Ⅲ 闇に潜むもの②

家々の灯りが消え、真の闇が訪れる深夜。
私はウィルバーと町外れの墓地で待ち合わせをした。

あれがその館ですか?本当に入るのですか?

なあに、大丈夫だよ。不安なら、外から見ているだけでも良いぞ

ウィルバーはなんでもないことのように言うと、漆黒の空に幽霊の指のようにそびえる館の敷地へ入っていく。

あたりに響くのは、草むらに潜む虫たちの声音だけだった。
館の脇では、手入れもされないまま巨木となった針葉樹の下で、青光りする昆虫が乱舞している。
あたり一面を満たす静かな闇に、青白い月と控え目に瞬く星々の光が降り注いでいる――。

だが、静寂と平穏は突然に打ち破られた。

館に入り玄関ホールを抜け、一番手前の部屋の様子を見ようと中を覗いた時だった。
窓に、窓に――およそ人間の想像力が及びもしない、まったく信じがたい情景を見たからだ。


私は震え上がった。
おぼめく月の光を背に浮かび上がったのは、悪夢をおいても想像し得ないような、恐ろしい巨大な奇形の姿だったのだ。

何なのだ!あれは!!

いいから早く逃げましょう!さあ――

今にも自分を飲み込もうとするおぞましい影から背を向け、一心不乱にその場から走り去った。
この夜が明けるとき、果たして私は、今の私でいられるのだろうか――。

悪夢のような一夜が明けても、私の心は、あの信じがたく思いもつかない、幻惑めいた影の虜だった。
何をしてるときも、あの瞬間を思い出してしまう。

――もう一度、あの影を見たい。

その破壊的な衝動を、抑えることは不可能だった。
ウィルバーもまた、私と同じ種類の人間だった。
私たち二人にとって、穏やかな日常それ自体がもはや、変幻きわまりない魔術幻灯じみたものになってしまっていた。

すべてはあの影――。
あの黒い影のせいだった。

私とウィルバーは、ヴァルプルギスの夜に、再びあの館を訪れることに決めた。

無謀だと、あなたは言うだろうか?
だが、勘違いしないで欲しい。
私にはすでにわかっていた。
魂も砕かれる最終的な破局が、近い未来、自らの身にふりかかることを。
それでも地獄めいた幻想に囚われた私たちは、進むことを止めなかった。

――いや、止められなかったのだ。

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