01 奇妙な依頼(骨董店side)

<大切な思い出、お預かりします。>

奇妙なメッセージが記されたボードが、フレデリックを迎える。

あいつ。相変わらずだな

フリーカメラマンである彼は、幼馴染でこの店の女主人であるリディアに呼ばれ、ここを訪れたのだ。
何やら、奇妙なランプの買取について悩んでいるらしい。

頼りにされるのも、悪い気はしないけれど

エンジェル・ストリートの一角に佇む<ルルイエ骨董店>。
赤茶色の煉瓦の外壁には緑色の蔦が絡まり、なんとも歴史を感じさせる風情である。
フレデリックはそっと店の扉を押し、中へ入る。
入れ違いに出てきたのはベビーカーを押す女性だ。
何気なく異様な気配を感じて、そっと様子を見てみる。
彼女の押すベビーカー、その中に寝かせられているのは、紛れもなく年代物のビスクドールだった。

……何だ、あれ……

汗ばむ肌が、一気に冷える。

一体、どうしたっていうんだ?

挨拶するのも忘れて、フレデリックはリディアに訊ねた。

家族の不幸があって家を空けていた間、娘さんを預かっていたのよ

振り返ったこの店の女主人であるリディアは、涼しげな顔をしている。

娘?もしかして、保育サービスを始めた……とか?

まさか。違うわ。あなたも見たでしょ

もしかして、あの人形が

その通り。あの方にとっては大切なお嬢様なのよ

……病んでいるんだな

あら、あのお客様にとってはそれが娘なのよ。私は依頼を受けるだけ

透けるように白い肌、茶色の髪に金茶色の瞳のリディアは、その見た目の儚さとは裏腹に、頑丈な精神を持っていた。

まったく、変わり者のリディアらしいよ

フレデリックは笑ったが、リディアは複雑な表情をする。

ところで、相談ってなんだ?こんな調子じゃあ、困ったことに巻き込まれたのは想像がつくけれど

ええ、ごめんなさいね、フレデリック。実は……奇妙なランプの買取依頼が来ているの

奇妙なランプ?

ええ。依頼主は古書店の女主人にして絵本作家のヴィクトリア。親戚の骨董店の主人が亡くなって、遺品の書物を買い取ることになったんだけど……家族から大量の骨董品まで買い取るように言われて、困っているみたいなのよ。私もそういう経験はあるから、断れなくて

リディアは骨董店の経営を一人でしている。
依頼主から、取引範疇外の品物まで引き取るよう押し付けられることも、よくあるのだ。

ああ、リディアも昔、骨董品を買い取りにいって子供の絵本やおもちゃや衣類まで押し付けられたことがあったもんな

そう。だから古物商は横の連携が大切なの。前に私がヴィクトリアに助けてもらったから、今度は私が助ける番。それはいいの、そういうものだから。でも、ひとつだけ問題があって……それが例のランプ

どんなランプなんだ

心あたりはあるの。でも今は詳しいことは言えないわ。引き取りは今週末。どう、フレデリック。ついてきてくれないかしら?

リディアは企むように微笑みかける。

ああ、わかった。ついていくよ

フレデリックは、まっすぐリディアを見つめて、笑顔を作ったのだった。

01 奇妙な依頼(骨董店side)

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