Ⅳ ヴァルプルギスの夜①

4月30日、ヴァルプルギスの夜――。
私は拳銃を懐に忍ばせ、私は家を出た。
護身用だが、何かの役に立つかもしれないという、一縷の希望を持っていたのだ。

色を失いつつある三日月が寂しげな光を投げかける深夜、私たちはあのうら寂しい墓場で落ち合うと、まっすぐにあの館へと足を向けた。

最終的な荒廃を告げる幕は、ここに切って落とされたのである。

一見して、館には何も変化がないようだった。
しかしながら、実際に部屋へ足を踏み入れてみると、二人の印象はがらりと変化した。

窓は割られ、壁や床には大きな獣の仕業としか思えない、壮絶な爪痕が残されていた。

……


私たちはその場に呆然と立ち尽くした。
二人とも、一言も口にしなかった。

……ほかの部屋はどうなっているのだろう。少し見てみないか?

やっとウィルバーがそう提案して、私は意識をこの場に取り戻すことができた。
もし一人だったなら、私はあのまま朝まで立ち尽くしていたかもしれない。

では、玄関ホールへ戻って、隣りの部屋へ行こう

そう言って、ウィルバーが部屋を出ようとした時だった。

窓から羽のはためく気配がした。
いやな予感が、胸を満たす。

私とウィルバーが振り返ったのは、同時だった。

そこには巨大な化け物――漆黒の体をした巨大な化け物がいた。

私たちは必死で走った。燐光めいた月明かりが照らす墓場を、静謐な闇に満たされた町を。

そうして逃げ切れた、はずだった。

『殺せ、殺せ……』

頭の中で声が響く。
音ではない、頭に直接響くような声だ。

私は耳をふさぐと、一目散に走り抜けた。

Ⅳ ヴァルプルギスの夜①

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