観客の歓声。
不思議とそれは俺の耳に入らなかった。
確かに山岸はゴミだが同級生だ。
それなのに、なにも感じなかった。
俺はその自分の変化に驚いていたのだ。
そして俺に起こった不思議な現象。
俺の頭はパンク寸前だった。
俺は自分の腕を見た。
日本語でも英語でもない。
黒いルーン文字……いやよくわからないが、ゲームで出てくるような文様が腕に走っていた。
まるでDQNが意味もわからずに入れた外国語のタトゥーのようだ。
普通だったら意味はわからない。
そのはずだ。
だが……
観客の歓声。
不思議とそれは俺の耳に入らなかった。
確かに山岸はゴミだが同級生だ。
それなのに、なにも感じなかった。
俺はその自分の変化に驚いていたのだ。
そして俺に起こった不思議な現象。
俺の頭はパンク寸前だった。
俺は自分の腕を見た。
日本語でも英語でもない。
黒いルーン文字……いやよくわからないが、ゲームで出てくるような文様が腕に走っていた。
まるでDQNが意味もわからずに入れた外国語のタトゥーのようだ。
普通だったら意味はわからない。
そのはずだ。
だが……
『煉獄』
なぜか俺にはその文字が読めたのだ。
煉獄……?
地獄のことだっけ?
俺は疑問に思いながらいつものようにロッカールームへ足を向けたのだ。
俺がロッカールームに行こうと廊下に出ると細川がいた。
俺はなんだかモヤモヤとした気持ちだったのだが、無理に笑顔を作り、手を振った。
それを見た細川が俺の方に走ってきた。
そんな細川に俺は、
細川勝ったぜ!
ガッツポーズをキメた。
よし今回は格好つけられた。
武士は食わねど高楊枝ってヤツだ。
山岸のことを考えている暇なんてないのだ。
解放されたら他のセクションに仲間を助けに行かなければならないのだ。
細川は俺に近くまで来るとジャンプ、俺の体へ飛び込んできた。
俺は慌てて細川を受け止める。
軽い。
いや、俺の腕力が強くなったのか。
よくやったタカムラ!褒美を遣わす!
細川はそのまま俺の顔を両の手で挟む。
なんだ?
次の瞬間、雌豹は俺の唇を奪った。
ななななな!
そのあまりの衝撃に同級生を殺したことなど俺の頭から吹っ飛んだ。
呆然とする俺。
手から力が抜け、するんと細川は床に降りた。
なにせ2年も女の子と接点がなかったのだ。
格好悪くてもしかたがないだろ?
な?
俺の唇を解放した細川は笑顔で一言。
タカムラ。彼女いるか?
いません!
周りに女が全くいません!!!
い、いないよ……
俺、なんでそこでどもる!
かっこわるいぞ俺!
これは勝者への報酬だ。
意味なんてない!
細川が俺を相手にするはずがないだろ!
冷静になれ!
ところが俺の顔はどんどん真っ赤になっていく。
なに意識してるんだ!
俺はバカか?
うぐわ!
これは新たな黒歴史の誕生の瞬間なのか!!!
俺、頼むから冷静になってくれえええええ!
そんな俺に細川はとんでもないことを言ったのだ。
じゃあ彼女になってやる!
へ?
ポカーンと呆ける俺。
耳がジンジンと音を鳴らし、心臓がバクバクと音を立てていた。
たぶん……このとき俺は生まれてから今まで中で一番頭の悪そうな顔をしたに違いない。
そんな俺の背中を細川はバンバンと叩く。
どうだ、うれしいか?あはははは!
……う、うれしいです
なんで敬語で話してるの俺ー!
しっかりしろー!
おっし、んじゃ決定な!いやさあ、私も男とつきあったことないから、こういうの良くわからんけどヨロシクな!
う、うん!
おっし!んじゃ私は整備(しごと)あるから。またな!
台風のように細川は去って行った。
俺に彼女ができた。
……らしい。
ところで……女の子とつきあうって具体的にどうすればいいですか?
かなり真面目に。
煉獄ってのは、地獄と天国の中間にある魂を炎で浄化する場所のことだ
俺の暴れたあとが点々と残るロッカールーム。
その真ん中で吉田がどや顔で言った。
この野郎は頭悪そうな顔してやがるクセに専門は外国の文学だ。
頭よさそうに見えるぞ!
つまりだ。腕の文字の意味は『神に代わって悪を清める炎』って意味とも言える。
ずいぶん上から目線だな
だな。そしてだな……もしかすると……
吉田は顎に手を当てて考え込んでいた。
なんだよ?
いやな……山岸は不器用かつ幼稚で頭が悪い。
一つの試合で上手く行った手を死ぬまで使い続けるはずだ。
だからアイツはいつまでも補欠だった。
鬼かお前は。
死体蹴りはやめろ。
つまり?
一種類しか知らなかったんじゃないか?
煉獄の使い方を……
煉獄はもっと深い使い道があるということか?
ああ
ありえる。
大いにありえる。
問題はどうやって訓練するかだな。
それにしても……
死体蹴りは品が良くないぞ
俺がそう言うと吉田が頭をかいた。
……俺も反省してるんだ。
俺が思っているよりお前は大人だった。
現実と願望を秤にかけてシビアな現実の方を選んだ。
それが正解かどうかは俺にもわからんがな。
とにかくお前は選択をした。
だが……
だが?
山岸は俺が思っているより何倍もガキだった。
現実を理解しようとせず、プライドだけが肥大した15歳のガキのまんまだった。
俺はお前に土下座して許しを請うて終わりだと思っていた。
それを見たお前がどうするか?
それでお前の元を去るかどうか決めようと決めていた。
お前は合格だよ。
俺は試されてたのか……
人生は全てが試練だ。
試してるのが神なのか、他人なのかは別としてだがな。
言い終わると吉田は苦みのある笑顔を俺に向けた。
吉田の野郎、嫌なツラしてやがる。
まるで奥歯を抜いたような顔だ。
それは自分に言ってるのか?
ああそうだよ。
俺は落第だ。
どうやら俺は自分が思ってたよりも教師には向いてなかったみたいだ。
教え子が愚かさの果てに死ぬなんてな……この世の関節が外れている。
ホレイショー。
……あれかマイアミの刑事か?『このウジ虫めっ!』って言うヤツ
うわああああああああん!
もう一人の教え子もバカだった!!!
吉田が号泣した。
泣くことねえだろ。
泣くなよ。
知ってるよ!
シェイクスピアだろ。
ああクッソめんどくせえ。
ギャグも通じねえでやんの。
俺たちがロッカールームを出ようとすると、あの野郎がいやがった。
サイガだ。
俺たちの奴隷登録抹消の話だろう。
野郎が俺たちと手を組んだ理由はわかっている。
だがそれは俺たちには関係ない。
もし断ったらこの場で生まれてきたことを後悔させてやる!
だが野郎の次の行動は俺の予想を完全に上回っていた。
サイガは俺に跪いたいたのだ。
なんだそれは?
不機嫌な俺にサイガは俺に顔を上げず話し始めた。
タカムラ卿。
私めは先代領主の長男サイガであります。
うん。
知ってた。
だからどうした。
つか『卿』ってなんだ?
俺は情報の詰め込みすぎで呆けた。
ところが、俺が呆けているとサイガはとんでもないことを言ったのだ。
新たな領主となったタカムラ様に忠誠をお誓い申し上げます
はい?誰が?
俺が聞くとサイガの野郎は俺を指さしやがった。
え?
俺が領主?
できるわけないじゃん。
バカなの?
聞いてねえぞテメエ!
いや、予想はしていた。
ほら、山岸のバカ見ればわかるじゃん。
ここって領主殺すと入れ替わるのな。
だがマジで来やがった!
マジで来やがったのだ!
よ、吉田!
そうだ吉田に丸投げしよう。
大人だから俺より上手くやるに違いない。
無理ッ!
お前大人だろうが!!!
無茶言うな!
俺は教師だぞ!
大学時代も塾の講師だったし、コンビニバイトすらやったことないわ!
いーばーるーなー!!!
そう言うと俺は吉田の胸倉を掴む。
もちろん吉田も俺の胸倉を掴み返した。
醜いつかみ合いをする俺たち。
無理だって!
俺はこの二年間喧嘩しかしてねえんだぞ!
そして俺たちは目で……アイコンタクトで語り合った。
そうだ!
サイガに丸投げしようと。
サイガ……丸投げOK?
一応聞いてみる。
親がやってたのだからある程度わかるだろう。
と、思いたい。
もちろんですよ。
タカムラ卿。
そう言ってサイガはへらへら笑う。
この野郎!
最初からそう言われるのわかってやがったな。
かと言ってサイガに丸投げすること自体には異論はない。
俺はしかたなく別の苛立つ原因を指摘することにした。
気持ち悪いからいつものようにしろ!
はいはい。
了解ですだ旦那様あーっと。
話がまとまったところで紹介したい人物がいる。
やはりサイガはいきなり態度を変えやがった。
俺がそう言い出すのも予想の範囲内ってことだな。
それにしても、サイガは俺を領主にしてどうするつもりだ?
自分が成り代わるのか?
あとでいろいろと尋問しなければ。
疑問で頭がいっぱいになりながらも、俺たちはサイガのあとをついていったのだった。
感想ありがとうございます。
次回もがんばります!