02 写真部の午後(写真部side)

エンジェルストリート五番街にある、ハイスクール。
放課後の写真部の部室で、部員たちはにこやかに談笑していた。
闊達そうな女子生徒が自らの膝に乗せて愛でているのは、丸々と太った白猫の<アブ>だった。

そういえば、アブってどういう経緯でそんな名前になったんですか?もっと親しみやすい名前にすればいいのに。太っちょなんだし

線の細い少年が、女子生徒に尋ねる。

知らないの?アブは狂えるアラブ人アブドゥル・アルハザードから取ったのよ

まさか!餌が欲しいときだけ擦り寄ってくるこの強欲猫の由来が!?

ちなみにランドルフの名前は夢の国の番人であるランドルフ・カーターから取ったのに

ええ!散歩の時、リードを振り切って走り出すランドルフの名前の由来もそんな御大層なものだったんですか!!

ちょっと!猫が餌を求めるのも、犬が走り出すのも強欲ではなく本能よ

ちくしょう!だからって、感謝の気持ちくらい見せてくれてもいいのに

あら、それは無理な相談というもの。あなたの言う通り、彼らは畜生なのだもの

……もうやめましょう、スカーレットとグリーン。そんなことより、いいシャッターチャンスがあるの。しかもあなたたちの大好きな、クトゥルフ神話の遺物かもしれなくてよ

おっとりとした物腰の女子生徒が、横から口を挟む。

ええ!?なんですかローズ先輩。それ、めっちゃ気になるんですけど

あなたたち、エンジェルストリート古書店は知っているわよね?

ああ、私の家とは逆方向だからあまり行かないけれど、参考書の品揃えがいいっていう噂は聞いているわ

その通り。そのエンジェルストリート古書店の窓に、夜ごと不思議な光が灯るんですって

つまり……店主が夜なべして手袋でも編んでいるんですか?

不思議だと思わない?スカーレット

ローズ先輩。僕をスルーしないでください

ふふふ。つっこまれたいならもっとボケのクオリティをあげることだよ、グリーン君。
なかなか興味深い話じゃないか、続きを聞かせてくれたまえ、ローズ君

ええ、もちろんよ。私とドイツ語の授業で一緒の子がね、その噂をたしかめるべく、日も落ちてからエンジェルストリート古書店へ向かったらしいの。そして通りからお店を覗いた。……何が見えたと思う?

なんでしょう?もったいつけるぐらいだから、普通じゃないんですよね……

異形の者たちがダンスを踊っていた……とか。どう?当たってる?

どちらも違うわ

おっとローズ。私のボケをスルーしないでくれたまえ

ボケのクオリティを上げろって言ったのは、スカーレットでしょ

うっ……それを指摘されるとぐうの音も出ない

……まあとにかく。その子はこっそりお店から店を覗いた。そうしたら店内には古書店の女主人がいて、じっと古ぼけたランプを眺めていたというの。そのランプが壁に投げかけた光の中には、不思議な景色が広がっていたらしいのよ

不思議な景色って?

それはわからない。だから、私たちでたしかめに行かない?

だ、大丈夫ですか、それ……?

グリーンは戸惑いの声を上げたが、ローズは不敵な笑みを浮かべる。

なかなか面白い話ね。写真部一同、シャッターチャンスのために立ち上がりましょう

02 写真部の午後(写真部side)

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