11 未知との遭遇(骨董店side)
街外れの教会の前に、リディアとフレデリックは立っていた。
中からはパイプオルガンの音色が流れて来る。
だがそれは、聞きなれたバロック音楽の旋律ではなかった。
どこか不可思議な、この世の物とは思えない、耳にざらざらとした違和感を残す物だった。
11 未知との遭遇(骨董店side)
街外れの教会の前に、リディアとフレデリックは立っていた。
中からはパイプオルガンの音色が流れて来る。
だがそれは、聞きなれたバロック音楽の旋律ではなかった。
どこか不可思議な、この世の物とは思えない、耳にざらざらとした違和感を残す物だった。
ヴィクトリアはきっと、この中にいるのね。一体、何をしているのかしら……?
それをこれから、確かめればいいだろう。さあ、開けるよ
フレデリックは、そっと、教会の扉を押す。
だが、そこはびくとも動かなかった。
な、なんなんだ、これ。ちっとも動かないぞ
どういうこと!?急がないと!!ヴィクトリアが危険に晒されているかもしれないのよ!
リディアはガタガタと教会の扉を揺らした。
こういう時の彼女は、憂いを帯びて美しく見える。
分かった。僕にまかせて
フレデリックはそう言うと、扉へ向けてその身を投げ出した。
大きな音とともに、教会の扉が開く。
中にいたのは、ヴィクトリアとエドウィン氏だった。
二人は古ぼけた百科事典のような本を開いたままその腕に抱えていた。
祭壇に置かれたアルハザードのランプには火が灯り、周囲に映った炎の影には、古代の熱帯雨林のような影が揺らめいている。
二人とも、心底驚いた様子で、呆然と打ち破られた背後の扉へ視線を送る。
な、なんなの!?フレデリック、ヴィクトリア
ノックもせずに押し入るなんて、犯罪じゃないか!一体君たちは何者なんだ!!
やっと振り絞った言葉で、二人は侵入者に抗議した。
何って……ヴィクトリア、あなたを助けに来たのよ
リディアの言う通り。僕はリディアの手伝いをしたまでだ
君たち、それがまともな大人のすることかね!まったく……
待って……きゃ、きゃああああああっ!!!
怒り出したエドウィン氏の背後で、ヴィクトリアが悲鳴を上げる。
教会に供えられたアルハザードのランプが発する光の向こうから、真っ黒な巨大な生き物が出てきたのだ。
それはまるで太古の昔、地球に生息していた恐竜のような姿をしていた。
そしてそれは凶暴に首を振り、尻尾を動かしては教会内の椅子や花瓶を倒していく。
きゃ……何なの、怖いわ……
落ち着け、リディア。見たところ、奴は頭はそんなに良くない
そんな慰め、この場面で要らない……
諦めたらそこで試合終了、だろ?
そういうのもいい……
リディアとフレデリックが軽口を叩いている間にも、巨大な生き物は教会を次々と破壊していく。
まさに傍若無人な振る舞いに、その場にいる人間たちは絶望的な気分になる。
私、聞いていないわ。ランプの幻の向こうには、こんな恐ろしい生き物がいるなんて
落ち着くんだ、ヴィクトリア
泣き崩れるヴィクトリアをエドウィン氏はそっと慰める。
だが、エドウィン氏にも、この状況を切り抜ければ良いのか分からない。
きゃ、あいつ、私たちに気付いたわ
ずっと見つめていたリディアは、真っ黒な生き物と目が合ってしまった。
体そのものよりずっと黒々とした、虚ろな瞳。
それに見つめられて、リディアは背筋まで凍りつく。
は、早く逃げましょーー
フレデリックとともに背を向けて逃げ出そうとした瞬間、生き物はリディアの頭めがけて突進してきた。