スマホの音で僕は目を覚ました。
大学の友達からのメールだった。
とりあえず返信は後にして、僕は起き上がった。
スマホの音で僕は目を覚ました。
大学の友達からのメールだった。
とりあえず返信は後にして、僕は起き上がった。
なんだか昨夜は変な夢を見た気がするなあ
宇宙人がやってきて、食事を与えないと地球を滅ぼすとかって。……まったく、ドラゴンポールでもあるまいし
まあ、普通に考えるとありえないのはすぐにわかるけどね。あー、もう11時か。我ながらグッスリだったなあ
でも、どうして僕は床の上で寝ていたんだ?
ふと気が付くとベッドにラムダが寝ていた。
……夢だけど、夢じゃなかった系?
……うーん、ダ
ラムダがパチッと目を開いた。
ヤ、ヤバイ! 朝食の準備が全然出来てない! 起きてこられたら……地球が終わる?
……我は寝すぎてしまっダか?
いいやいや! そんなことないよ。まだ早すぎる。もっとゆっくりしていてね!
そうか。長旅の疲労で熟睡してしまったかと思ったが……まだ早かっダか
ラムダは再びベッドの中で目を閉じた。
少しだけ時間を稼げたようだ。
しかし部屋の中に依然として食材がないのだ!
急いで何か買ってこなくちゃ!
ピンポーン!
部屋のインターフォンが鳴った。
なんだよ、この忙しい時に! こっちは地球の命運が掛かっているってのにさ!
ピンポーン!
ピンポーン!
ピンポーン!
インターフォーンは執拗に連打された。
彼女が起きちゃうじゃないか! 空気読んでくれよ!
僕は慌てて部屋のドアを開けた。
すいません。今、取り込み中なんで……
ろくに大学に来ないくせに、取り込み中とはこれ如何に?
来客は大学の友人である荻野月子さんだった。
あれ? ハギノさん
ハギノじゃなくて、オギノ! いったい何回言えば覚えてくれるのさ?
あ、ごめん。今度こそ覚えたよ。ハギノさん
オギノだ!
荻野さんはスーパーのビニール袋を提げていた。
さっきメールしたじゃない。どうせ今日もグダグダと講義をサボるつもりだったんでしょ? まだ朝ご飯もろくに作ってないでしょ? 私、知っているんだよ
曲がりなりにも大学のと、友達として、野たれ死になんてされたらイ、イヤだからさ。致し方ないから、ご、ご飯を作りに来てあげたんだよ。どうせ今起きたばっかなんでしょ?
荻野さんは僕の部屋に上がり込もうとした。
ちょ、ちょっと待って!
僕は慌てて荻野さんの前に立ちふさがった。
え、ダメなの? もしかして私、拒否られた?
い、いや。そういうわけじゃないよ。むしろ食材を持ってきてくれたことに関しては非常にありがたいんだけど。そ、その……
まさか『宇宙人と同棲始めました』なんて言えるわけがないしなあ
食べ物は歓迎で、私はお断りってこと? 酷いなあ。傷つくなあ。……でも、なーんか怪しいなあ
……ハッ! まさか女を連れ込んでいるんじゃ!? 私以外の女を!?
……あの、悪いんだけど、あんまり大声を出さないでもらえないかな
ナニッ? 否定しない? ってことは、今、まさに部屋の奥で寝ているってこと?
……誰よ
え?
誰なの!? 今、部屋にいるのは誰なのよ! 同じ大学の子? それともわたしの知らない女? 見せて! 確認させて!
こ、困るよ。下手なことしたら地球が壊されてしまうんだ
誤魔化すならもっと上手い嘘をついてよ!
荻野さんは僕を押しのけて部屋に上がろうとした。
が、急に荻野さんの動きが止まった。
振り返るとラムダが僕の背後に立っていた。
本格的に起床した。朝食はどうなっダ?
え、えーと、ちょ、朝食はですね……
レイヤーかよ!
荻野さんはラムダを見るなり叫んだ。
そのビニール状の袋から食品の香りを感じるダ。これが今日の朝食か
ラムダは荻野さんのビニール袋に手を伸ばした。
やらねーよ!
荻野さんはラムダの手をバシッと払いのけた。
ラムダは不思議そうに目をパチパチと瞬いた。
我の食事ではなかっダのか? となると、地球は……
ハ、ハギノさん!
僕は慌てて荻野さんに頭を下げた。
お願いだからその食材を渡してくれないかな? 僕を……いや、人類を助けると思って
なんでそうなるの? これは、わたしが、君と、一緒に食べようと思って買ってきたものなの! こんな変なオタク女のためじゃない!
……お腹、減ってきダ
ハギノさん! この通り!
絶対にイヤって言ったらイヤ!
ハギノさん!
オギノだって言ってるでしょ! いい加減に私の名前を覚えてよ! こんなにキミのことを愛し……
なんだかオマエ、耳障りざわりダ
ピーーーーッ
ラムダは青い光線(ブルーレイ)を出した。
それは荻野さんの眉間を撃ち抜いた。
………………
ハギノさんは時間が止まったように黙り込んだ。
ちょ、え? な、何をしたの?
騒々しかったので、頭脳をいささか撹拌しダ
ラムダは無抵抗の荻野さんからビニール袋を取り上げた。
では、朝食の準備を頼む
トラブルもあったようだから、調理の猶予くらいはやるダ
ビニール袋の中には納豆、味付け海苔、
レンジで温めるご飯などが入っていた。
料理のできない僕でも簡単にできるメニューだった。
おかげで日本人の典型的な朝食が食卓に並んだ。
これはどのような方法で食べるんダ?
ラムダは納豆の食べ方を訊ねてきた。
醤油か専用のタレをかけて混ぜます。それをご飯に乗せて一緒に食べます
なるほど。発酵食品の類だな。撹拌させて錦糸を均等に行き渡らせるんだな。理解しダ
ラムダに納豆は敷居が高いかと思ったが、
意外にも淡々とした反応だった。
それより僕が気になったのは荻野さんの方だ。
・・・・・・・
あのー。脳を撹拌って、大丈夫なの?
意識をシェイクしただけで、生命維持には問題ない。例えるのなら、納豆を掻き混ぜただけのようなものだ
よくわからないけど、めちゃくちゃヤバくないですか、それ?
そうでもない。納豆は乱暴に掻き混ぜなければ豆までは崩れない。それと同じだ
全然わからないっ!!!
荻野さんは未だに一人で玄関に立ち尽くしたままだ。
帰っていいダ
ラムダが命令すると、荻野さんは黙って去っていった。
どうやら家に帰っていったらしい。
そういえば、朝食の味は……?
思えば今日はラムダの恍惚の表情を見ていない。
もしかしたら満足させられなかったのだろうか?
今日の朝食は目新しくはなかったが、逆にそれが良かっダ。朝食というのはこういうのでいいんダ。こういうので
そ、それは良かった
かくして今回も地球は滅亡を免れたのだった。
尊い友達の犠牲と引き換えに……
ハギノさん! 君のことは絶対に忘れないよ!
オギノ、ダ
――次回、
回転寿司は輪廻する