07 古書店主の秘密(写真部side)

ヴィクトリアにあってから数日後の放課後――。
フレデリックはハイスクールの写真部の活動に参加していた。

なかなか良い構図じゃないか、グリーン君。若葉と空と木の幹のバランスが絶妙だ。
これは三分割構図といって、よく使われるが、同時に難しい手法でもあるんだ。君は初心者だと聞いたけれど、情熱はあるようだね。もっと色々なものを撮影してみるといい。

フレデリックは一年生の<グリーン>というコードネームの生徒に話しかける。
この写真部は変わっていて、部員同士はコードネームで呼び合うのが慣習なのだ。
他にも<スカーレット><ローズ>など、部員たちはそれぞれに珍妙な名で呼ばれている。
最初は面食らっていたが、若者とは得てしてそういうものなのかもしれない。

ありがとうございます。ただ俺、あまり休日にカメラを持ち歩きたくないから……どうしても撮る枚数は少なくなるんですけどね

そんなに気負わなくてもいいんだ。何気ない街角の風景も絵になるよ。被写体はどこにでも転がっているんだ。

ありがとうございます。なるほど、この間話したエンジェルストリート古書店なんて、まさにうってつけだな。スクープが撮れたら、モテるかも

ちょっと!グリーン。昨日の話を本気にしてる?さすがに未亡人を盗撮するのはいかんでしょ

軽口を叩くグリーンにちゃちゃを入れたのは、部長である<スカーレット>だ。
ツインテールの赤毛が印象的な少女で、部長という役職が見た目にもしっくりくる。

エンジェルストリート古書店?何か噂になっているのか。

ああ、今、校内はその噂で持ちきりなんですよ。エンジェルストリート古書店の窓に、夜ごと不思議な光が灯るんだって。
店内には古書店の女主人がいて、じっと古ぼけたランプを眺めていて……その光の中に、不思議な景色が広がっているんだって。

単なる噂とはいえ、みんな気になっているんです

君たち……それは本当なのか?

生徒たちを前に、フレデリックは目を見張る。

嘘なんて言いませんよ

ええ、グリーン君の言うことは、嘘ではありません

ああっ!もしかして、それ、プロカメラマンのフレデリック先輩が持ってる案件だったりします?

写真部の生徒たちに囲まれて、フレデリックは冷や汗をかく。

まいったな……ここで学生たちに感づかれたら面倒だ

いやいや、違うんだ。夜に君たちが出歩くのは危ないと思ってね。
そんな噂、気にしない方が身のためだよ

両手を胸の前で大きく振りながら、フレデリックは否定した。
生徒たちが不審そうにフレデリックを見つめていたことは、言うまでもない。

07 古書店主の秘密(写真部side)

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