町へ到着した僕らは賑やかな大通りを進んでいた。

笹々木修司

うわあ、建物の作りがなんか違う! なんだかヨーロッパな感じがする。

西野茜

凄い! 人々の服装が全然違うんだね。文化の違いをヒシヒシと感じる。

ガシャーン、ガシャーン。
おう、少年たち。ちゃんと前を見て歩かないと危ないぞ。


全身甲冑の騎士が僕らの横を通りすぎていった。

笹々木修司

……ヤ、ヤッベー! ガチでナイトだ! リアル感ハンパねえ! 僕は本当に異世界に来てるんだ!

西野茜

え、今さら実感した系?

笹々木修司

だって鎧だよ? 黒光りしているし、あの重みのある音をちゃんと聞いた!? ガシャーン、ガシャーンって! レプリカじゃない。絶対に本物だよ!?

西野茜

ふうん。笹々木くんって鎧フェチだったんだ。


ちなみに今、この場にお母さんはいない。

町に入るなり、僕のために水をもらいにいくと言って

どこかに行ってしまったのだった。

笹々木修司

ああ、僕もカッコイイ鎧を着て、颯爽と無双をしてみたいな。

笹々木修司

やっぱり異世界に来たからには装備だよね、装備! あと武器!

笹々木修司

でも、そのためにはお金がないとなあ。日本のお金は使えないだろうし。


周りで買い物の様子を見ていても、

使われている硬貨は似て非なるものばかりだった。

笹々木修司

……ん? っていうか、お金がないと今日泊まるところもないじゃないか。流石に二日続けて野宿はイヤだなあ。

西野茜

笹々木くん。ちょっとコレを見て欲しいんだけど……


西野さんはポケットから光り輝く物体を取り出した。

笹々木修司

うわっ! なにこれ? なんか財宝っぽくない? トレジャー感がヤバイ!

西野茜

昨日、里子さんが倒したグリフォンが落としたの。これを売ったらいくらかお金にならないかな?


そういえばカラスは光物を集めると聞いたことがある。

おそらくグリフォンも似たような習性があったのだろう。

笹々木修司

でも、いいの? 西野さんはこれを欲しくて拾ってきたんじゃない?

西野茜

確かに最初はキレイだと思ったけど、お金がないのは大変だから。遠慮しないで売ってくれて構わないよ。

笹々木修司

わかったよ! 僕が巧みな交渉で高く売りさばいてきてあげる! 僕、こういうトレードってやってみたかったんだ!

西野茜

だから里子さんが戻ってきたら、一緒に売りにいってもらおうね……って、アレ?


僕は西野さんの宝石を受け取ると、

先ほど見かけた買取の店へと駆け込んだ。

笹々木修司

一番高く買ってください!


 ……それから10分後。

笹々木修司

…………………

西野茜

あ、戻ってきた。どうだった?

笹々木修司

……これっぽっちにしかならなかった。


もらえたのは10円玉のような色の硬貨が五枚だった。

この世界の相場はまだわからないけど、

感覚的に50円くらいの価値にしか見えなかった。

西野茜

もしかして買い叩かれたんじゃない?

笹々木修司

……そ、そんなわけないよ! きっとこれが相場なんだよ。グリフォンのドロップアイテムはそんなに珍しくなかったんだ!


傍を通りかかった騎士が声をかけてきた。

ガシャーン。ガシャーン。
君らが話してるのはグリフォンの群青結晶のことかい? 激レアな鉱物だ。もし持っているのならオレに黄金貨幣50枚で譲ってくれよ。

笹々木修司

………………

西野茜

……子どもの使いか、っての


そこにちょうどお母さんが戻ってきた。

お母さん

お待たせ、シュウちゃん。お水もらってきたわよ。母乳のように存分に飲みなさいね。

お母さん

……あら? どうかしたの?

西野茜

実はかくかくしかじかで……


西野さんが事の顛末を説明した。

お母さん

え? それって要するにうちのシュウちゃんがお店に騙されて買い叩かれたってことかい?

西野茜

そうですね。でも、笹々木くんの交渉が事実として下手だったわけですから、今さら何を言っても……

お母さん

ダメね。

笹々木修司

………………

お母さん

そのお店、ダメだわ!

笹々木修司

え!?


それからのお母さんの行動は迅速、いや神速だった。

うちのシュウちゃんを!

 騙すなんて!

 断固として許せない!


お母さんは僕が取引をしたお店に突撃していった。

お母さん

クーリング・オフよ!!!

笹々木修司

………………

西野茜

………………



ほどなくしてお母さんはお店の中から姿を現した。

お母さん

良かったわあ。異世界の人も話せばわかってくれるのね。査定額が間違ってたらしいのよ。こんなにもらっちゃった。

笹々木修司

黄金の金貨が……100枚!?

西野茜

これって相場の2倍のような……。まさかぼったくり返し?

お母さん

ラッキーだったわあ。これでしばらく食べるものも、泊まるところも苦労しなくて済みそうね。

笹々木修司

結局、活躍したのはまーたお母さんだった。


その後、僕らは食堂で料理を食べることにした。

笹々木修司

……ああ、お腹いっぱい。

西野茜

ちょっとスパイスの風味が強かったけど、けっこう食べやすかったね。


僕らは食堂を出ると、予約してあった

町の宿屋「黒猫のまどろみ亭」に足を運んだ。


途中、お母さんが露店の前で足を止めた。

お母さん

あら。面白い花が売ってるわ。茜ちゃん。ちょっと寄って見ていかない?

西野茜

はい。いいですよ。


二人がウィンドーショッピングを始めたので、

僕は一足先に宿に帰ることにした。

サササ・サキ様ですね。お部屋の準備は出来ております。


宿に入ると受付の人が出てきて案内を始めた。

部屋割りは2名1室、1名1室にさせていただきました。

笹々木修司

わかりました。


すると急に宿の人が僕に耳打ちをしてきた。

……ボソボソ。事情は承っております。僭越ながら気を利かさせていただきました。


予期せぬ発言にドキッとした。

2名1室は女同士であるお母さんと西野さんで、

僕は1人部屋になるのだと思い込んでいた。

笹々木修司

も、もしかして僕が2名の部屋の方に……?

……(思わせぶりな表情で)コクリ

笹々木修司

んんんん! キ・タ・コ・レ!


僕は鍵をもらって先に2名1室の部屋に入った。

室内には当然、2台のベッドが置かれていた。

笹々木修司

2名1室! 気を効かせてもらえたっていうことは、つまり……

笹々木修司

ダメだ! ドッキドキが止まらない!

笹々木修司

やっぱり異世界に来て正解だった!


それからしばらくして、部屋のドアがノックされた。

笹々木修司

帰ってきた!

笹々木修司

僕は、今夜、大人になる!

次回、『僕のエクスカリバー』(仮)

昨夜はお楽しみでしたね

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