

そろそろ自然に定時帰宅する為の複線を貼らねばな・・

ヤルキ

あのっ! 埜下先輩、課長!!
今ちょっと宜しいですか?

カチョウ

おっ? 何かね

ドージン

にゃっ!?

ヤルキ

資料作成が終わったので、今からプレゼンする為のレビューをさせて頂けませんか?

ドージン

えっ!!
あの課題、もう終わったの!?

ヤルキ

はいっ
お昼食べずにやりましたからっ!!

カチョウ

お昼はちゃんと取らなきゃダメだけど
頑張ったから見てあげようねぇ

ドージン

え、あ、ちょっ・・

ここぞとばかりに会話へ割り込んでくる2つの影。

ビッチ

先輩らしく見てあげなさいよ
先輩らしくっ!!

ビッチ

ランナーズNo.4 山田華(ヤマダハナ)
通称『ビッチ』

アフターは六本木に繰り出したい系女子

コモチ

初仕事で頑張ったねぇ

ドージン

こいつらっ!!!

ヤルキ

あっお二人にも会議参加通知をメールしましたので~

コモチ

・・・

ビッチ

・・・

ヤルキが頑張って説明している中、会議に参加しているランナーズの面々は焦りを感じていた。

ビッチ

さてと・・
何時までもここにいる訳にはいかないわね

チラリとコモチの様子を伺い、アイコンタクトを送るビッチ。

コモチ

・・・(こくり)

コモチが小さくコクリと頷くのを見ると、誰にもばれない様に机の下でスマホを操作するビッチ。

手元が見えていないのに巧みに操作し、何者かへ電話をかけた。

コモチ

おや?

スマホに着信があった事に気付いたコモチ。周りを気にしつつ、小声で電話に出る。

コモチ

はい持田です
あっ! ど~も~お世話になっております

ドージン

・・・?

コモチ

あ~はいはい
えっ? 急ぎです?

コモチ

あっ、いえ
大丈夫ですけど打ち合わせ中だったので・・

コモチ

ちょっと待ってくださいね
今、部屋を出るので

止む得ずすいませんと言わんばかりの顔をして、そそくさと会議室から出るコモチ。

コモチが出て行った5分後位だろうか、ビッチのスマホにも着信が来る。

ビッチ

おや電話が

ビッチ

あ、お世話様です~おはぎIT様

ドージン

・・・・・・・・?

ビッチ

あ、暫しお待ち頂けますか?
打ち合わせ中なので、いったん移動して自席に戻りますので

ここで話すとヤルキの邪魔になると言わんばかりの顔をして、そそくさと会議室からでるビッチ。

ビッチ

ふぅ

そう、部屋から脱出する為、全て二人の自作自演だったのだ・・

コモチ

ヤルキには悪かったかな?

ビッチ

甘い台詞ね

ビッチ

定時後に打ち合わせなんて教育担当のドージンが止めるべき話だしね

コモチ

そうだな・・では

コモチ

仕事は明日にして、娘にいる我が家へ赴くかね!

ビッチ

仕事は明日にして、六本木の夜の街へ赴くかね!

帰宅するコモチとビッチ。

コーラ

はぁ・・はぁ・・

コーラ

コーラが飲みたい・・
甘いモノが食べたい・・・

コーラ

ランナーズNo.5 油谷慎吾(アブラタニシンゴ)
通称『コーラ』

定期的な糖分摂取を必要とする系男子

帰れない事に加え、糖分摂取が滞っている為、イライラが周囲に漏れ出している。

コーラ

先日の健康診断で糖尿の疑いをかけられたが、この振え、間違いない・・・

ドージン

コーラのやつ、発症してやがる・・
ヤルキがびびっているぞ?

ヤルキ

私の説明が駄目で怒っているのかな・・

ドージン

何かフォローした方がいいのかな

ドージン

いやっ!
これは打ち合わせを切るいいタイミングじゃないか?

ドージン

よ、よし・・・

覚悟を決める小生。

ヤルキ

・・でして・・

ドージン

あ、あの皆さんっ
まだ時間がかかりそうだし今日はこの辺で・・

サービス

おいっす!!!
やってるねぇ!!!!!!!

私の発言をなぎ払い、会議室に現れた先輩社員。

サービス

ランナーズの天敵 近藤爆(コンドウバク)
通称『サービス』

残業こそ至高の思考

ヤルキ

お疲れ様です、近藤さん

サービス

悪いねェ~遅くなっちゃって

サービス

私に気にせず続けて続けて

ヤルキ

あっ、はいでは・・

ドージン

クソ・・なんてタイミングで入ってくるんだ

サービス

う~ん、いいねェ
新人らしく頑張っていてェ

ヤルキの話す姿を見て歓喜の表情をするサービス。

サービス

最初は残業してでも積極果敢に仕事をすべきだと思わないかね?
ねぇ油谷クン

コーラ

ハハ・・最初が肝心という言葉もありますしね

ドージン

うぜぇ・・
(イライラ)

サービス

まぁ私は10年目でも23時前には帰った事ないけど

コーラ

さすがですね・・ハハ

ドージン

ベテラン勢が先に帰らないと、後輩が帰り辛いだろ・・
(イライライライラ)

サービス

油谷君はまだやっていくのかな?

コーラ

これからが始業時間ですよ・・ハハ

ドージン

うぜぇぇぇぁぁぁああああああっ!!!

サービス

ちょっ!?

コーラ

ドージン!?

ドージン

9時に出社したら18時に帰らなきゃいけないんだよっ!!

サービスとコーラのやり取りにブチ切れた小生。

ドージン

大人ならルール守れよっ!!

ドージン

春コミも徹夜で並んじゃダメだろっ!!
それと同じだよっ!!!

ヤルキ

・・・

ヤルキ

・・そうですよね・・

意外な事にキレた小生へ声をかけたのはヤルキだった。おかげで我に帰る事が出来たが、ヤルキの表情には影が落ちており、今朝の様な光が一切消えている。

ヤルキ

こんな時間にレビューだなんて・・

ドージン

ぉぅぃ!!!!!!!?

サービス

!!!!!!

ヤルキ

私が空気を読まずに変な事したからですよね

ヤルキ

だから両親も "離婚" しちゃったんですよね・・

ドージン

ちょっ!!?

ヤルキ

私の事でいつも喧嘩していたし・・
そうですよね・・

サービス

こ、小村くん・・?

ヤルキ

私みたいな人間がこんな素敵な職場に来ちゃダメでしたよね・・

そこで小生は覚悟を決めた。日々練習してきた伝家の宝刀を抜く事に。

ドージン

す・・ す・・・・

ヤルキ

・・・・・

コーラ

・・・・・・おい、ドージン・・

サービス

・・は、っはは・・・

サービス

ま、まぁまぁ、あれだねェ・・

サービス

小村君もまだ慣れていないし・・

ドージン

(ぐりぐり)

サービス

皆、疲れているんだよゥ
今日はお開きにしようじゃないかねェ

サービスのその一言に笑みを隠せない。が、能面を保ちつつヤルキの背中を撫でながら会議室から出る小生。

ドージン

ごめんね

ヤルキ

・・いえ・・

サービス

ではお疲れ様です

帰宅する小生、ヤルキ、サービス。

コーラ

じゃあ課長、あと桐嶋さんも・・

コーラ

自分もこのまま家に帰るので、お疲れ様です

そして、そのまま流れに便乗して帰るコーラ。

会議室に取り残された一人の女性、それと課長。
課長は先ほどの茶番の中でも微動だにしていなかったが。

綺螺羅(キララ)

・・・

綺螺羅(キララ)

ランナーズNo.3 桐嶋もも(キリシマモモ)
通称『†輝螺羅†』(キララ)

某オンラインゲームの姫
ネットの世界に返りたい系女子

カチョウ

・・・ぐ

綺螺羅(キララ)

・・・ん?

先ほどからまるで反応の無い課長にそろっと近づく綺螺羅。

綺螺羅(キララ)

!!!!!!!!!!!!!?

カチョウ

ぐごっ・・・

反応が無い理由が分かった綺螺羅は胸を押さえて苦しみ出す、様な態度をとる。

綺螺羅(キララ)

この沸いてくるドス黒い感情・・

綺螺羅(キララ)

力への目覚めかもしれない・・

自身から生まれる黒い力を制御せねば、この世界は混沌に包まれてしまう、という妄想を馳せていた彼女は、その日終電を逃したという。

つづく...

2. 新卒社員 『ヤルキ』現る!!

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