~ まどろみの夕刻 スリーパー参戦 ~

時は18:30過ぎ。
いつも仕事をしている事務室とは違う、少し開けた会議室で小生は男の説明を聞き ”流して” いた。

ドージン

今日は定時まで社内研修

ドージン

終わったら自席のある事務室へは戻らず、そのままコッソリ帰る予定だったのに・・ハァハァ

ドージン

ランナーズNo.1 埜下樹理 (ノノシタキリ)
通称『ドージン』

同人活動をしたいので家に帰りたい系女子

研修の終了時刻を過ぎても話が終わらず、怒りを通り越して呼吸が荒くなる小生。だが目の前で説明をしている男は、淡々と喋り続けている。

ドージン

くそぅ、もう定時を40分も過ぎたのに・・

ドージン

くどくど

ドージン

くどくど

ドージン

くど・・・

ドージン

・・・

ドージン

奴の淡々とした喋り方

ドージン

エネルギーを吸われるというか、聞いていると眠くなってくる・・

スリーパー

帰りたいな・・

スリーパー

でも話をうまくまとめられない、な・・

スリーパー

やっぱり喋るの苦手だ、な・・

スリーパー

ランナーズ ニューカマー(?)
眠野恭四郎(ネムリノキョウシロウ)

通称『スリーパー』

なぜか仕事が長引く系 社内技術指導員

ドージン

それにしてもランナーズの上位ランカーである、あの二人が・・・

部屋の前方に座っている二人の同士に視線を向ける。少し前あたりから微動だにしていないが。

コモチ

ランナーズNo.2 持田速人(モチダハヤト)
通称『コモチ』

娘とお風呂に入りたいから帰りたい系男子

ビッチ

ランナーズNo.4 山田華(ヤマダハナ)
通称『ビッチ』

アフターは六本木に繰り出したい系女子

ドージン

う~ん、寝堕ちているとは
スリーパーの魔力はかなり高いな・・

ドージン

そしてそのスリーパーの話が長引いている原因である奴もまた・・

コモチとビッチの席よりさらに前、1番前の座席に座ってスリーパーに繰り返し質問をしている女子の後ろ姿がある。

ヤルキ

う~ん・・もう一度、説明いいですか?

ヤルキ

ランナーズの天敵 小村月姫(コムラカグヤ)
通称『ヤルキ』

ニューカマー 死ぬまでヤル気系女子

ドージン

ヤルキは質問攻めだし

ドージン

スリーパーは要領掴めない回答でのらりくらりと・・

ヤルキ

だから、ここから送信されたデータは・・

スリーパー

いえいえ、そういう事ではなく、え~例えば~・・

ドージン

はぁはぁ、二人の会話の堂々巡りは無限に続くのではないか?

ドージン

夢のエネルギー永久機関か?・・はぁはぁ

脳みそに謎の重力がかかってきて大宇宙が見えてきた。

ドージン

・・・

ドージン

・・・うぐっ!!

ドージン

いかん・・また意識が遠くに・・

小生は自分の顔面を両手で叩き、気合を入れる!!

ドージン

起きろっ!!
世界の構造を変えるんだ!!

ドージン

そして死ぬ気で帰るッ!!!!!!

部屋の間取りを調べる為にチラリと辺りの様子を伺う小生。

ドージン

ふむ

ドージン

この部屋の唯一の出口であるドアはすぐそこ

ドージン

こっそり退室できるんじゃないか?
荷物もここにあるしな

覚悟を決めて荷物をカバンに入れる。スリーパーの注意がヤルキに向いている事を確認し、そ~っと机の裏に沈む。

ドージン

三十路になってこんな事をしていると(ガサゴソ)

ドージン

何だか言い様の無い不安が湧いて来るな

そのままドアに向かってほふく前進する。人生初めてのほふく前進だ。おめでとう小生。

ドージン

あ~中学生の時に

ドージン

男子に『潰れた饅頭』って呼ばれてたの思い出した。

ドージン

・・何でか知らんけど・・

スリーパー

おや、そちらの方

スリーパー

横になってどうかされました、か?

ドージン

!!!(びくっ)

スリーパー

体調が優れないのですか、ね?

ドージン

いや、あの・・

ドージン

どうする糞っ!!

ドージン

コモチっ!!フォローしてくれっ!!

コモチ

(zzzz)

ドージン

くぅ、気付いてすらいない・・!!

スリーパー

・・あ、の?

ドージン

はっ!!
そうだ奴を利用してやるか!

ドージン

コモチの名前を語って体調不良で帰るんだ・・

ヤルキ

(ブツブツ)

ドージン

ヤルキは自分の世界に入っているし受講者チェックもしていない

ドージン

明日以降になったらドサクサで事実関係なんて分からなくなるだろう・・ククク

小生は何事も無かった様にすくっと立ち、おどけた顔で切り返す。

ドージン

あ、へへ、持田ですけど
体調が悪くて今日はお先に失礼しようかと

スリーパー

ん?
よく聞こえなかったか、な?

スリーパー

あなたは埜下さんではなかったでしたっけ

ドージン

ふぁほあえっ!!?
ハイッ!! 私が埜下かもしれません!!

まさか自分の顔と名前が一致するレベルで把握されているとは思わず、動揺していきり立ったカピバラの様な声を出してしまった。なぜ分かったのだろうか。

スリーパー

んと、埜下さん?持田さん?
どちらが正しいのかな?

スリーパー

この名簿が間違っているのか、な?
名前が書き変わっているのか、な?

ドージン

め、名簿・・そんなのがあったのか

ドージン

もう駄目だ、終わった~・・(ガタガタガタ)

ヤルキ

ん、のの先輩?

こちらの茶番に気付いたヤルキと目が合った。

ヤルキ

・・名前がどうとか、変わったとか聞こえたけど・・

ヤルキ

えっ、もしかして、あーっ!!

ドージン

何言ってんだコイツ!!

ドージン

うっ!!

ヤルキ

のの先輩?

ドージン

結婚・・
幸せな家庭・・ハァハァ

スリーパー

・・・?

ヤルキ

あ、あの・・?

ドージン

老後の安寧・・
ハァハァ・・うっ!!!

聞いてはいけないワードが三半規管を巡り、ゲシュタルト崩壊した小生は見事帰る事が出来たのであった。

翌朝

ドージン

・・・

コモチ

まだないな

コーラ

ない

ビッチ

まだない

結婚の事が若干噂になったらしいが、あえて何も聞いてこない、というより聞く必要が無いと思っていやがるランナーズの面々にちょっとイラッとした。

つづく...

3. まどろみの夕刻 『スリーパー』参戦

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