ある日のことだ。
背後から『布の服』の裾を、
ある日のことだ。
背後から『布の服』の裾を、
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ちょいちょい、と引っ張られた。
作業を止めて振り返ると、『旅人の服』を着た女の子が立っていた。
…………
綺麗な髪の、清楚な感じだ。
ここではお目にかかれない可憐さに、ちょっと見惚れてしまう。
おずおずと俺を見上げながらも、瞳には固い決意を宿していた。
こんな田舎によくまあ……
と、注意深く観察すれば、女の子が手にした杖はそんじょそこらの武器屋で売ってるような、ただの『樫の杖』ではない。
では何かと訊かれても、しがない村人たる俺には知る由もない。
…………
不安顔の彼女にようやく気づいた俺は、慌てて笑みを取り繕った。
やあ! 今日はいい天気だな!
女の子はぺこりとお辞儀をして、
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俺の反応を『しらべ』た。
何故、黙っているのだろうか
ううむ
……ああ!
思わず手を打ってしまう俺だった。
彼女はセリフすら神様に与えられていないのだ。
代わりに『しらべる』コマンドでコミュニケーションを図っているらしい。
しかし、悲しいかな、俺が話せる言葉はただ一つ。
やあ! 今日はいい天気だな!
これだけだ。
何度か話しかけるとセリフが変わる、非常に羨ましい人間がこの世のどこかには存在しているらしいが、それは少なくとも俺のことではない。
…………
彼女はしゅんと肩を落としたものの、
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お辞儀だけは決して忘れない。
そして、畑の近くを通りかかった村人Cへ『しらべ』に向かうのだった。
…………
俺は畑仕事に戻りながらも、女の子のことが気になって視線で追いかける。
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『しらべ』て、
…………
歩き回って――
ものすごく不器用な女の子だと思う。
だけど
こうして畑を耕し続ける俺よりも、ずっと自由だ。
間もなく、女の子は村人Gから何か情報を引き出せたらしい。
……!
ぐはっ!
綻んだ笑みに、俺の心臓は鷲掴みにされた。
その華やかさといったら、即死呪文級である。
俺が悶え苦しんでいるとも知らず、彼女は道具屋を訪れる。
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いらっしゃい!
親父は鍛冶屋も兼業している、村で特別な存在だ。
彼が何故、冒険者用の武器や防具を売っているのかはよく分からない。
きっと、神様にしか分からない。
女の子は旅人だ。
魔物と戦うための武器を買いに来たのだろう。
……! ……!
ところが、彼女の細腕では『鋼の剣』を持ち上げることができない。
『力』のステータス、上がってないんだな
…………
親父が女の子の肩に手を置き、首を横に振った。
…………
女の子はすっかり落ち込んだ様子で村を去る。
そのとき俺と目が合って、
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寂しげな笑顔を残していった。