見事にケルベロスを手玉に取った
アリスとシャム。

その後も紆余曲折があったものの、
地獄姫がいるという地獄本部の前まで
無事に辿り着いたのだった。


地獄本部の外見は日本の城とそっくり。

手前には深い堀があり、
門に向かって木製の橋が1つだけ
架けられている。

アリスとシャムは堀の手前から、
その建物を眺めた。
 
 

アリス

ここが地獄本部かぁ!

シャムロット

やっと着いた!

アリス

地図によると、
ここに第2の試練が
あるはずなんだけど……。

シャムロット

あ……また立て札……。

 
シャムは前方を指差した。
確かに橋の横には木製の立て札がある。
 
 

アリス

どうせまた
モデルルームの案内でしょ……。

シャムロット

でも、もし重要なことが
書いてあったら大変。
後悔先に立たず。

シャムロット

先に立っているのは
立て札だけど。

アリス

ダジャレは余計だって……。

アリス

まぁ、読んでおいて損はないか。

 
アリスは立て札の前まで進み、
書いてある内容を読む。
 
 

アリス

えっと……なになに……。

 
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アリス

やっぱり試練と関係ないことが
書いてあった……。

シャムロット

寄っていく?

アリス

行かないってばっ!

 
その時、アリスたちの後ろに
1人の男がやってくる。
 
 

ヘタレのDV男

うわぁ、楽しそう!
遊んでいこうっと!!

 
そこに現れたのは、
以前、電車の中で起きた
痴漢騒動の時に証言をした
ギャンブル依存症でヘタレなDV男だった。


――詳しくは過去のお話を読んでねっ♪
 
 

シャムロット

この人、見覚えがある。

アリス

そうなんだ……。

シャムロット

その節はお世話になりました。

ヘタレのDV男

やぁ、あの時はどうも。

シャムロット

どうしてあなたがここへ?

ヘタレのDV男

実はあのあと、
帰宅したらDVをしていた彼女に
刺されちゃってね……。

ヘタレのDV男

我慢の限度を超えたらしいんだ。
それでこうして見事に
地獄送りになったというわけさ。

ヘタレのDV男

無理心中だから、
彼女もこっちに来てるんだ。
紹介するよ!
――おーい、あっちゃーん!

 
DV男が叫びが辺りにこだました。

すると――
 
 

アリス

なっ、なんなのっ!?

 
轟音とともに地面全体が揺れた。
 
それはその後も規則正しく繰り返され、
やがて山のように巨大な『それ』は姿を現す。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

あっちゃん

は~ひふ~へほ~!

 
耳をつんざくような、王者の雄叫び!

身長3776メートル、体重●トンを誇る
巨人族のあっちゃんが進撃してきたのだった。
 
 

ヘタレのDV男

彼女のあっちゃんですっ♪

アリス

ギリギリッ!!!
色々な意味でギリギリっ!

シャムロット

お似合いのカップル。
うらやましい……。

あっちゃん

あら?
この子、分かってるじゃな~い♪
正直な子は好きよー。

あっちゃん

それよりもダーリン、
早くその立て札に書かれている店に
行きましょうよ。

ヘタレのDV男

分かった。
また閉店まで打ちまくろう!

ヘタレのDV男

そういうわけだから、
キミたち、またねっ!

 
あっちゃんは自分の肩にDV男を乗せると、
再び轟音を響かせて去っていった。
 
 

シャムロット

幸せそうだった。
地獄にも希望はあるってことかも。

アリス

もうどうでもよくなってきた……。

シャムロット

あっ!
アリス、立て札がもう1つあるよ?

 
パチンコ店の立て札に重なるようにして、
もうひとつの立て札が立っているのを
シャムは発見した。
 
 

アリス

今度こそ、
マトモなんでしょうね?

 
アリスはパチンコ店の立て札をずらし、
隠されていた立て札を読む。
 
 

アリス

えっとぉ……。

 
 
この先、地獄本部。

ただし、このはし渡るべからず!
超危険っ!!!
 
 

アリス

っ!?

シャムロット

注意書きだね。
渡っちゃいけないんだって。
気付いて良かった。

シャムロット

でも、堀を越えるには
この橋を渡るしかなさそう……。

 
確かに見回してみても、
地獄本部へと繋がる橋は、ほかにない。

堀の深さは数十メートル、
向こう側までの距離も十メートル以上はある。
普通の人間に越えられるような感じではない。

だが、アリスはすぐにピンときたようで、
得意げな顔をしている。
 
 

アリス

ははーん。
わたし、
このトンチ話を知ってるよ。
有名だもんねっ!

アリス

大丈夫!
橋を渡りましょ!!

シャムロット

っ? どういうこと?

アリス

要するに、
橋の真ん中を歩けばいいのよ!
『橋』じゃなくて『端』を
渡るべからずって解釈するの!

シャムロット

そっかぁーっ!

シャムロット

……じゃ、念のため、
アリスが先に渡って。

アリス

えっ?

シャムロット

もしその解釈が間違っていたら
嫌だから。
本当に橋が危険なのかも
しれないし。

シャムロット

言い出しっぺのアリスが
先に渡るのは当然。

 
シャムはニコニコしながらアリスを見つめた。
そうやって無言のプレッシャーを与える。

もはや後に退けなくなったアリスは、
頬を膨らませながら叫ぶ。
 
 

アリス

わ、分かったわよっ!

アリス

で、でもぉ……
なるべくなら
遠慮したいかもぉ……。

アリス

あははははっ!

 
威勢が良かったのは最初だけ。
最後は笑って誤魔化そうとする体たらく。


――アリスは意気地なしだった!
 
 

アリス

うっさい!
リスク回避を望んで何が悪いっ!!

 
アリスは逆ギレした。

良い子のみんなは
こういう大人にならないよう、
気をつけようねっ!
 
 

アリス

良い子のみんな、
悪意のある地の文を書く大人にも
ならないようにしてねっ♪

 

…………。
 
 

アリス

それにしても困ったね……。

シャムロット

試しに渡ってくれそうな人、
誰かいないかな?

アリス

そんなに都合良くは――

とうとう見つけたぞぉ!
貴様らぁ~!!

 
不意に2人の後ろから、
怨念と敵意の混じったような声が上がった。

激しく息も切らしている。
 
 

アリス

あ……。

シャムロット

わぁ!


振り返った2人の前に立っていたのは――
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

ケルベロス

よくも散々、
コケにしてくれたなぁあああぁっ!

 
――ケルベロスだった。
 
 

シャムロット

すごーい!
投げた石を持ってきてる~!

 
ケルベロスの口にはアリスの投げた小石が
きちんと咥えられていた。

意外に律儀な性格のようだ。
 
 

ケルベロス

遠くに投げすぎだっ!
この小石を探すのに、
どれだけ苦労したと思うっ?
強肩女めっ!

アリス

あんたも狂犬だけどね……。

ケルベロス

こらぁっ!
それ、今から
言おうと思っていたのに!
先に言うとは、ますます許せんっ!

アリス

っていうか、
怒るポイントがズレてない?
まず弄ばれたことに
怒らないと……。

アリス

まーいーや。
ちょうど良かった。
ケロちゃん、
提案があるんだけど……。

ケルベロス

ケロちゃん言うんやないー!
某魔法少女作品の
キャラやないんやからっ!

アリス

決着をつける場所は、
地獄本部の敷地内にしようよ。
どうかな?

ケルベロス

なんだとっ?
……ふむ、よかろうっ!

アリス

では、ケルベロス様。
お先にどうぞ。

 
アリスは片膝を付き、
深々と頭を下げながら手で橋を指し示した。
 
 

ケルベロス

ほぉ?
殊勝な心がけだな。
だが、今さら許してはやらんぞ?

 
ケルベロスは
橋の中央をやや早足で歩いていった。

そのまま特に何も変化が起こらず、
中間地点まで到達する。
 
 

アリス

やっぱり真ん中を歩くので
正解だったのかな?

シャムロット

……待って。
何か変な音がする。

 
 
――その時だった。
 
 
 

 
突如、橋に大きなヒビが入り、
大きな音を立てて崩落した。
 
 

ケルベロス

のわぁあああああぁっ!

 
ケルベロスは断末魔の叫びを上げながら、
奈落の底へと消えていった。

その様子は、
ヒゲの配管工・M氏によって
炎の海に落とされる亀の大王を彷彿とさせる。
 
 

アリス

うわぁっ!

シャムロット

ケルベロスのおかげで、
わたしたちはセーフ……。

シャムロット

あなたの犠牲は忘れないから。
あははははははっ!

アリス

シャムってさ、意外に――

シャムロット

っ?

アリス

まーいーや。
なんでもない。

アリス

それよりもさ、
この橋が使えないとなると、
どうやって地獄本部へ
行けばいいのかな?

シャムロット

簡単。あの人に頼めばいい。

アリス

あの人って誰?
まさか観音様っ?

シャムロット

違う。
観音様は会議で忙しい。

アリス

そういえば、そんな話をしてたね。
それじゃ、誰なの?

シャムロット

見れば分かる。
だから今から呼び出す。

 
シャムは地面に魔方陣を描き始めた。
中央には六芒星、
その周りを囲うように2つの円。
さらに数字や記号を描き加えていく。

その怪しげな雰囲気は、
本当に悪魔を召喚できても
おかしくなさそうだ。
 
 

シャムロット

魔方陣、完成っ!

 
 
 
 

↑ ※イメージ図です。

アリス

こらーっ!
何、このイメージ図!
ホットケーキでしょ、これっ!

 
うるさいなぁ、ネタになるからいいじゃん。

それにこのエピソードを
最初に投稿した当時(2015年6月)は、
魔方陣の挿絵がなかったんだよ。

今は質の高い魔方陣の挿絵があるけどさぁ。
 
 

アリス

もう分かったよ……
許したげる……。

シャムロット

じゃ、呼び出す呪文を唱えるね。

シャムロット

エロエロエッサッサ、
エロエロエッサッサ!
我はもとめ、訴えてやるぅ~♪

アリス

もうツッコむの疲れた……。

 
 
 

 
轟く地鳴りと
魔方陣に巻き上がる煙。

やがてそれが最高潮に達する!
 
 
 

あっちゃん

呼んだぁ~?


魔方陣の真ん中にあっちゃんが現れた。
 
 
 

アリス

きゃあぁあああああぁーっ!
化け物ぉ~!!

あっちゃん

失礼な子ね。あんた嫌い!

シャムロット

あっちゃん、
わたしたち地獄本部へ行きたいの。
向こう側まで運んでもらえる?

あっちゃん

しょうがないわね。
あなたは好きだから、
頼みを聞いてあげる。

あっちゃん

そっちの金髪の子は嫌いだけど、
体はデカイくせに心は小さいとか
思われたくないから、
ついでに運んであげる。

アリス

ありがとうございまーす……。

 
あっちゃんはシャムとアリスを
手のひらに載せ、
地獄本部のある側へ渡してくれた。

さすが身長3776メートル、
その程度のことは朝飯前のようだ。

そのあと、
彼女はDV男のいるパチンコ店へ向かって
走り去っていった。
 
 

シャムロット

これで第2の試練も突破!

アリス

いよいよ地獄本部か。
地獄姫ってどんな人なんだろうね?

 
地獄本部を目の前にして、
期待に胸を躍らせるアリスとシャム。

物語は佳境へと入ったが、
残念ながら今回はここまでだ。

はてさて、次こそ地獄姫は登場するのか?
またしても出番のなかったキララの我慢は
いつまで続くのか?


――こうご期待っ!!
 
 

 
 
 
To be continued!
 

Vol.7 地獄脱出作戦(3)

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