ある日のことだ。
 背後から『布の服』の裾を、

しらべる

 ちょいちょい、と引っ張られた。
 作業を止めて振り返ると、『旅人の服』を着た女の子が立っていた。

勇者

…………

 綺麗な髪の、清楚な感じだ。
 ここではお目にかかれない可憐さに、ちょっと見惚れてしまう。
  おずおずと俺を見上げながらも、瞳には固い決意を宿していた。

村人F

こんな田舎によくまあ……

 と、注意深く観察すれば、女の子が手にした杖はそんじょそこらの武器屋で売ってるような、ただの『樫の杖』ではない。
 では何かと訊かれても、しがない村人たる俺には知る由もない。

勇者

…………

 不安顔の彼女にようやく気づいた俺は、慌てて笑みを取り繕った。

村人F

やあ! 今日はいい天気だな!

 女の子はぺこりとお辞儀をして、

勇者

しらべる

 俺の反応を『しらべ』た。

村人F

何故、黙っているのだろうか

村人F

ううむ

村人F

……ああ!

 思わず手を打ってしまう俺だった。

 彼女はセリフすら神様に与えられていないのだ。
 代わりに『しらべる』コマンドでコミュニケーションを図っているらしい。

 しかし、悲しいかな、俺が話せる言葉はただ一つ。

村人F

やあ! 今日はいい天気だな!

 これだけだ。
 何度か話しかけるとセリフが変わる、非常に羨ましい人間がこの世のどこかには存在しているらしいが、それは少なくとも俺のことではない。

勇者

…………

 彼女はしゅんと肩を落としたものの、

勇者

しらべる

 お辞儀だけは決して忘れない。

 そして、畑の近くを通りかかった村人Cへ『しらべ』に向かうのだった。

村人F

…………

 俺は畑仕事に戻りながらも、女の子のことが気になって視線で追いかける。

勇者

しらべる

『しらべ』て、

勇者

…………

 歩き回って――

 ものすごく不器用な女の子だと思う。

村人F

だけど

 こうして畑を耕し続ける俺よりも、ずっと自由だ。

 間もなく、女の子は村人Gから何か情報を引き出せたらしい。

勇者

……!

村人F

ぐはっ!

 綻んだ笑みに、俺の心臓は鷲掴みにされた。
 その華やかさといったら、即死呪文級である。

 俺が悶え苦しんでいるとも知らず、彼女は道具屋を訪れる。

勇者

しらべる

親父

いらっしゃい!

 親父は鍛冶屋も兼業している、村で特別な存在だ。
 彼が何故、冒険者用の武器や防具を売っているのかはよく分からない。
 きっと、神様にしか分からない。

 女の子は旅人だ。
 魔物と戦うための武器を買いに来たのだろう。

勇者

……! ……!

 ところが、彼女の細腕では『鋼の剣』を持ち上げることができない。

村人F

『力』のステータス、上がってないんだな

親父

…………

 親父が女の子の肩に手を置き、首を横に振った。

勇者

…………

 女の子はすっかり落ち込んだ様子で村を去る。
 そのとき俺と目が合って、

勇者

しらべる

 寂しげな笑顔を残していった。

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