ドラゴンと出会ったあと、
なぜか僕は魔獣と一切、遭遇しなかった。
もちろん、野宿をしている間も、
寝ている間にも。
それはあの水晶玉のおかげなのか、
それともなにか別の理由があるのか。
原因は分からない。
ただ、いずれにしても約2日かかって
無事に僕はシアの城下町へ到着したのだった。
本当は故郷の村へ帰りたいけど、
あんなに盛大に送り出されてしまっては
そうもいかない。
だから可能な限り、
これからも旅をしてみるつもりだ……。
ドラゴンと出会ったあと、
なぜか僕は魔獣と一切、遭遇しなかった。
もちろん、野宿をしている間も、
寝ている間にも。
それはあの水晶玉のおかげなのか、
それともなにか別の理由があるのか。
原因は分からない。
ただ、いずれにしても約2日かかって
無事に僕はシアの城下町へ到着したのだった。
本当は故郷の村へ帰りたいけど、
あんなに盛大に送り出されてしまっては
そうもいかない。
だから可能な限り、
これからも旅をしてみるつもりだ……。
さすがシアだ。
この地域で最も大きな町だから、
すごく賑やかだなぁ。
大通り沿いには市場が出て、
行商人や客たちがごったがえしていた。
あちこちから威勢のいい声が飛び交っている。
食べ物や衣服、小道具、工芸品――
いずれも種類が豊富で、
大抵のものは取り引きされている感じだ。
僕の住んでいた村とは比べものにならない。
不意にボクのお腹の虫が大きな声を上げた。
そういえば、村を出てからマトモな
食事をしていない。
山道では野草と湧き水で
お腹を満たしていただけだし……。
お腹……減ったなぁ……。
でもおカネは1ルバーも
持ってないし……。
ため息をついて、
市場を離れようとした時だった。
路地の方から騒がしい声が聞こえてくる。
いつもなら厄介ごとに
巻き込まれたくないから、
さっさとその場から離れようとするはず――
でもこの時、
なぜか僕の足は何かに導かれるかのように
そちらへと向いていたのだった。
………………。
………………。
………………。
そこにいたのは、
僕と同い年くらいの女の子。
そして彼女の行く手を遮るように、
やんちゃそうな町男と冒険者風の男が
立っていた。
あ……
女の子を見た瞬間、
なぜか僕の心臓が大きく震えた。
一目惚れとか可愛いとか、
そういう感情じゃない。
もっと別の、何か不思議な感覚……。
………………。
ねぇねぇ、可愛い子ちゃん。
俺たちと遊ぼうよぉ!
そうそう、
楽しませてあげるぜぇ~?
……興味はない。
さっさと去れ。
それとも――
痛い目に遭いたいのか?
クズども。
そんなこと、言わずにさぁ!
いいじゃん、遊ぼうよぉっ!
いいねぇ、
そういう気の強そうなトコ!
無理矢理にヤっちゃおっかな♪
やれやれ……。
忠告してやったというのに、
愚かな者どもだ。
……目障りだ。
女の子はニヤリと口元を怪しく緩めると、
腕や体を動かして、
何かの動作をとろうとした。
――なんだかすごく嫌な予感がするっ!
まっ、待てぇーっ!
気がつくと、
僕は男たちと女の子の間に割って入っていた。
なぜそんなことをしたのか、
僕にも分からない。
ただ、おそらくそのまま
放っておくわけにはいかないって
強く感じたからなんだと思う。
っ!?
女の子は僕と目が合った瞬間、
小さく息を呑んだようだった。
そのまま呆然と立ち尽くしている。
一方、男たちは敵意むき出しの目をして
僕を睨み付けてくる。
こ、怖い……ッ!
なんだ、テメェは?
邪魔すんじゃねぇよ!
お子ちゃまは引っ込んでな!
あ……その……。
なんでこんなコト、しちゃったんだろう。
足の震えが止まらない……。
その女の子、
嫌がっているみたいですし……。
精一杯の勇気を振り絞って、
出た言葉はそれだけだった。
我ながら……情けないけど……。
っせぇんだよ!
クソガキっ!!
うわっ!!!
冒険者風の男に肩を突き飛ばされ、
僕は後ろによろけた。
そしてそのままペタンと尻餅をついてしまう。
あははははっ!
なんだ、コイツ?
冒険者みたいな格好してるクセに
単なる見かけ倒しかよ?
このままボコボコに
しちまおっか?
それはそれで楽しいかもな。
男たちはニヤニヤしながら
僕に歩み寄ってくる。
そしていきなり――
がはっ!
へたり込んで身動きの取れない僕に、
冒険者風の男は思いっきり蹴りを入れてきた。
モロにお腹にヒットして、
一瞬だけど息ができなくなる。
痛い……苦しい……。
もし胃の中に何かが入っていたら、
確実に吐いていたと思う。
続いて、やんちゃそうな町男は
僕の頭を踏みつけたまま前後に転がした。
あ……ぁぐ……。
きゃはははっ!
たーのしー!!
調子に乗ってんじゃねぇよ、
クソガキが。
クズどもめ。
同族を痛めつけて何が面白い?
女の子は冷めたような口調で言い放った。
途端に男たちの視線が女の子へと向く。
なんだと?
テメェも
痛い目に遭わされたいのか?
恥を知れっ!
――カッ!!!
女の子が目を見開くと、
その周りから突風のようなものが吹いた。
空気が電撃のようにビリビリと震え、
見えない何かの力によって
男たちを弾き飛ばす!
うぎゃっ!
かはっ!!
男たちは近くの家の壁に背中を強く打ち付け、
そのまま地面へとずり落ちた。
一様に表情は苦痛に歪み、
歯を食いしばっている。
今のは魔法だろうか?
でも呪文(スペル)の詠唱をしているようには
思えなかったけど……。
その後、
女の子は冷たい瞳で彼らを見据えつつ、
ゆっくりと近付いていった。
そして足下でうずくまる男たちを、
ゆらりと見下ろす。
……死ね。
女の子は開いた右手を男たちに向け、
動きを静止させた。
直後、
その手のひらには黒い炎が浮かび上がり、
薄気味悪く燃えさかり始めた。
ヒッ!
男たちの目は恐怖に染まり、
全身を小刻みに震わせていた。
完全に戦意を喪失している。
――いけない!
彼女は本気で2人にトドメを刺す気だ!
やめろぉおおおおおおぉーっ!
僕は無我夢中で叫んでいた。
心の奥底からぶつける、強い感情。
喉が潰れそうになるくらいの大声。
魂まで抜け出ちゃったんじゃないかと
錯覚するほど、
全身から想いを放った。
すると次の瞬間――
なっ!?
女の子の動きは止まり、
黒い炎も一瞬で消えた。
その手は麻痺したかのように
小さく震えている。
…………。
女の子はユラリとこちらへ振り向いた。
驚愕しているかのような表情で、
僕を真っ直ぐに見つめてくる。
ヒィーッ!
わぁああああーっ!
女の子の隙をつき、
男たちはその場から一目散に逃げていった。
その場には僕と女の子だけが取り残される。
よかっ……た……。
あれ……体が……おかしい……?
安心した途端、
なぜか全身から力が抜けていった。
意識もだんだん……遠の……いて……。
次回へ続く!