その翌日。
僕は流矢の家の前で意識を取り戻した。
その翌日。
僕は流矢の家の前で意識を取り戻した。
流矢の家……ということは、本格的に藍里は流矢の身体を奪いに来ているのか……
だが、違和感がある。なぜまたも、藍里が流矢の自宅前まで来たときに人格が交代したのか。
どちらにしろ、流矢は今日の早朝から夜ヶ峰先輩の病院に行くと言っていた。もうここにはいないだろう。
ここにいてもしょうがない。学校に行くか……
学校に着くと、またも僕は意識を失った。
次に僕が意識を取り戻したのは、昼休みの教室だった。
どうやら藍里は、おとなしく授業を受けていたらしい。
問題は、あれだ。
……あった。藍里には見つからなかったみたいだな
僕は鞄の底に隠しておいた、夜ヶ峰先輩のスマートフォンを見つける。
藍里がこれを見つけたら処分してしまう可能性があったので、隠しておいたのだ。
とにかく、この中になにかヒントがあれば
僕はスマートフォンのテキストアプリを開き、それらしきファイルを見つける。
リンクの『能力』について
そのタイトルのファイルを開き、夜ヶ峰先輩のメモを見る。
そこには、『能力』について先輩が気づいたことが箇条書きで書いてあった。
・この『能力』は相手の意識を覗くことが出来る。
・ただし、『能力』使用中は相手も自分の意識を覗くことが出来る。
・射程距離は、およそ4m程度。ただし、複数の相手に同時に使うことは出来ない。
うん、ここまではこの間先輩から聞いた通りの内容だ。
問題はこの先だ。
最近、私の『能力』が弱まっている。これは喜ばしいことだ
箇条書きの後に、先輩の独白のような形の文章が書いてあった。
おそらくこの『能力』は、私の疑念や恐怖によって生まれる。私が他人に対して、なにか疑いを持ったり、他人に嫌われることを極度に恐れると、この『能力』に頼るようになり、それと同時に強化される
――他人に嫌われることを恐れることにより強化される?
私はあの人を信用し切れていなかった。だから心の中を覗きたいと願い、『能力』を身につけてしまった。この『能力』は疑念と恐怖の象徴だ。相手を自分につなぎ止めたいというエゴの象徴だ。だから、この『能力』が弱まるのは喜ばしいことだ
相手を自分につなぎ止める。これは藍里が僕にやったこと、そのものだ。
そういえば……
私は怖かったんです。ずっと、私には友達がいませんでした。何かを言ったら他人の機嫌を損ねてしまうのではないかと、他人が攻撃してくるのではないかと。そういうことばかり考えていたんです
藍里も僕と出会ったとき、そんなことを言っていた。
おそらく夜ヶ峰先輩の推測は当たっている。藍里は他人への恐怖で『能力』を身につけたんだ。
私が立ち直れたのは香澄のおかげだ。彼には本当に感謝している。いずれこの『能力』も私から消え去るだろう。その時、私と香澄はやっと対等な関係になれるはずだ。そして、あの人のことを……受けれ入れられるはずだ
夜ヶ峰先輩は過去を乗り越えた。流矢の助けもあったのだろうが、自分で過去と向き合ったのだ。
だが、藍里は未だ僕という存在に縛られている。僕をつなぎ止めようとしている。
そしてそのことに、何人もの人間を巻き込んでいる。
このまま中途半端な関係でいるわけにはいかない。決着をつけなければならない。
だが、どうする。どうすれば藍里を僕から解放できる。
藍里の『能力』は強化されている。このままでは……
待て、何で藍里の『能力』は強化されたんだ?
肉体は失われたが、僕は藍里の中にいる。藍里はまだ、僕を失ってはいない。
確かに僕が意識を保てる時間は短くなっている。だから藍里は僕を失う恐怖に怯えているのか?
いや、『能力』が強化されたのは中倉さんの一件の時より前、まだ僕が意識を保っていたころだ。
どういうことだ? 藍里は無意識に僕を失うことを恐れている?
お前と神楽坂に、大した違いはないように見えるぜ
私には、君も新入生もあまり変わらないように思うよ
お前等はお互いのために生きている。なのに、お互いの意志はまるで尊重していない
この『能力』は、疑念や恐怖によって生まれる
おかしいよお前……まるで、お前は神楽坂のためだけに存在しているみたいじゃねえか……
…………
そうか……そういうことか。
今、僕の意志は固まった。必ず藍里を救い出さなければならない。
この、バカげた徒労から救い出さなければならない。
そのためには――
流矢、力を貸してくれ
僕はかつての自分を利用することになるかもしれない。
流矢くんと夜ヶ峰先輩の言葉を受けての、意味深な大護くんの決意……!
藍里ちゃんの野望を阻止したい、けれど藍里ちゃんに幸せになって欲しい葛藤、御見事です!!