アナウンサー

これは!
領主様の超能力(サイ)が炸裂しました!
はたして黒騎士は無事なのか!!!

タカムラ

無事だバカ!!!

山岸

こ、こ、こ、殺してやる!
絶対殺してやる!!!

山岸が起き上がった。
これが山岸の能力。
前領主から奪った発火能力だ。
俺たちを売った男子はその金で前領主に謁見、その場で闘いを挑んだ。

領主を倒したのは菊池。
すぐにナイフを出すせいで高校生にまで恐れられたヤンキーだ。
今でもバカどものリーダーをやっているのだろう。
そしてなぜか菊池たちは山岸にこの力を譲渡し別のセクションへと旅に出たのだ。

山岸

俺をバカにしやがって!
殺してやる!
殺してやるよ!!!

実にボキャブラリーが貧困だ。

アゼル

こ、殺してやる!!!
殺すぞテメエ!!!!

山岸は殺すを連呼している。

アゼル

 殺れるもんなら殺ってみろ。

粋がる俺に再び温度計が異常を知らせる。
俺はバックステップし安全圏に逃げる。

次の瞬間、またもや温度計が警報を奏でた。
俺は横に飛ぶ。

タカムラ

ああクッソ!
キリがない!!!

山岸の奥の手は遠隔攻撃。
近寄るのはリスクがある。
このままではじり貧だ。

アゼル

とうとうアレを使うときが来たか……

俺は足の収納ボックスを確認する。
細川から貰ったあの武器を使う時が来たのだ。

温度計からからまたもや警報。

タカムラ

よし今だ!!!

俺は山岸の攻撃をかわしながら収納ボックスのロックを解除。
そして奥の手、細川からもらった武器を抜いた。

それは金属製の武器だった。
シリンダー、マズル、ハンマー。
男らしさをアピールする無骨なデザイン。
日本のデパートでは売っていないアイテム。
それは拳銃だった。
こいつはいわゆるリボルバーだ。
大きすぎるので火薬式ではないらしい。

俺は拳銃の引き金を引いた。
オートエイミング、自動照準なんて便利なものはない。
俺の感覚で狙った。

火が噴き出し、重い炸裂音が響く。
弾丸は回転しながら突き進んだ。

次の瞬間、山岸の足下、その床が弾けた。

山岸

ひいいいいッ!

山岸が悲鳴を上げ山岸のアゼルが尻餅をついた。

タカムラ

あー……やっぱり外した。

実戦で拳銃を撃つのは初めてだ。
いや試射はしたのだが、その時も止まった的に当てるのですら難しかった。
警察官や軍人だって的に当てる練習をするのだ。

タカムラ

そりゃ一朝一夕には行かないわな。

だが、俺の攻撃は予想以上に効果を上げた。
山岸は俺が反撃できるなんて思いも寄らなかったようだ。
ヤツは急に態度を変えたのだ。

山岸

ひいいいッ!
や、やめてくれ!
お、俺が悪かった!!!

よほど拳銃が怖かったのだろう。
アッサリと謝罪を口にする山岸。

タカムラ

あちゃー

と俺は顔を押さえる。

俺は忘れていたのだ。
完全に忘れていた。
弱いものには強く、強いものには媚びへつらう。
それが山岸という生き方なのだ。
俺に負ける。そう自覚した瞬間、山岸は命乞いに作戦をシフトしやがったのだ。
同じ日本人として情けなさがこみ上げ、名状しがたい嫌悪感が俺を支配していった。
簡単に言うと

タカムラ

なにこのクズ……俺ドン引き

ということだ。

山岸

あああああああ。
卑怯だぞ。
言ってくれよ!
そんな武器を隠してたなんて……

どこの世界に奥の手を教えてやるヤツがいるんだ?
というか、銃があってようやく同じ条件じゃね?

アゼル

なあ、友達だろ?
許してくれよ……なあ?
なあこの通りだ!!!

山岸のアゼルが土下座をする。

タカムラ

バカかコイツ……

俺があきれ果てていると通信が入る。
サイガだ。

サイガ

タカムラ! 殺せ! 早く殺すんだ!!!

その声はいつもの余裕はなく、かなり焦っていた。
どういうことだ?

タカムラ

おい、サイガ!
お前なに言って……

サイガ

俺の親父が殺されたときも同じなんだ!
勝てないとわかった瞬間にだまし討ち。
それがヤツらのやり方だ!!!

え?
親父?

タカムラ

ちょっと待て!
じゃあお前は……

そうか!
ようやくわかった!
貴族をぶっ殺せ!
そう言ったお前の狙いは……

山岸

死ねやこの虫けらあああああああああッ!!!

その時だった。
俺に隙が出来たと思ったのだろうか。
山岸ががばっと起き上がった。

温度計が警報を出す。
そうか!
命乞いをする間、ずっと溜めてやがったのか!
大きい炎を出すために時間稼ぎをしてやがったのか!

絶体絶命。
炎が俺を襲う。

だが俺はその時、微笑んだ。

アゼル

ようやくだ!!!

今までのは戦いにすらなっていなかった。
血肉沸き躍る闘争はこの瞬間始まったのだ。
俺の全身にある凶暴な力。暴力。
それが俺に動けと語りかけた。

アゼル

ああそうだ。
俺はヤツを倒すのだ。
己の力で倒すのだ!

俺は力に溺れることにしたのだ。

警報が鳴り響く。
すぐに逃げなければならない。
それが正常な判断だ。
だが俺は逆の選択をした。
野郎は一対一の神聖な戦いを愚弄し続けた。
だが最後には例え卑怯でも戦士になった。
それでいい。

タカムラ

戦士として葬ってやる。

俺は山岸に向かって獣のように駆け出した。
警報音がピークに達する。

俺はそこで大きく跳んだ。
鳥よりも速く。自由に。

俺の背後で全てを焼き尽くす死神の奏でる爆音が鳴り響いた。
俺の背中がフィードバックで焼けていき、危険を感じた俺の心臓の音がドラムのようにビートを刻む。

だが面食らったのは山岸の方だ。
俺が爆風を背に受けて飛び込んできたのだから。

タカムラ

うらああああああああああああぁッ!!!

俺は山岸へ飛び込みながら、山岸のアゼルのツラ目がけて肘の鉄槌を打ち下ろす。

爆風の加速は思ったよりも威力があった。

俺のアゼルの腕、その装甲が一発でひしゃげる。
殴られた山岸の方はもっと被害が大きかった。
顔部分が大きくひしゃげていた。
アレはカメラまでいっただろう。
山岸の方はフィードバックで顔が凄いことになっているだろう。
想像したくもない。

山岸のアゼルの外部スピーカーから呼吸音が響いた。
次の瞬間、山岸のアゼルがヒザから崩れ落ちた。
俺はうつぶせになった山岸のアゼルに近寄ると、その潰れた横っ面を踏みつけた。

アゼル

降参しろ。
これが最後の警告だ。

山岸の野郎が戦うことを選択した。
そのことを俺は評価した。
意外に根性あるじゃんコイツ。
だから殺さないでやろう。

山岸

も、もちろん降参しますうううう!

靴の裏もお舐めします。
そう言わんばかりの態度だった。
その哀れな姿に俺はようやく吉田の言ったことを理解した。
ここで怒りにまかせて山岸を殺す必要はない。
得るものなどなにもないのだ。
これでよかったのだ。
俺は無言で足をどけ踵を返した。
さーて。寝よーっと……


そう思った瞬間、急激な温度上昇を知らせる警報が鳴る。

死ねえええええええ!

豚の叫び声がした。
ですよねー。
大方の予想通り、山岸はもう一度不意打ちをすることにしたのだ。

俺はさっと山岸の方を向くとまるで機械のように引き金を引いた。
正直言ってなんの感情も湧かなかった。
山岸のアゼルが弾丸の威力で跳ねた。
俺もさすがにこの距離じゃ外さない。

タカムラ

もういい加減にしとけ。
お前じゃ俺には勝てない。
同級生のよしみだ降参したら許……

だが野郎には俺の言葉は届かなかった。
山岸は俺の言葉を遮って喚き散らした。

山岸

あああああああああ!
て、て、てめえ! 本当にやりやがったな!
殺す! 殺してやる!!!

お前がかばった女たちもだ! 探し出して殺……

俺は引き金を引いた。
全ての弾を打尽くすまで。

俺は最後通牒を突きつけた。
山岸はそれを正しく理解してなかった。
それだけだ。
野郎は女子のことさえ言わなければ生きていられたのだ。

確かに山岸を殺す必要はない。
だが蚊に殺す必要がなくとも自分に飛んできたら潰すだろ?

山岸は動かなくなった。
俺の放った弾丸は胸のコックピットを撃ち抜いていた。

全てが終わると客席から歓声が上がった。

pagetop