村人の誰もが自分に振り分けられた仕事へ戻ろうとする。
しかし時折、村の出口を振り返っては溜息をつくのだった。
村人の誰もが自分に振り分けられた仕事へ戻ろうとする。
しかし時折、村の出口を振り返っては溜息をつくのだった。
俺もその一人で、苛立ち任せに鍬を振り下ろす。
クリティカル!
鍬はちょっとやそっとの『力』ではびくともしないほど、深々と大地に突き立った。
だめだ、放っておけない!
俺は村人Gに半ば掴みかかるような形で、何を話したか問い質した。
やあ! 今日はいい天気だな!
南の森に寂れた遺跡があるんだ。勇者の墓って噂だよ
Gは迷惑そうに俺の手を振り払った。
どうして村から一歩も出たことのないお前が遺跡のことなんて知っているんだ、という疑問はもはや野暮である。
意を決し、村長の家へと突撃する。
扉を勢いよく開けると、高齢の爺さんが驚いた表情で俺を凝視した。
さすが村長。
俺の強張った表情を察し、頬をきりりと引き締めた。
冒険者さん。こんな田舎だが、ゆっくりしていっておくれ
部屋の隅にある宝箱を開け、中に入っていた麻袋を俺に差し出す。
中身は金貨だ。
元々鍵はかかっていなかった。
『しらべ』れば難なく入手できていただろう。
にもかかわらず、彼女はそうしなかったのだ。
俺は二重に驚いて、すぐに受け取ることができない。
村長はしかと頷き、無理矢理に押しつける。
重い。
金貨である以上に、重かった。
感謝を伝えたいが、俺はそのための言葉を喋れない。
……!
老人の骨ばった手を握り、何度も頭を下げ、村長の家を飛び出した。
次に向かったのは、道具屋だ。
ぱくぱくと口を動かす俺を見て、親父はすっと目を細める。
勇者の墓に住み着いている魔物は呪文に強いって話だ。ここで装備を整えていきな!
俺が見繕うよりも早く、親父は『鋼の剣』と『鋼の盾』を装備させてきた。
畑仕事を続けてきたおかげで、俺の『力』は重装備を可能になるほど成長していたのである。
しかしこれ、高いんじゃないのか?
麻袋から金貨を取り出そうとした手を、親父が押し留めた。
厳つい顔を綻ばせ、ぐっと親指を立てる。
…………
……!
その意図を理解した俺は、しっかりと頷いた。
みんな、俺だから親切にしてくれるのではない。
あの女の子が心配なのだ。
魔物が世界を侵略しているとはいえ、この村にエンカウントは設定されていない。
世界滅亡イベントが発生するまでは、束の間の平和を満喫できるのだ。
だけど、彼女は違う。
村を出て、旅をしている。
神様に命じられているのかもしれないが、それでも並大抵の意志では道半ばで挫折してしまうに違いない。
そうか……
彼女はただの旅人ではないのだ。
きっと、伝説の勇者の末裔に違いない。
それで御先祖様の眠る墓の場所を探していたのだろう。
彼女に追いつくため、急いで村から出ようとしたところで肩を掴まれた。
セーニョ村へようこそ!
寂しげな表情の村人Aだ。
大丈夫だ。必ず帰ってくる。
俺はAの背中を力強く叩き返してやった。
やあ! 今日はいい天気だな!