05 ヴィクトリアの告白①(骨董店side)

あれはこの押し付けられたガラクタ……じゃなくて、骨董品の山を整理していた夜のことよ。私の目はなぜかこの古ぼけたランプに釘付けになったの。どうしてかはわからないわ。とにかく埃を拭って、火を灯してみた。この部屋で、たった一人で。そうしたら――

そこまで言うと、ヴィクトリアは遠い目をした。

何か、変わったことが起こったのですね

ええ、リディアの言う通りよ。ランプの光の中に不可思議な物体が現れて、それが部屋の壁に光を投げかけていた。そうしてその壁には――ランプの光が当たっている部分には、これまでどれだけ想像力をめぐらせても思い描くことの出来なかったような光景が映し出されていたの。もちろん、それ以外の影になっている部分には、部屋の中にある家具がぼんやりと浮かび上がっているだけで、変化は起こっていないのよ。ねえ、不思議だと思わない?

すみません。絵心がないので、上手く想像が出来ないのですが……

もう!あなた写真を撮るのが仕事でしょ。そんなに想像力が貧弱で、よく仕事が出来るわね

それを言われてしまうと、まったく反論の余地がありません

まあ良いわ。私は絵本作家でもあるから。描いてみるわね

ヴィクトリアはサイドテーブルに置かれたスケッチブックを手に取ると、その光の中に浮かんだ光景を懸命にスケッチし始める。

……

そこに描き出されたのは、とても奇妙な光景だった。
古代の地球――火山が噴火し、空には翼のある大きな生き物が飛び交っており、海には不気味な触手を持つ生き物が蠢いている。

すごいですね!

感嘆の声を漏らすフレデリックを、しかしリディアは睨みつけたのだった。

静かに!ヴィクトリアは集中して描いているのよ。邪魔をしないで

フレデリックはやれやれといった表情をして、それからまたヴィクトリアのスケッチブックへと目を向ける。

その次の絵は、砂漠の蜃気楼の向こうに、石造りの壮麗な神殿が現れた。
人気のないその神殿の奥にはしかし、ぞっとするような黒い影を持つ生き物が潜んでいる。

そしてまた次の絵は、知らない街並みだった。
駒形切妻屋根の家が立ち並び、中央部には暗い河が流れている。その異様な雰囲気に、ヴィクトリアは昔本で読んだアーカムの街を重ねた。

さすが絵本作家!芸術的だな……


ヴィクトリアの手は止まらない。
描き出されるのは、見たこともないような水場や高原だった。

きっとあれは、地球そのものより遥かに古い”旧支配者”たちの暮らすルルイエの水淵やレン高原よ

リディアはフレデリックに耳打ちする。
教えられた事実よりむしろ、リディアの顔が近づいたことに胸は高鳴ってしまう。
フレデリックはリディアのことが好きなのだった。

そうしてそこまでイラストを描き終えると、ヴィクトリアは顔を上げて二人を正面から見た。

これで、終わりよ

05 ヴィクトリアの告白①(骨董店side)

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