道中には、魔物との戦いの跡が残されていた。
消し炭か、氷漬けか、どちらにしてもぞっとする魔物の死体ばかりだ。
なのに、そばには一輪の花が置かれている。
勇者が冥福を祈って手向けたのだろう。
道中には、魔物との戦いの跡が残されていた。
消し炭か、氷漬けか、どちらにしてもぞっとする魔物の死体ばかりだ。
なのに、そばには一輪の花が置かれている。
勇者が冥福を祈って手向けたのだろう。
こいつらはきみを取って食おうとしたんだぞ
複雑な気分で南の森の道なき道を突き進むと、すぐに『勇者の墓』を見つけることができた。
こぢんまりとした遺跡だ。
中に入ってすぐ、呪文の起動音と魔物の奇声が耳に届いた。
戦闘中だ!
不気味な光を放つ甲冑の戦士が侵入者にじりじりと迫っている。
しらべる
ねんじる
となえる
壁際に追い込まれているのは勇者だ。
一生懸命に杖を振りかざし、火炎呪文、氷結呪文と起動する。
しかし、特殊な甲冑は熱も冷気も吸収してしまった。
道具屋の親父の言う通りだ。
この魔物は呪文に強い。
『力』の弱い勇者にとっては天敵である。
戦士は強力なはずの呪文をものともせず、錆びた剣を高々と振り上げた。
……!
勇者はびくりと肩を震わせ、光に満ちていた目を閉ざしかけてしまう。
させるか!
俺は構えた『鋼の盾』で、戦士を思い切りぶん殴った。
鎧を着ているにしては異様な軽さだ。
がらんがらん、と騒がしい音を立てて床を転がる。
予期せぬ乱入者に、勇者は大きく目を見開いた。
涙で煌めく瞳が俺の意志を、
しらべる
答えは一つだ。
やあ! 今日はいい天気だな!
俺は倒れた戦士に猛然と駆け寄り、『鋼の剣』を振り下ろした。
分厚い刃による一撃は甲冑をいとも容易くへこませる。
それで、手応えの軽い理由が分かった。
……中身がない!
鎧が不思議な力で動いているのだろう。
胸に刻まれた紋章が怪しいと踏んで、剣を真上から突き立てる。
すると、不気味な光がすっと消え、甲冑はばらばらになってしまった。
侮るなかれ、畑仕事の鍛錬……
初めての戦闘にほっと一息つく。
と、いきなり勇者が後ろから、
しらべる
!
しがみついてきた。
よっぽど怖かったのだろう。
無理もない。
得意とする呪文が通じず、危うく命を落とすところだったのだから。
俺は彼女が落ち着くのをじっと待つ。
その実、
う、うむ、役得……
ばくばくと鳴る心臓が彼女に聞こえやしないか、内心ひやひやしていたのだった。
しばらくして。
……!
冷静さを取り戻した彼女は俺からぱっと離れ、顔を赤らめた。
それで再びパニックに陥り、何度も何度も頭を下げるのである。
やあ! 今日はいい天気だな!
『気にするな』の意だ。
むしろ、勇者を助けることができて嬉しかった。
俺だって戦える。
旅立ちに際しての不安はどこにもなかった。
さて、彼女の奇妙なジェスチャーによれば、だ。
ここを訪れたのは呪文を継承するためだったらしい。
最深部のそれらしい祭壇に、勇者が跪く。
しらべる
すると、ぼんやりと半透明の人影が宙に浮かび上がった。
よくぞ来た、我が子孫よ。古来より続く長い戦いに終止符をうんたらかんたら……
この手のイベント特有のお硬くて長ったらしい話は割愛。
勇者に全てを伝えた御先祖様は、虚空へとフェードアウトしていった。
颯爽と立ち上がった勇者は、俺に振り返って、
しらべる
その瞳は何かを問いたげだ。
きみについていく!
そう言いたいのに、俺は言葉を紡ぐことはできない。
だけど――
やあ! 今日はいい天気だな!
……!
大丈夫。
意志は伝わる。
彼女は満面の笑顔で俺を受け入れてくれた。